心を動かすストーリー構造とは?-「るろうに剣心 最終章 The Final」より
半年以上延期されてようやく公開された映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」を公開初日に観てきました。
これまでの「るろ剣」映画同様に視聴覚部分の出来は漫画原作映画の中で最高峰に位置づけられるものでした。
一部ワイヤーも使い空間を活かした超絶高速アクションは、どれだけのリハーサルをしたのかを想像すると頭が下がりますね。
多くの漫画原作映画とは逆に、原作の方がコスプレに見えてしまうほどです。
ただ、人間ドラマという観点では原作コミック「人誅編」(18巻~28巻)の肝心な部分が改変・省略されており、ストーリーから感情の起伏を楽しみたい方は断然原作を読むことをおすすめします。
本記事ではなぜ原作の方がストーリーとしておすすめできるかを、シナリオ構造(参考:「シナリオライティングの黄金則 」/金子満著)から分析してみたいと思います。
人の心を動かすストーリーづくりはいわゆるポップカルチャーの世界だけに留まるものではなく、あらゆるマーケティング活動に応用が利くはずですからね。
なお、ネタバレが嫌な方はこれ以降読まないでくださいー。
第1幕:対立
第1幕は原作コミックの18巻から19巻にあたり、雪代縁が剣心への復讐のため上海から日本に帰国し、手始めに剣心に関わりのある場所(赤べこ、前川道場、警察署長の自宅)を急襲するまでのパートです。
ここは細かな設定上の差異はありますが、概ね原作に沿った展開となっており、平和な日常が突如崩れだし、不穏な物語が動き出す様が描かれています。
🔷0)背景
上海の闇組織で統領に上り詰めた後、姉を殺した剣心への復讐のために帰国し、横浜駅の列車に乗り込んでいる雪代縁の心情と、その怖ろしいまでの強さが描かれます。
🔷1)普通の世界
前作品での志々雄真実との死闘を終えて平和な時が訪れ、剣心、左之助、薫、弥彦らが牛鍋屋「赤べこ」で楽しそうに食事などをしているシークエンスです。
🔷2)異変の発生
縁はかつて剣心に右腕を切られた鯨波兵庫を携え、剣心への復讐の狼煙として、上野山の山中から遥か遠方の赤べこへ砲撃し、周辺を火の海と化します。
🔷3)決意
警戒している神谷道場のもとへ薫や弥彦の出稽古先である前川道場が襲撃されたとの知らせが入り、剣心は自分への復讐であることを察知。意を決して助けに向かいます。そして同時に警察署長の自宅までもが襲撃を受けたことを知ります。
第2幕:葛藤
主人公の心の葛藤、成長、試練を描く物語のメインパートがこの第2幕です。
主人公の苦しみが深く一人だけでは問題を解決できない中、支援者からヒントをもらい、悩みながらも前進していく中で破滅のどん底に追い込まれてしまうのが第2幕の基本的な流れです。
この谷が深いほど、最後の第3幕での課題解決と敵の排除に至る過程で大きなカタルシスがもたらされるのです。
では、本作品における第2幕の6つのロットを見てみましょう。
🔷4)行動と苦境
剣心は自分への復讐に燃える縁らの残酷な行いにより、罪のない人々が殺されていく様に苦悩し、どうすれば償えるのか答えを出せずにいます。
そんな中、道端で縁に遭遇し、姉を殺された恨みの深さを直接聞かされることになります。
🔷5)支援
神谷道場では弥彦が稽古に励み、突然の敵の襲撃に備えています。薫はいつになく落ち込んでいる剣心を心配し、弥彦の思いを届けます。
ただ、この場面で剣心が大きな反応を見せることはありません。
この「支援」のロットは他の著名作品に比べるとちょっと弱い気がしましたね。
「支援」を受けて主人公は通常、次のロットである「成長・工夫」につながっていきます。
例えば"劇場版「鬼滅の刃」無限列車編"ではもっと明確です。
無限列車内にて車掌に眠らされた炭治郎が夢の中で川に水を汲みに行き、水面に写った自分が、「これは夢だ、攻撃されている、起きて戦え」と訴えるシーンがあります。
炭治郎はハッとする一方、殺される前の家族との生活にぬくもりを感じ、そこにずっといたいとも感じます。
ここで炭治郎を現実の世界に引き戻す「支援」としての役割を果たしたのが、禰豆子の頭突きでした。
炭治郎の禰豆子を人間に戻したいという、作品全体を通した行動動機に呼応する形で、映画の物語上重要な支援者の役割をはたしたのが禰豆子でした。
🔷6)成長・工夫
剣心は意を決して薫や左之助らを集め、かつての自分の妻であった巴を自らが殺めたこと、巴の弟が縁であることを告げます。
その後、豪雨の中佇む剣心を心配して傘を届ける薫の姿が描かれますが、前のロット5)「支援」の続きであるようにも思えるシーンでした。
🔷7)転換
ここが物語のミッドポイントと言われる箇所になります。
この後に展開される主人公の「破滅」への前哨戦として、一見主人公が苦境から抜け出せそうな大きな展開を見せるポイントです。本作品の場合、縁が仲間とともに気球に乗って頭上から派手な攻撃を仕掛け、街中での総力戦が始まります。
剣心は誰一人死なせまいと、決意を新たにします。
🔷8)困難と試練
しかし剣心らの試練は更に深まります。
四乃森蒼紫、四乃森蒼紫、斎藤一らの援護を受けつつも、赤べこを吹っ飛ばした鯨波兵庫のアームストロング砲などにより、町中は火の海と化していきます。
🔷9)破滅
ここからが物語の谷底です。
そして本映画が原作と最も乖離しているロットとして、谷底の深さが原作と比べようもないほど浅くなっているのです。
映画では志々雄一派から寝返った沢下条張が縁に殺され、庭先に担ぎ込まれます。そして、左之助や四乃森蒼紫が立ち上がれないほどの大怪我を負い、多数の人々の死と瓦礫と化した街が描かれます。
絶望...
