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連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その37


この物語はフィクションです。
如何なる人物も実存しません。



36. 24時間耐久レース4


海に着いた。
したい事が山盛りだ。


①ビーチに寝転んで日焼けをしているふりをして
水着の女の子を眺める。
②海の家でなんか食べる。
③泳がずにビーチボールで女子たちと遊ぶ。

早速海パンに着替えようとした。


「あれ?真田くん用意いいね。海水パンツ持って来たんだ。
泳ぐの?」


白い服でコーディネートしている由紀ちゃんが
爽やかに聞いて来た。


「もちろん泳ぐさ。どこで着替える?車の中でいいかな?
男子女子順番に。」


「ごめん。私水着持って来てない。みんな持って来てないんじゃないかな。あ、真田くんだけかも・・・」


なんと!
気合い入れて海パン履こうとしているのは
私だけだった!


トイレから戻って来た松本先輩が
私が右手に持っている海パンを見て言った。


「やっぱ要るよな海パン。しまったなー。泳ぐつもりなかったけど、
ここに来たら、服着てる方が不自然な感じするやん。売ってたから買おうかなー。」


男子はどうでもいい。


女子よ。
水着にならないのか。
ならないのだな。
そういえば「麻里ちゃんのカバンの中身拝見!」の時にも
水着らしきものは出てこなかった。


そうか。海を見ながらお喋りだな。
それでいい。
それがいい。
そうしよう。
開放感に包まれたビーチで
普段聞けないことを聞いていこう。


褐色の肌を露わにした良い体をした女の人や
筋骨隆々のたくましい男の人が
そこら中を練り歩いているこのビーチでは
真っ白の肌に服を着ていては
逆に恥ずかしい。


でも私たちは人数が多いので
へっちゃらだった。


「やっぱ水着買ってくるわ。焼くわ俺。」


松本先輩が男を見せた。
私も何が売ってるのか気になるので
着いて行った。


「いらっしゃいませー!」


おー。
可愛らしい海の女の子たちが
働いている。


レジを打ったり
焼きそばを焼いたり。


水着姿は健全で
下着姿とほぼ変わらないのに
繊維の素材とネーミングで
見てもOK!となっているのが素晴らしい!


