Episode 070 「ハイスクール時代の友達について」
アデレードハイスクール当時(Episode022参照)、仲の良かった友達は大きく分けると、学校のサッカー部の友達、(学校にて)選択していた科目が同じで仲良くなった友達、そして放課後などに一緒にマクドナルドに寄っていったり、週末一緒に遊んだりする友達、という括りが存在した。
もちろん、これら三つの括りで全員が明確に分かれたわけではなく、もちろんオーバーラップする友達もいた。初めて友達になった理由やタイミング(恐らく8年生または9年生なので、14~5歳)などは思い出せないのだがカンボジア人のBun-Ey(ブン・イー)という友達とも実に良く遊んだ。
多くのオーストラリアに住むアジア人同様、彼はカンボジア人ではあるものの、生まれはオーストラリアである。つまり、パスポート(国籍)もオーストラリだと思われる。彼は典型的なアジア人であり、つまり非常に頭が良く、特にコンピューター関連の知識が群を抜いていた。家のパソコンの調子が悪くなると、ブン・イーによく診てもらったものだ。どんな原因であれ、彼の手に掛かればしっかりと問題なく作動するようになる。
一度、カズ(短期留学生としてアデレードハイスクール時代に友達になった、京都出身の男)からとあるMDを借りた。Mongol 800というバンドのGo on as you areという、彼らのファーストアルバムが入っていた。当時、2000年くらいであったであろうか、このアルバムが瞬時に好きになり、どうしてもその音源(アルバム)が部屋でも聴きたくなった。
しかしながら、当時私が持っていたステレオはカセットテープとCDのみ再生することができるタイプであり、MDは再生できなかった。そこで、Bun-Eyに頼もう、とそう思った。
通常、CDからMDに音楽を録音する、という作業が行われるところを、逆の、MDからCDに音楽を取り込む、という作業をしてもらった。どんな(コンピューターの)ソフトウェアを用いて、どの様にその作業をしたのかは、Bun-Eyの家で、隣に座り眺めていたが全く理解できなかったものの、最終的にはしっかりとMongol 800のGo on as you areのCDが完成したのである。
この作業を眺めていると、正に不可能に見える作業だった。CDの音源をMDに録音することが、例えば小麦粉やら卵やらバターやら牛乳でホットケーキを作る、という作業なら、MDの音源をCDに落とすとは、つまりその逆で、完成されたホットケーキから小麦粉、卵、バターそして牛乳を取り出す作業なくらい、手品の様に思えた。
彼には、お兄さんが二人いた。下のお兄さんは確か上の姉と同学年だった様に記憶する。美術に興味があったらしく、Bun-Eyの家には彼が描いた肖像画が飾ってあった。物静かなお兄さんだった。上のお兄さんは、下のお兄さんとは対照的で、私が遊びに行くとよく我々(Bun-Eyと私)のところへ来て話をする様な、社交的な人だった。
しかし、少し意地悪な(とは言っても、男兄弟では当たり前と思われる範囲のだが)一面があり、Bun-Eyにちょっかいを出していた。一度、下のお兄さんに、具体的には何を言ったのかは分からないが、ちょっかいを出したらしく、あの物静かな下のお兄さんが殴りかかる様にして上のお兄さんと喧嘩を始めた。
隣の部屋にいた我々にも充分聞こえてくる音量で、部屋の物が飛び交う音が家中に響き渡った。よく、漫画やアニメにおける喧嘩のシーンで、取っ組み合い(の喧嘩)をする際に描かれる、あの描写の実写版である。
その時、我々二人はPCのゲームをしていたのだが、Bun-Eyは全くもって気にする様子はなかった。彼はまるで、毎日の様に外を通る車の音を聞き流すかの様な表情で、喧嘩については一切興味を示すことなくゲームをし続けていた。
そんな彼は、案の定、現在アデレードでコンピューター関連の仕事に就いている。因みに、この「パソコン周りで何か困ったことがあるとブン・イーに頼る」というルーティンはハイスクールを卒業し、大学を卒業した後もずっと続くことになった。
最近は、コンピューター(例えばずっと愛用しているMacなど)の性能も抜群に良くなり、そもそも調子が良くない、という現象すら起こらないが、それこそ少し前までは、パソコンの調子が悪いと「あぁ、ブン・イーが居ればな・・・」とう思う時があった。
彼は当時陸上もやっており、運動神経も非常に良かった。併せて、卓球が非常に上手く、よく彼の家で(そう、しっかりとした卓球台が彼の家にはあった)放課後に卓球をしたものだ。また、勉強も得意とする、優秀な生徒であった。
現在は結婚して(相手も、同じくアデレードハイスクールの同級生)子供が二人いる。息子の名前は、Isaac(アイザック)である。そう、あの物理学者のアイザック・ニュートンと同じ名前である。
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