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表現と思考の旅 演劇/小説/アート

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表現と思考の旅 演劇/小説/アート

最近の記事

恋しさとせつなさと情けなさと

旅が終わった後の週は喪失感が余りにも大きい。なんとか現実世界で生き延びていくため、また次の旅のことを考える。こうして定期的に非日常へ逃げ込むサイクルにどっぷり浸かっていくのだ。 職場で新人教育係となって、空いてる時間は新人の面倒をみる感じになっている。教えること自体が嫌なわけではないけど、仕事への納得感だったり職場への愛着みたいなことは一旦放棄して職場側の人間として教えていくことはやはりムズムズする。 同時に自分の中の何か尖っていた部分がすっかり無くなってしまったような気が

    • 天橋立から城崎温泉へ

      前から訪れてみたかった京都の中でも日本海側のエリア。重い腰をあげてようやく初訪問。 前日に舞鶴までたどり着いたので、舞鶴で朝食を探す。 7:30からやっている喫茶店なのだが、夜はお酒もでるみたい。店主の方の雰囲気はまさにスナックのママといった感じで、一見さんも暖かく迎えてくれた。店に入った時点では自分一人だけだったが、8時あたりから常連さん達が続々入ってきて“おはようー”と現地のイントネーションで会話が始まる。(京都市内から離れているがここも京都弁なのか??) 夜にきても楽

      • 共感するのは不適切ですか?

        イプセンの「人形の家」を読み始めたタイミングで舞台の告知が目に入ったので、はじめに文庫で読み次に舞台で観ることにした。 本を読んだ時は、自分のこれまでの(現在と隣接した)経験と重なる部分があって終盤のノラには痛快さを覚える感じだった。鳥籠の外の世界を自分の目で見てみること、これまで当たり前のように受け入れてきたものを疑ってみること。(デカルトのいう方法的懐疑はこういうことなのか) 鳥籠から抜け出そうとしたノラに共感しただけに、女性解放とともに語られる戯曲ではあるのだが、もっ

        • 思うところのある季節に(映画「日日是好日」)

          ふとしたタイミングで無性にこの映画を観たくなることがある。自分は変化を横目で見る側の人間なんだなと気づいた日、今回はそんなタイミングだ。 初めて武田先生の茶道教室に向かい玄関の前でドギマギしている大学生の典子と美智子。鑑賞する自分自身もまさに二人のような具合で、毎回武田先生のところにお邪魔するような感覚で見てしまう。樹木希林さんはまだここで生きているのだ。 何度か観ているうちに本編再生と同時に涙腺が崩壊するようになった。何の涙なのかよく分からないが、ピーンとした緊張からの

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          フエ散策〜ベトナム統一鉄道に乗車

          ベトナムは南北に細長くて2大都市ホーチミンとハノイの距離は約1700km。下関から東京経由で青森に行くような距離感だ。この2都市間は鉄道(ベトナム統一鉄道)で結ばれているが新幹線のような高速鉄道ではないので全て乗り倒すと35時間くらいかかる。今回は丸4日間でベトナムを縦断するスケジュールにしてしまったため、ホーチミンから中部のフエまでは飛行機(わずか1時間半)で向かいフエからハノイの間を鉄道で移動することにした。 日本でいう京都奈良にあたる古都のフエ。前日の夜に到着し、朝か

          フエ散策〜ベトナム統一鉄道に乗車

          ベトナム南の都市ホーチミンへ

          コロナ禍を経て4年半ぶりの海外渡航。 到着ロビーに着いた瞬間から“シムカーシムカー”と声が聞こえる。メイクをしながら気怠そうにSIMカードを売り捌くこのゆるい感じ、これを待っていたのだ。 東南アジアにはマレーシア、タイ、ミャンマーに続いて4カ国目。騒がしくも活気があり、ある意味素直で生きているようなこの雰囲気が好きだ。 7時間のフライトでくたくたなのでまずは空港で朝飯を探す。 よくわからず買ったサンドイッチ。ビーフ、ポーク、チキンから選べたのでポークにしてみた。スライスし

          ベトナム南の都市ホーチミンへ

          懐かしいという言葉

          昔の友人ともSNS上では広く薄く繋がっているし、あの当時熱心に聴いていた曲もサブスクでいつでも聴ける。時間も場所も関係なくあの時の記憶にアクセスできてしまう現代の環境は、時系列に並んだ記憶をふやけさせて平面化してしまう気がする。うまく表現しにくいが、5年前も10年前も今現在という地点に同居しているイメージだ。 VRで昔の建築を再現するように、これからは既に無くなったものですら仮想上で今に存在してしまう時代になるのだろう。この流れを長期的にみてみると、懐かしいという言葉はやがて

          懐かしいという言葉

          今年観た映画5選

          今年読んだ本5選を書こうと思ったのだが、そもそも読んだ本の絶対数が少なくて断念。 そんなわけで今年観た映画で5本選んでみる。 ※今年公開の映画に限らない ◯目の見えない白鳥さん、アートを見にいく その名の通り目の見えない白鳥さんという方に密着したドキュメンタリー。この絵は何が描かれているのか同行者に説明してもらうのが白鳥さんの鑑賞スタイル。見るって何、そもそも自分はちゃんと見ているのか?とあれこれ考えたくなる作品。 ◯生きる LIVING 古き良きロンドンの雰囲気が最高。