下着姿を見たら捕まるが
水着姿はOKだ。


勝手にOKとか考えながら、
私も海の女の子と話がしたくて
レジに並んだ。


「いらっしゃいませ!」


「すいません。大きな傘みたいなの、、、あれ、なんでしたっけ?」


「パラソル・・・ですか?」


「あーそうそう!そのパラソルって⛱
借りれますか?」


「はい!レンタルのビーチパラソルですね!千円になります!」


店員の女の子がパラソルを刺しに着てくれた。


「この辺にお願いします。」

「はい!」


元気に力強く、慣れた手付きでパラソルを刺して
颯爽と海の家に帰って行った。



「真田くん。どこ見てんの?」


しーちゃんが腕を組んで聞いてきた。
うっ!図星だ。見抜かれた!
私は店員さんの胸しか見ていなかった。


「いや、上手にパラソルを刺すなぁと思って。」


「ふーん。まあ、ありがとう。」


そこに敷物を敷いて
やっとみんなが落ち着いた。


「さあ、焼くぞー!」


海パンに着替えた松本先輩が寝そべる場所を
探している。


みんなが色々し始める。
パラソルの基地を拠点して。


私は本気で泳ぐつもりはないけど、
海に触れようと思って、すっくと立ち、
海パン姿で海の方へ歩いた。


人がいっぱいいる。
子供達が浅瀬で遊んでいる。


遠くの方に大きな船が見える。


小さな子供達に混じって
海に足を付けてみた。


ん〜、冷たくて気持ちいい。
チラッとパラソル基地の方を見た。


しーちゃんが由紀ちゃんの方を見ながら
こちらを思いっきり指差している。


由紀ちゃんがこちらを見ている。
多分見ている。
少し遠くてハッキリとは分からない。


二人が立ち上がってこちらに来ようとしているのが見えた。


このまま泳いで逃げようか。


真っ白い体。
痩せ細った体。
鍛えてもいないだらしない体。
肋骨が浮いて見えてしまっている胸板。
周りと比べたら恥ずかしくて
可哀想なくらい貧弱な体。


肩まで入れる深さまで
海の中に入って
小さい子供達に紛れた。


「真田くーん!泳げるのー?」


由紀ちゃんが大きな声で
首から上しか出ていない私に声を掛けてきた。


「スイミング習ってたから泳げる。バタフライも余裕や。」


「いいなぁ。気持ち良さそう。」


裸足になった二人は足首までの深さまで
海に入ってきた。


「キャ、冷たい!」


「うわ、気持ちいいー。」


よしっ!水を掛けてやろう。
そう思って二人に近づこうと海の中を歩いた。
絶対に頭を付けたくなかったのだ。


二人が射程距離に入った。
私は声を上げた。


「うおりゃ〜!」
そう言って二人に水を掛けた。


「キャー!」

「うわ!やったな!」


子供のように水の掛け合いになったが
私はすでにずぶ濡れである。


二人は海から出て砂浜の方へ逃げた。


ふっとパラソルの方を見た。

松本先輩と麻里ちゃんと千尋ちゃんが
楽しそうになんかお喋りしているように見える。


良かった良かった。


ちょうど良い。
みんな楽しい。


私はみんなを楽しくするために
生まれてきたんだな。
よしよし。


私は、はしゃぎながらも少しだけ冷静に
運転手の目線でみんなの事を眺めた。


「うわぁ、もう服びしょびしょだよ!もう真田くんのせいだ!」


よしよし。


「真田くんのバタフライ見たい!」


よしよし。


私はもう髪の毛を気にするのをやめた。
クセ毛だから乾いたらモジャモジャになってしまうけど、
もうどうでもいいや。


えいっ!
海に飛び込んだ。
頭からだ。


そして水中で体をクネらせて
久々のバタフライの動きの準備をした。


水面に上がったら一気に両腕を上げて
その瞬間に顔を水面に沈める。


小さい子供達に当たらないように
少し深いところへ進もう。


今だ!えいっ!
バタフライが始まった。
どうだ!華麗な魚のようなこの動きを!


しかし2、3回で疲れた。
普段何もしていないから
すぐにバテた。


私はバタフライをやめて
二人の方を見た。


居なかった。


もう二人は砂浜には居らず、
パラソルの方に戻っていた。



走馬灯がよぎった。
私は一瞬で小学5年生の私になった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・

下校しようと小学校の中を歩いていた。
プールの横を歩いていたら担任の先生が
水着姿でプールサイドで何かの準備をしていた。


「あっ!先生!何してんの?」


「明日の準備よ。気を付けて帰りなさい。」


「なぁ先生!バタフライって出来る?」


「出来るけど。」


「えー!見せて見せて!」


「分かりました。」


そう言って先生はこちら側からプールに入って
向こう側に向かって泳ぎ出した。


華麗なバタフライだ。
私はスイミングスクールに通っていたので
進級の為に熱心に見ていた。


すると友達が後ろから声を掛けてきた。


「おー、サナーキー!何してん?先生のおっぱいでも見てたんか?」


「いやいや、バタフライを泳いでもらってんねん。」


「ふーん。なぁ一緒に帰ろうや。」


「うん。いいで。」


まだ先生はプールの真ん中くらいを泳いでいる。
きっと向こう岸まで行って、もしかしたらターンして
こちら岸まで戻って来てくれるのかも知れない。


私は先生の事を見ていた。


「なぁ、もう早く帰ろうやー。あ、後でウチ来る?
ファンタジーゾーン買ってんけど、やる?」


ぬおっ!
それは私が欲しくてたまらなかった
ファミコンのソフトではないか!
くそ!金持ちめ!


「早く帰ろう!」


私はすっかり先生の事を忘れてしまって
まだ泳いでいる先生を後にその場を去ってしまった。


翌日、
先生に呼ばれた。
家庭科室だった。


「真田君。いい?」


「はい。」


なんか怒られる感じがした。
空気がピリピリしている。


「自分に頼み事をした人が頼むだけ頼んでおいて
どこかに行ってしまったら・・・どう?悲しくない?寂しくない?」



想像してみた。


「はい。悲しいです。」


「そうでしょ?昨日君は先生がまだ泳いでいる途中で居なくなったよね?」


はっ!そうだ!
ファミコンで頭がいっぱいになって忘れていた!
先生のバタフライは見事だったのだ。


「先生のバタフライ、凄かったです。」


すっとんきょんな私に呆れて溜息を付く先生。


「ふー。まあ先生だったから良かったけど、大人になったら気を付けなさい。人にものを頼んだら退屈になってしまっても最後まで見届ける事。わかった?」


「はい。分かりました。ごめんなさい。」


「素直な所が良い所だな!サナーキーは!」


・・・・・・・・・


先生の気持ちが今わかった。
20歳にして。
全く同じようなシチュエーションが起こったのだ。


二人に悪気はない。
私は先生に感謝した。
もしあの時先生に教えてもらっていなかったら、
腹が立っていたかも知れない。
この楽しいみんなとの時間を台無しにしていたかも知れない。


私はついてるんだな。
小さい時にあんな素晴らしい先生に出会えたんだから。
そして今もそうで、これからもそうなるんだろうな。
きっと。



「あ、おかえり〜真田くん!何食べたい?焼きそば?
ビールはダメだからね!」


優しくて可愛い仲間達と海。
サイコーである。


〜つづく〜

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真田の真田による真田のための直樹。 人生を真剣に生きることが出来ない そんな真田直樹《さなだなおき》の「なにやってんねん!」な物語。

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