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オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その28



28.   シャルマンさんのカレーライス



月曜日になった。
あまり生活に関係はない。


しかし今日は佐久間さんの家にシャルマンさんという
インド料理店の料理長が来て
腕をふるってくれているはずの日だった。


どんなカレーだろう。
楽しみだ。
私もホールトマト缶を買いに行くという
工程に参加済みである。
少しくらい頂いてもいいだろう。


私が佐久間さんに頼まれて買ってきた
ホールトマト48缶がどうなったのか
知る必要もある。



そして
夕刊の配達の終わり頃。
佐久間さんの家まで来た。


めずらしくこちらからドアのベルを鳴らした。


佐久間さんが玄関に来た。
「また後で来い。今は忙しい。19時くらいには出来るから。」


「はい。また来ます。」


なんか大ごとだ。
ささっと作って「お前の分はこれだ。持って帰れ。」
くらいでは済みそうにない。


台所の方から賑やかな音がする。
私はきっと手伝えそうにもない。



急いで残りの夕刊を配り終えて
まずお店に戻った。


「おかえりー!」


優子さんの声がした。



なんとこれは?
カレーの匂いがするではないか。


私にはこのようないやらしい偶然がよく起きる。


佐久間さんの家にカレーをご馳走になりに行く日に
お店の晩御飯がカレーとは。


小学校の時の給食がカレーだった日に
家の夕飯がカレーで母親に
「なんでカレーやねん!昼もカレーやってんで!」と
理不尽極まりない文句を言ったことを思い出した。



反省すると共に、ここは大人になった所を
披露するとしよう。


「ごめん、優子さん。今日ちょっとお腹の調子が悪いから
食べるの少し遠慮しとくわ。優子さんのカレー最高なんやけどなー。」


「えー。無理したらダメだよ!今タッパーに入れてあげるから
後で調子が良くなってから食べたらいいじゃん。それより大丈夫?風邪?」

「いや、普段の暴飲暴食に祟られた感じです。」

「んー、飲みすぎかな?まあいいや。ちょっと待ってて。」


そう言って優子さんは小さめのタッパーを出してきて
カレーを入れてくれた。


優しすぎるんですよね、この人。


「はい!食べれなかったら捨てていいからね。お腹の薬ある?」


「お腹の薬は自慢ではないですけど、たっぷりあるんですよ。
小さい時から飲んでいる高野山から取り寄せている大師陀羅尼錠という漢方薬が。」


「なんかすごい名前だね。お腹弱いんだね。
今日はお酒あんまり飲まないようにしないとね。」


「かしこまりました。控えさせていただきます。
それでは明日のチラシを整えて参ります。」


「お願いしまーす!」


と、その時ちょうど竹内が帰って来て食堂に入って来た。


「ただいまー!おっ、カレーか。
あれ?真田くんカレー持って帰るの?
いいなぁ。ねえ優子さん。俺も持って帰っていい?」


「えー?真田くんは・・・」


私は口を挟んだ。


「俺は腹が痛いから食事を辞退したけど、後で腹が治ってしまって、
もし夜中にどうしようもなく腹が空いた時のために優子さんが特別に
お持ち帰りにしてくれたんや。普段は禁止や。みんなの分がなくなる。」


「そうかー。腹痛いんだ。飲み過ぎじゃないの?」


すっかりお酒をたくさん飲む人になっている私。


しかし嘘をつくもんではない。
一度ついた小さな嘘の辻褄を合わせるために
さらに嘘をつき、その上にも嘘を塗り、
まるで嘘で出来たパズルを完成させるかのように
細部に神経を使わなければならない。


【お腹が痛い】


たったそれだけの嘘で
人の心配や優しさを踏みにじっているような気がして
お腹ではなくて心が痛くなってきた。
いや、本当にお腹が痛くなってくる不思議。


いかんいかん。
幻のシャルマンさんのカレーを食べに行かなければならない。
さっさと仕事を終わらせて出発しよう。


自分の部屋に優子さんからもらったカレーの入ったタッパーを置いて
すぐに佐久間さんの家に出発した。



着いた。


玄関の横にあるライトがほのかに光っている。
庭にもところどころのほのかなライトがある。


私はベルを控えめに押した。


ジ、ジリリ・・・


いつもならすぐに大きな声で誰だと言うはずの
佐久間さんが、今日は何も言わずに玄関のドアを開けた。


「出来てるぞ、入れ。」


いつもより声が小さい佐久間さん。


襟の付いた白いシャツにチェックのズボン。
まるでレストランに食事をしに来たみたいな服を着ていた。


「お邪魔します。」


なんか空気が神妙だ。


ダイニングに入ると
上下が白い民族衣装のような服を着た
肌の色の黒い人が立っていた。


シャルマンさんだ!

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2,637字
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真田の真田による真田のための直樹。 人生を真剣に生きることが出来ない そんな真田直樹《さなだなおき》の「なにやってんねん!」な物語。

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