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見えているようで見えていない人のこと【読書記録】住野よる

住野よるさんの『か「」く「」し「」ご「」と「』と読了しました!
最近、本に関する発信がしたいな~と心の声が聞こえてきたので、感想や考えたことをつらつらと綴っていこうと思います。
同じ作品を読んだことがある人と、語り合うような気持ちで書きたい。
わたしは読書を通して自分に素直になっていきたい。

小さな秘密

ざっくり言うと、この作品は5人の高校生の個性のおはなし。
5章構成の群像小説。
みんな、人の反応や心の動きが見える能力を持っていて、「それを他人に知られてはならない」と小さな秘密を抱えています。
この小説の世界では、すべての人が能力をもっているんだろうか?
それとも一部の人だけ?
登場人物たちが秘密にしているということは、明かすことは一般的ではない様子。もし人類に共通している特徴なのだとしたら、だれかが研究してそうだし、ここまで隠すのかな?
いや、あるのが当たり前だったらわざわざ開示しないんだろうか。
もしわたしがこの能力を持っていたら、「気持ち悪がられたり、離れて行っちゃたら嫌だな」と思って言えないだろうな。

登場人物への解釈

京くん
『地味な自分に引け目を感じている。気になるのに言い出せないことも。』
帯からの引用。
「自分なんか」と自己否定しがちな青年。
彼の能力は人の頭の上に「!」「?」「・・・」と記号がみえること。
この能力で空気を読んているように見えた。

ミッキー
『ヒロインよりヒーローになりたい。必殺技は飛び蹴り』帯からの引用。
彼女は人のテンションが見える。上がっていれば「/」、下がっていれば「\」という感じ。
能力を使って人間関係のなかで押し引きができるので、相手のパーソナルスペースを無視してガンガン突っ込むパワフルな人。

パラ
『パッパラパーで予測不能。ふざけているようで実は本気!?』
帯からの引用。
彼女は1、2、3、4と人の鼓動の速度が分かる。自分の速度も分かるので、自身を一定に保つことに長けている。
しかし、リズムが揺るがされると、大きく調子を崩してしまう。
一番感情移入して読んだ。こういったところが少し自分と重なったから。

ヅカ
『体育会系で明るい長身の「王子様」。皆に好かれるクラスの人気者。』
帯からの引用。
彼は人の感情が分かる。♠♢♣♡=喜怒哀楽として見えて、さらにはその大きさの変動まで分かる。
この能力を自分が相手に働きかけるかどうかの判断基準のひとつとして使っているようだっだ。

エル
『内気で控えめ。裁縫が得意。ある日突然、不登校に。』帯からの引用。
彼女は人の恋心が矢印として見え、なぜこの能力が自分に備わっているのかを疑問に思っている。
エルを見ていて思ったのは、小さな秘密が自分を特別に思わせってくれる、その素敵さだ。
能力について話すことはできないけれど、これがあるからわたしにできることもある、と他者との繋がりに確信を持てるってとっても嬉しいことだと思う。

視点を変えると見え方がぜんぜん違う

わたしは群像小説が好き。
群像小説のおもしろさって、視点を変えると全然違う見え方がするんだ、とダイレクトに教えてくれるところだと思っている。
京くんはヅカをみて「女子にガツガツしている」と思う。
けれどヅカくんは、繊細に人を心配する京くんこそ、女子にガツガツしている、と感じる。
わたしは京くんと同じ感想を持っていたけれど、ヅカくんの意見を知って、「確かに京くんもガツガツしているな」とハッとした。
ガツガツに含まれるニュアンスに違いはあれど、「彼氏と喧嘩したのかな?」とか悩んでいる京くんは結構相手に踏み込んでいるな、と思う。

見えているようで見えていない人のこと

登場人物たちは人の反応や感情をみれるけれど、そこにどんな考えや意図があるかは知りえない。
自分の解釈に頼るしかない。
その結果、思わぬところで誰かを傷つけてしまったり、すれ違いが起こったり、相手の考えていることが分からず戸惑ったりする。
混乱して自分のことすら分からなくなる。
複雑に絡み合う糸の中で、わたしたちは自分の役割や居場所を探り、人生を織りなしていく。
悩みながらも大切に紡ぎ続けられる温かな関係を、今そばにいる友人たちと育てていけたらな、と思う。

余談

現代は個性と調和を同時に求められる社会、という側面があると思う。
「自分らしさ」「多様性」ここ数年、よく耳に、目にする言葉。
わたしも自分らしさを渇望していたけど、でも実際会社で働いていると、常識的であることを求められた。
でも自己啓発本には自分らしさを仕事に加えたら必要とされる人間になれると書いてあって、常識と自分らしさの塩梅がわたしにはわからないなって思った。

多様性ってなんなんだろう。
わたしの友達は自分は納得できないけど多様性として受け入れるしかないのかな、と我慢する理由にしてしまっていた。
それを見て思ったんだけど、多様性を重んじるのであれば、素直になり自分自身を受け入れているのが大前提であるべきだ。
そうでなければ、ただの自己犠牲になってしまう。
それに、自分のフィルターを通してでしか人間は物事を心に映せないのだから。



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