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『燃え尽き症候群』が患者と病院にもたらすこと

📖 文献情報 と 抄録和訳

医師の燃え尽き症候群とキャリア関与および患者ケアの質との関連:系統的レビューとメタ分析

📕Hodkinson, Alexander, et al. "Associations of physician burnout with career engagement and quality of patient care: systematic review and meta-analysis." bmj 378 (2022). https://doi.org/10.1136/bmj-2022-070442
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[背景・目的] 目的は、医師のバーンアウトとキャリア・エンゲイジメントや患者ケアの質との関連をグローバルに検討すること。

[方法] 解析対象は観察研究170件・医師23万9,246人で、医師の燃え尽き症候群と医師のキャリアおよび患者ケアの質との関連性を評価し、ランダム効果モデルを用いてプールされたオッズ比(OR)を算出した。研究選択の適格基準は、医師のバーンアウト(圧倒的な感情的疲労感、脱人格化と定義される仕事からの冷笑や離脱の感情、非効率性や個人的達成感の少なさを含む)とキャリアエンゲージメント(仕事満足、キャリア選択後悔、離職意思、キャリア開発、生産性損失)、患者ケアの質(患者安全インシデント、低い専門性、患者満足)との関連を評価する観察研究。

[結果]

■ 医師の燃え尽き症候群と医師のキャリアとの関連
・医師の燃え尽き症候群がキャリアに及ぼす影響については、仕事の満足度低下との有意な関連が示された(OR 3.79、95%CI 3.24~4.43、I2=97%、73件、P=0.002)。
・また、キャリア選択の後悔(同3.49、2.43~5.00、97%、16件、P=0.004)、離職意図との有意な関連も認められた(同3.10、2.30~4.17、97%、25件、P<0.001)。
■ 医師の燃え尽き症候群と患者ケアとの関連
・患者の安全に関わるインシデント(OR 2.04、95%CI 1.69~2.45、I2=87%、35件、P=0.04)、プロ意識の低下と有意な関連が示された(同2.33、1.96~2.70、96%、40件、P<0.001)。
患者満足度の低下も高い傾向にあったが、有意差はなかった(同2.22、1.38~3.57、8件、75%)。
■ 医師の燃え尽き症候群と患者安全に関わるインシデントにつながるリスク
・年齢20〜30歳の医師(OR 1.88、95%CI 1.07〜3.29、P=0.030)および救急医・集中治療医(同2.10、1.09〜3.56、P=0.018)で高かった。
・年齢20〜30歳の医師は多変量回帰分析でも有意に高かった(同1.55、0.94〜2.56、P=0.083)。
■ 医師の燃え尽き症候群とプロ意識低下のリスク
・50歳以上の医師で最も低く(同0.36、0.19〜0.69、P=0.003)、研修医で最も高かった(同2.27、1.45〜3.60、P=0.0006)。
・また、勤務医で高く(同2.16、1.46〜3.19、P<0.0002)、特に救急医・集中治療医で高かった(同1.48、1.01〜2.34、P=0.042)。
・多変量回帰分析でも50歳以上の医師は有意に低く(同0.45、0.26〜0.76、P=0.003)、勤務医は有意に高かった(同3.82、1.84〜8.00、P<0.001)。

[結論] このメタアナリシスは、医師の燃え尽き症候群が、主に医師のキャリア離脱や離職につながり、次に患者ケアの質を低下させることによって、医療機関の機能低下や持続可能性に関連するという説得力のある証拠を提供するものである。医療機関は、専門分野横断的に、特に救急医療や研修中の医師の燃え尽き症候群を軽減するためのエビデンスに基づく戦略の実施に、より多くの時間と労力を費やすべきである。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

CSとESという言葉がある。

■ CS constomer satisfaction:顧客満足度
■ ES employee satisfaction:従業員満足度

多くの病院において、『CS第一。患者様第一。』が理念として語られる。
だが、それが引き起こしていることは「臨床現場レベルの職員への圧力増大」ではないだろうか。
臨床現場レベルの職員は、以下のような力学の中で生きている。

🔸中枢からは「もっと質を上げて、量をこなせ。患者第一なのだから、君らの労苦などは知らんですわ」
🔸患者からは「もっと質を上げて、良い医療を提供してください。良くなりたいんです」

つまり、板挟み状態になりやすいのが、臨床現場レベルの職員だと思う。

そんな医療現場レベルの職員が、「燃え尽き症候群になったらどうなるか?」を明らかにしたのがこの研究だ。
結果として、
①医師の離職やアクシデントの発生など、病院経営に対して負の影響を及ぼす
②患者ケアの質を下げたり、プロ意識が低下したりすることで患者に対しても負の影響を及ぼす

すなわち、中枢、患者が圧力をかけてまで求めていたことは、結局、圧力をかける事では成し遂げられていない。

川越胃腸病院の望月智行先生は、以下のように述べている。

ES無くしてCSなしが信条。
どんなに経営が厳しい状況にあっても常にESを原点として理念を実践するという基本姿勢が職員の意欲を生み出し、病院との間に強い絆が育まれたと思います。

医療において、価値を生み出しているのは『臨床現場』であることは事実だ。
そこで患者に治療がなされるのだから。
だからこそ、臨床現場レベルの職員が、生き生きしているか、泣いているか、は大事だ。
中枢に求められるのは、火力を増すためにガンガン空気を送り込むこと、ではなくて、薪を足してあげたり、暴風を防いだり。
火を追い立てるのではなく、火を守ること、ではないだろうか。
それが、結局のところ生き生きした病院につながる気がした。

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