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オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その27



27.   はじめてのおつかい



また私は調子に乗って学校に行かないようになってしまった。
今度のは本物だ。


ドラムの上手さでもない。
ベースラインの綺麗さでもない。
ヴォーカルのルックスでもない。
私のパフォーマンスだけが認められたのだ。


私が居ない決勝のステージを見たら
あの先生はショックだろうな。


そんな自信過剰な妄想をしていた。


私は私を特別な人間だと思っていた。
みんなと同じように。




学校はもう収穫を得たので満足だ。
やっぱり夜は起きておきたい。


そしてそのまま朝刊を配って
朝飯を大量に食べてから
ビールを飲んで寝る。
これだな。


生活スタイルがすっかり夜になった。


朝刊が終わってからお昼まで寝る。
これで6時間ほどはたっぷりと寝られる。



お昼に起きれば買い物をしたり
ギターを弾いたり本を読んだりも出来る。


これでどんどん作曲していこう!
夕刊までの間の3時間で。


そして睡眠もバッチリだ!
夜もパワフルだ!
好循環だ!


おっと、もう14時半だ。
もう夕刊を配りに行かなければ。



夕刊の配達中でも妄想に耽る。
朝刊の時は特にだ。
朝などは新聞配達員以外の全人類が寝静まっているので
妄想の邪魔はされないが、夕刊は違った。
話しかけられるのである。


「ごくろうさま!大変ねぇ。学生さん?」

「はい。学校には行ってない学生です。」

「えっ?」

「いや、学生です。」

「そう。ご飯とか食べてるの?こんなので良かったら持ってって。」


お菓子やら饅頭やらミカンやらを頂くことは多い。


「ありがとうございます!いただきます!」


「お茶入れようか?あ、配達中だったわね。」

「はい。まだ続きがありますので、これで失礼します。」

「気を付けて!」


女の人ならまだマシである。
これが男性でしかもおじいさんとくると
かなり厄介である。


しかも夕刊は日曜日以外、毎日ある。


つまり、佐久間さんの家は
集金の日だけ行くのではなく、
毎日、朝と夕方の配達で来ているのである。


一日に人の家に二回も行くことがあるだろうか。


毎回、声が掛からないことを祈りながら
そっと音を立てずに自転車を停めて
新聞をポストに入れる。


「おー、真田か。ちょうど良かった。頼みがある。」


「ぬぉわっ!」


「どうした?」


「いえ、いきなり後ろから声を掛けられるとは、思い及ばず・・」


「江戸から来たのか?私は買い物の帰りだ。」


「あ、はい。おかえりなさいませ。」


「ちょっと買ってきてもらいたいものがあってな。
まあ入れ!茶でも飲んでいけ。」


「いや、まだ配達が残っております。」


「なら、さっさと配ってからまた来ればいい。
もう少しじゃないか。」


自転車の前カゴに残っている残りわずかの夕刊を見られてしまっている。


「では、すぐに戻って参ります。」


「うむ。気を付けてな。」


これからは道順を変えて
はじめのほうにしよう。


10分ほどで残りの夕刊を配り終えて
佐久間さんの家に戻った。


ベルを押すまでもなく、
庭に居た佐久間さん。


「ただいま戻りました。」


「おう、入れ。茶を入れよう。」


「お邪魔します。」


家の作りが良い木で出来ているので
家の中に入ると、なぜか落ち着く。


自分の長屋の木の部屋とは
また違う落ち着きを感じる。


森の中に入ったかのよう。


まろやかなお茶が舌の上に乗る。


「ごちそうさまでした!」


「おう、そうだ。そのやかんに水を入れておいてくれ。」


「はい。」


「水は庭の井戸の水だ。」


「井戸!」


「そうだ。井戸を使ったことがないのか?ならば教えてやろう。こっちだ。」


ガラッと窓を開けてそのまま庭に出た。


突っかけが無かったので私は玄関に回って
自分の靴を履いて佐久間さんの所まで行った。


「こっちだ。」

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1,770字
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真田の真田による真田のための直樹。 人生を真剣に生きることが出来ない そんな真田直樹《さなだなおき》の「なにやってんねん!」な物語。

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