映画『季節の中で』
1999年/製作国:アメリカ/上映時間:108分
原題 THREE SEASONS
監督 トニー・ブイ
※予告編、日本版が最も優れているのですけれども、ネット上に見当たらないため、映画の雰囲気は良く伝えているけれども短いロシア語版、画質的にはそこそこなドイツ語版をペタリ
予告編(ロシア語版)
予告編(ドイツ語版)
STORY
美しい蓮沼のある郊外の屋敷。
少女キエン・アンは、人目を避けて暮らす詩人ダオの屋敷の、蓮摘みの仕事に雇われる。
ある日、蓮摘み中にアンの歌った詩がダオの耳に入り、アンは夜にダオに呼ばれる。そして詩を介し、ふたりはその心を通わせてゆく。
サイゴンの繁華街。
シクロ運転手のハイは、タチの悪い客に絡まれていた娼婦のランを助ける。
極貧の暮らしの中に母を失ったトラウマから「金持ちの男を捕まえて裕福な暮らしをする」と語るランに、ハイは恋をする。
だがランはシクロ乗りなど相手にしないとハイにいい放つ。しかしハイはその後も、毎日のようにランの仕事終わりをホテルの前で待ち、かなり鬱陶しがられながらも、彼女を治安の悪い場所にある家まで安全に送ろうとする。
またランから、一晩過ごすのに必要な料金を聞き出したハイは、ランと一時を過ごすため、シクロレースへの参加を決める。
夕闇の迫る頃、少年ウッディの物売りの仕事は始まる。
ある日ウッディは戦争中にヴェトナム女性との間に生まれた、まだ見ぬ娘を探す元米兵ジェイムズ・ヘイガーと知り合う、しかし彼にビールを勧められ、それを飲みながら話しているうちに意識を失い目覚めてみると、売り物の入ったスーツケースは消えていた。
ウッディはスーツケースを探し、夜の街を彷徨い始める……
そこに住む人々の心を置き去りにするかのように、急速にその姿を変貌させてゆく1990年代の古都サイゴンを舞台に、今、それぞれの傷と想いを胸に抱く人々が、せつなくも美しく、交差する。
レビュー
公開時のキャッチコピーは
「花になり、詩になり、いま私はここにいる」
素敵です。
本作は群像劇となっており、主な登場人物は6人。ヴェトナム戦争時にベトナム人女性との間に生まれた娘を探すアメリカ人、ジェイムズ。蓮屋敷主人でハンセン病の詩人ダオ。蓮摘みの少女アン。シクロ乗りのハイ。娼婦ラン。ストリートキッズのウッディ。
1990年代のヴェトナム、サイゴンを背景に、大きく4つに分けられているストーリーがわずかに交わり合いつつ、響き合いながら展開してゆきます。
4つのストーリーはそれぞれに、人間社会がこれまでも、今も、そしてこれからも抱え続けてゆくであろう普遍的な問題と問いを扱いながら、都市に生きる人々の心の傷やその痛み、悲しみ、寂しさを、繊細に、丁寧に、且つ穏やかに、奥ゆかしく写し取りながら、しかしそれらを優しさの連鎖により包み込んで癒し、「水」や「花」そして「詩」の力に託して、気高さと共に昇華します。
主要な登場人物たちは皆、他人の心の傷やその痛み、悲しみ、寂しさに寄り添い、場合によっては自分の夢よりも他人の夢を叶えるべく奔走します。
優しさを持ち寄り、繋げ、紡いだ先にある、観る者の心に光を奏でるラストは深い余韻に満ち、どこまでも美しい。
心に残る「詩」と印象に残ったセリフ
本作の主題歌であり、最も印象に残った詩
ダオの台詞
ランの台詞
ハイの台詞
ダオが指を全て失う前に自分の手によって、最後に記したという詩
夜に蓮売りの少女が書き留めた、ダオの詩の一部
蓮摘みの詩
余談 ※若干ネタバレ気味につき注意‼
本作に登場する「詩」は、独立していながらも、本作の物語と密接な繋がりをもっており、特にキエン・アンと詩人ダオの物語は、詩の内容と2人の会話のセリフを覚えておくと、ラストシーンの理解がより深まりますゆえ、御覧の際は是非、お見逃しなく。
また上記したダオとランのセリフも、流し見せずに覚えておくと、ラストシーンが最高のものとなりますゆえ、これまたお聞き逃しなく。
あぁ、それにしてもなんて素敵な「詩」たち……
そしてヴェトナム語の美しさ……
ちなみに『Đố Ai』は、映画の最初の方ではキエン・アンが一人で歌うのですけれども、ラストは……
そのラストの『Đố Ai』の時に、とある生き物の姿が画面を横切るのですが、それは詩の一節とちゃんとリンクしていて、しっかり意味(意図)のあるシーンなんですよね……
あんなの見せられたら、泣くし……
話は飛びますが、撮影はリサ・リンズラー。女性です。
今まで知らなかったのですけれども、女性と知って震えました。大好きな作品の大好きな理由の謎が、ひとつ解けたから……
本作の好きなところを書き始めたら1万字は軽く書けそうなので自重しますが、ひとつだけ短く記すなら、「色彩」が本当に素晴らしいということ。
自分の好きな色は確実に、そして少なからず本作の影響を受けています。
Artwork
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