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オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その25



25.   路線変更



自分の部屋の蛍光灯を見つめ続けている。


もちろん寝ながら。


・・・・・・・・何時間経ったのだろう。


私は今後の人生について
ぼーっと考えていた。


音楽で成功するかもしれないし
しないかもしれない。


カナダに来年行けるかもしれないし
行けないかもしれない。


このまま新聞を配達し続けるかもしれないし、
しないかもしれない。



なんで東京に来たんだっけ?
本当にただ遠い方を選んだんだっけ?


違う!


私はただ楽しそうな方を選んだんだ。
楽しそうでワクワクしたから来たんだ。


その通りになっている。


素晴らしい人達が新聞屋さんにいる。
素晴らしい仲間がいる。



しかし今、
お酒でそれをなくしてしまいそうだ。


もう飲みに行くのはやめよう。
チョッパー大野とは付き合うのをやめよう。



次の日、
晩御飯を食べ終えて翌朝の朝刊のチラシを整えていたら
チョッパー大野が二階から降りてきた。


「おう!もう終わりか?飲み行くぞ!
それともまたケンカでもしに行くか!
なんてね!」


「いや、今日はやめときます。」


「えっ?」


ものすごい顔をしている大野先輩。
断ったのは初めてだった。


「なんだよ?どっか具合でも悪いのかよ。」


「いや、毎日飲み過ぎですしね。
そろそろ真面目に学校に行こうと思うんですよ。
なんかコンテストがあるらしいですし。」



確か学校の行事予定にそう書いてあった。



「学校か。つまんねえ奴ばっかだろ?学校なんて。
まあいいや。わかった。んじゃまあ頑張れよ。
また飲み行こうぜ。」


「はい。」


あっさり一人で飲みに行ってしまった先輩の
行く先をありありと想像しながらチラシを叩いていたら
優子さんが食堂から出てきた。


「真田くん、最近大野と仲いいね。大丈夫?
あいつ面倒なことばかり言って来ない?」


「いや、大丈夫ですよ。おごってくれますし。」


「んー。あんまり飲み過ぎたらダメだよ。
まあ真田くんはハタチになってるからいいかも知んないんだけど・・・
その・・・二年間ってあっという間だからさ。なんていうか・・・」


「そうですね。そろそろ真面目に学校にでも行きます。
後、絵でも描きますよ。」


「絵?あれ?真田くんって音楽じゃなかったっけ?」


「この前、配達してたら新聞の広告に絵描きセットってのが
あったんですよ。なんか三角のイーゼルってやつと絵の具とキャンバスの
フルセット!か、買っちゃいまして・・・」


「えっ?買ったんだ。絵描けるんだね!」


「いえ、これからです。」


「あちゃー。んー、でも、がんばって!」


いつでも前向きで明るくて励ましてくれたり心配してくれたり
決して否定もせず文句も言わない女神のような人。


俄然、頑張る気になってきたぞ!
うおー!やるぞ!


その時、大西さんがお店に入ってきた。
40歳の超ベテランでいつもチラシを機械で作ってくれている人。
年が離れすぎていて存在を忘れていた。


何も言わずに食堂に入っていく。


なんてタイミングだ。
今後の人生を考えている時に
良い見本が現れた。


キャンバスを新聞のように灰色に塗るか
七色の虹のように仕上げるか。


そんな岐路にいる。


私のキャンバスはまだ真っ白だ。


学生のフィルターにかけ直そう。
まだ間に合う。



私は人生の路線を変更した。


明日学校か。
いや、その前に朝刊の配達だ。
配達が終わるのが6時で、
朝飯食べたら7時。
支度して8時。
そこから駅に向かって電車に乗って・・・
ギリギリじゃないか!


トントントンと、軽い足音が聞こえた。


「あ、真田くんだ、ひとり?」


由紀ちゃんだ。
お風呂の道具を持っている。
久しぶりに話しかけられた。


「あ、うん。ひとり。」


「今日は飲みに行かないんだね?」


「はい。明日こそは学校に行こうかと思いまして!」


「そうかそうか。ウンウン。あ、お風呂行ってきまーす!」


「いってらっしゃい!」


なんてことだ!
いきなりだ!
なんてツイてるんだ!


心を路線変更しただけでもう、
目の前に青春が広がるではないか!
素晴らしいキャンバスだぜ!


早速、白いキャンバスに
黄色い太陽がさした。



〜つづく〜



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