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セラバンド運動時の代償的筋収縮:姿勢によるか、上肢運動によるか?

▼ 文献情報 と 抄録和訳

インストラクション・キューイングが弾性抵抗運動時の上肢の筋活動と運動学を変える

Reece AA, Parkinson JE, Cudlip AC, Page P, Holmes MWR. Instructional Cueing Alters Upper Limb Muscle Activity and Kinematics During Elastic Resistance Exercise. Am J Phys Med Rehabil. 2021;100(12):1176-1183.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

✅ ハイライト
■ 既知事項:弾性抵抗は一般的なリハビリテーションツールであるが、姿勢の変化が上肢のアウトカム指標にどのような影響を与えるかについては、特に猫背姿勢と矯正姿勢を比較した場合には、ほとんど知られていない。
■ 今回明らかになったこと:本研究では、身体の姿勢が異なる場合の弾性抵抗運動における筋活動と可動域の違いを定量化した。これらの知見は、臨床家がリハビリテーションプログラムにおいて、筋活動と可動域を最適化するために活用することができる。

[背景・目的] 本研究の目的は,手がかりなし,猫背姿勢,矯正姿勢で肩の弾性抵抗運動を行ったときの上肢の筋活動と運動量の違いを定量化することである。

[方法] 15名の健常者が、3つの体位(無手がかり、矯正姿勢、猫背姿勢)で4つの肩関節弾性抵抗運動(片側屈伸、両側屈伸、外旋、タオルを使った外旋)を行った。4つの肩関節運動とは、(1)外旋(エクストバンド)、(2)肘の内側と体幹の間にタオルを挟んで外旋(エクストタオル)、(3)片側の肩を90度に屈曲(ユニフレックス)、(4)両側の肩を90度に屈曲(バイフレックス)であった。上肢の16の筋肉の表面筋電図を測定し,運動学的データを収集した。二元配置反復測定分散分析により,姿勢と運動の違いによる筋活動と運動学の違いを検討した。

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✅ 図1:胴体と右上肢の表面筋電図とモーションキャプチャー(A)。参加者は,一定のリズムでERエクササイズを行った.4つのエクササイズのうち、片側の肩の屈伸(左)と外旋(右)を含む2つのエクササイズが実演されている(B)。

[結果] 運動と姿勢の相互作用は,ほとんどの筋で認められた。筋活動の相互作用は,調査した16筋のうち14筋で認められ,そのうち8筋では片側屈伸姿勢で最大の活動が認められた(P < 0.0001)。猫背姿勢では、頸椎伸展筋に88.4±5.1%MVCまでの活動が生じた。猫背姿勢で屈曲・外旋運動を行うと、肩甲上腕骨の可動域が拡大したが(P < 0.0001)、その差は最大可動域と最小可動域の間で5度未満であった(85.8度 vs 81.0度)。

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✅ 図2:三角筋前部,三角筋中部,三角筋後部,前鋸筋,大胸筋(胸骨),大胸筋(鎖骨),棘上筋,棘下筋のエクササイズと姿勢における筋活動(%MVC)(ラベル付き)。筋内の有意な事後差異は文字で示し、文字を共有しない棒は有意に異なる(P < 0.05)。

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✅ 図3:右頸部伸展筋,左頸部伸展筋,上部僧帽筋,中部僧帽筋,下部僧帽筋,広背筋,上腕二頭筋,上腕三頭筋のエクササイズと姿勢の違いによる筋活動(%MVC)(ラベル表示あり)。筋内の有意な事後差異は文字で示し、文字を共有しないバーは有意に異なる(P < 0.05)。

[結論] 姿勢は筋肉の活性化と運動学に影響を与え、猫背の姿勢は筋肉の活性化と可動域を増加させた。手がかりなしの条件と手がかりありの条件では、ほとんど差がなかったことから、臨床家の時間は、テクニックを確実に習得することよりも、猫背の姿勢を避けることに集中したほうがよいのかもしれないと考えられた。

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

この研究の結果は、解釈が難しいと思う。
「筋収縮が増大すること」が良いことか、悪いことか、わかりにくいからだ。
著者らは、筋収縮が増大した「猫背条件」を悪いものとして解釈している。
その理由は以下のようなものだろうと思う。

・エクササイズ時には選択的な筋収縮が望ましい
・選択的な筋収縮とは、ターゲット筋が収縮し、その他はサイレントな状態
・猫背では、ほぼ「すべての筋」が筋活動増大している
・すなわち、姿勢保持による代償的な筋収縮であり、悪いもの

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もう1つ、この研究は「理論と実証の違い」を示唆していると思う。

理論的な正しさは、大小を持ちにくい。
二元論になりやすい。
だからこそ、飛躍につながりやすい。

そこで、必要な営みがある。
『研究』である。
実験的な正しさは、大小関係を明確にする。
プライオリティをアラートしてくれる。
だからこそ、妥当な実践に繋がりやすい。
それだから、貴重なのだ、研究データが、論文が。

今回の場合、
大きな船の舵が『姿勢』で、
船の甲板上からオールで漕ぐことが『上肢の使い方』だった。
その両方ともが、理論としては正しかったのだ。
姿勢も筋活動に影響しそうだし、上肢の使い方も筋活動に影響しうるだろう。
その理論的な正しさを、実証的な正しさが磨いた。
幹と枝葉を明らかにした。

プライオリティーの明確化と実践妥当性の保証。
これが実証・実験のもつ特権だろう。

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