いやいや、原作の絶望はこんな程度じゃない。
原作で縁に殺された?!のは、、。
そして絶望した剣心の行き先は!?
気になった方はぜひ原作24巻を読んでください!
尺の制限があり、キャストを使った実写映画としてはこういった構成にせざるを得なかったということろでしょうかね。
🔷10)解決の糸口
ウーヘイシンら縁がボスを務める上海マフィアの一団が剣心を襲う中、かつての敵、瀬田宗次郎の助けを得て、剣心は縁とサシでの対決に向かいます。
ここも原作にはないエピソードが挿入されています。原作ではここで瀬田宗次郎は登場していません。
大衆人気を獲得するために、剣心を演じる佐藤健と宗次郎を演じる神木隆之介の共闘シーンを見せたかったのではと解釈しました。
第3幕:変化
最後の第3幕は第2幕での主人公の葛藤を経て、障害を排除して元の世界に帰還するパートで、尺としては最も短くなるのが通常です。
こちらも第1幕同様、ほぼ原作通りです。
🔷11)対決
いよいよ雪代縁と剣心の最終決着をつける場面です。本作品の最大の見どころである両者の壮絶なバトルアクションが繰り広げられます。
🔷12)障害の排除
剣心はボロボロになりながらも、最終的に雪代縁を破ります。
縁は部下のウーヘイシンの銃撃に対して身を張って薫の命を救います。
🔷13)解決と帰還
剣心と薫がともに巴の墓参りをして未来に目を向ける一方、敗れた縁は獄中で巴が聞き残した日記を読んで真実を知り、号泣するのです。
バックストーリーやサブストーリーについて
これまで主人公の行動動機に基づくメインストーリーの構造をみてきましたが、本作品では剣心の頬の十字傷の由来や巴との死別のバックストーリーが随所に回想シーンとして挿入され、メインストーリーにからんでドラマ上重要な位置づけになっています。
ただ、本作品だけでは巴がなぜ剣心に斬られてしまったのか、わかりづらかったように思いました。
原作を読むと巴の死に至る過程が敵との壮絶なバトルとともにかなりの頁数を使って描かれており、理解が深まります。
こちらは2021年6月7日公開予定の「るろうに剣心 最終章 The Beginning」で映像化されるので、改めて原作と比較してみたいと思います。
また、本映画では尺の関係であまり深堀されていませんでしたが、原作では各キャラクターのサブストーリーも読みごたえがあり、作品の厚みに寄与しています。
まとめ
ストーリーやシナリオの構造というと、起承転結を思い浮かべる方も多いかと思いますが、起承転結はもともと4行から成る漢詩の絶句の構成です。
感動ストーリーは3幕/13ロットで考えた方が理にかなっており、実際ハリウッド映画の名作の多くはこの構造に則していることが知られています。
ではなぜこのロット構造に人は感動しやすいのか。
それは人間の人生がこの構造の繰り返しでできており、人生を言わば抽象化した物語として神話時代から文字として後世に伝えられ、更に私たちの脳に刷り込まれてきたからでしょうか。
だとすると、こうした人を感動させるストーリー構造は、フィクションの世界だけに留まるものではないはずです。
モノが飽和し、差別化が難しくなってきた現在、人の心を動かすブランド形成には独自性のあるストーリーが鍵を握っていくと言われています。
この13ロット構造は、今後企業やその商品・サービスのブランディングを担うストーリーづくりにも応用されていく余地が大いにあるように思います。
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