          今年観た映画5選

          スーツが似合う人

          10月以降気分が落ち込みやすい傾向にある。このモヤモヤした状況を解決したくて所謂自己啓発本を何冊か手に取ってみたものの、今の自分に一番応えてくれるのはどうやらオードリー若林の言葉らしい。 スーツ姿の男性を見てああいう風にはなれないから別の道を探すしかなかったと彼はある番組で話していた。電車の中で押し固められて1秒でも長く寝ようとするスーツ姿の人達を見て、こういう風にはなりたくないと思った新卒1年目の自分。今ではマスクがないと恥ずかしいくらい口を開けて寝てしまうこともできるよ

          スーツが似合う人

          第七官界再考

          尾崎翠の小説「第七官界彷徨」の舞台化公演が終わって早2週間。第七官とは結局何だったのか改めて考えてみることにしたい。 ※書いているうちに気づいたが主人公・町子にとっての第七官ではなく、あくまで自分にとっての第七官の解釈ということを前置きしておく。 ベタだけど笑、ユーミンの歌詞のように幼少期の頃でないと見えない感覚、世界があるのだと思う。いわゆる妖怪(座敷童とか)も子供だけ見える設定というのはここからきているのだろう。しかし、大人になるにつれて様々な知識、経験を積んでいくとそ

          第七官界再考

          素敵なおじさんへの道

          自分がおじさんにはなりたくないと思ってしまう理由の一つがガラガラペッだ。 駅でトイレに駆け込む時どこからともなく、おじさんのガラガラペッが聞こえてくる。時によってはオエッ!も追加で聞こえてくる。痰を吐き出したいんだろうけど、音を聞くだけでも嫌悪感を抱かせる。 ガラガラペッに出くわす度に、どうしておじさんはこんな汚いことをするのだろう、自分はおじさんになってもこんなことはしないようにしようとつい考えてしまう。 実際にはどうだろうか。おそらくガラガラペッをする人たちは無意識のうち

          素敵なおじさんへの道

          変わらずに変わる

          年一ペースで会っている大学時代の友達と仕事終わりに飲みに行った。 就職後しばらくして彼は地元の関西に転勤した。地元に戻るタイミングで籍を入れて、去年は関西まで結婚式にも出席したところだ。 「妻の(友達同士だから実際はあだ名なのだが)親戚付き合いの悪さに参ってて笑」 なんて話を聞かされる一方で、自分は特に何も変わってないとの報告一つで、終始聞き役となっていた。 まあ、実際は何も変わってないなんてことはないのだ。ただ、特別誇らしげに語るような変化ではないし、やることが変わったとい

          変わらずに変わる

          映画「生きるLIVING」鑑賞メモ

          原作はおろかあらすじをまともに読めないまま鑑賞。 古き良きロンドンの魅力がダダ漏れしているのがまず一点。英国紳士とはなんぞやというのもよく描かれていて、脚本はカズオイシグロだから“日の名残り”とリンクするのだろうか。(数十ページで断念してしまっているので実際はよく分からない) 事前情報がほとんどなかったけど個人的にはすごく楽しめた。 ウィリアムズが若い(元)部下の女性マーガレットにもう長くないと打ち明けるシーン、親族であるまいししどろもどろ過ぎないか??というのが第一印象。

          映画「生きるLIVING」鑑賞メモ

          こぬか雨(5/4八代〜三角)

          この日から天気は下り坂で雨が降ったり止んだりしている。雨の日の旅はどうしても行動が制約されてしまうのだが、雨天でも楽しめることを考えてみる。 もっとも今日は移動がメインなので電車に乗れてしまえば問題はない。 今回通るルートは九州新幹線と並走しているエリアのため、在来線は各駅のみで冷遇されている。(ストレートに向かって5時間弱?) ルートの半分は第3セクターの肥薩おれんじ鉄道なのだが、ここを走る車両がなかなかキツい。垂直90度の座席に背中、腰が圧迫される。2時間苦痛に耐えて

          こぬか雨(5/4八代〜三角)

          埠頭を渡る風(5/3鹿児島〜枕崎)

          今日は鹿児島市からスタート。最初の目的地はJR最南端の終着駅・枕崎駅。 とはいっても枕崎まで向かう電車はものすごく限られるため、まずは途中の指宿まで。 10時過ぎに指宿に到着。次の電車までは1時間半ほど時間がある。港の方まで行ってみて時間を潰す。 鹿児島に着いて感じるのはめちゃくちゃ風が強いこと。天気には幸い恵まれて5月にして夏休みかという景色なのだが、がらんと物寂しい港と無防備にも吹き付けられる風から常夏の海という雰囲気は感じられない。 あえてBGMをつけるのならユーミ

          埠頭を渡る風(5/3鹿児島〜枕崎)

          対話についてあれこれ(平田オリザ著「対話のレッスン」)

          日本語には対話の概念がないという筆者の指摘に興味を抱いて読み始めた。 筆者の定義で“対話”とは、他人と交わす新たな情報交換や交流としている。それに対して“会話”は、仲間内でのお喋りで、他者にとって有益な情報はほとんど含まれていない。“対話”は他者と自分は異なることを前提としていて、異なったお互いの価値観を擦り合わせていくことでもある。 他者の価値観を押し付けられたり、相手を変えさせようと話すことは犠牲を生み出しかねない。“対話”は対等な言葉として自分自身の価値観も他者の価

          対話についてあれこれ(平田オリザ著「対話のレッスン」)