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身近な事象から生まれるイノベーション:太陽光発電に学ぶ

私たちの身の回りには、イノベーションの種が無数に存在しています。しかし、それらを見出すには鋭い観察眼と柔軟な発想が必要です。本稿では、太陽光発電を例に、身近な事象の中に潜む可能性を見出し、それを革新的なアイデアへと発展させる過程を考察します。


偶然の発見から始まった太陽光発電

太陽光は私たちの日常生活に欠かせない存在です。しかし、太陽光から直接エネルギーを取り出すことは、19世紀になって、ある実験から発想されました。

1839年、わずか19歳のフランスの物理学者アレクサンドル・エドモン・ベクレル(1820-1891)は、電解液に浸した金属板電極に光を当てると電圧が発生する「光起電力効果」を発見しました。これが、後の太陽電池開発への道を開きました。

ベクレルの発見から約1世紀後の1954年、ベル研究所においてシリコンを使用した実用的な太陽電池が開発されました。「Solar Battery」と名付けられたこの技術は、薄いシリコン膜から電気を生成するという画期的なものでした。

Photo by Andreas from Pixabay

化石燃料からの脱却という21世紀の冒険

太陽光発電技術の進化は、さらなる革新的なプロジェクトを生み出しました。その一つが、Solar Impulseプロジェクトです。このプロジェクトは、太陽エネルギーのみを使用した飛行機で世界一周を目指すという奇想天外な挑戦でした。

プロジェクトを主催したベルトラン・ピカール(1958-)は冒険家の一家に生まれ、1999年に気球による無着陸世界一周飛行を成功させました。しかし、この成功の裏には大きな課題がありました。離陸時に3.7トンあった液体プロパンが、到着時にはわずか40キログラムまで減少していたのです。

この経験から、ピカールは次のように考えました。「もし次に世界一周飛行をすることがあったら、燃料計を見てびくびくしないように、化石燃料を搭載しなくても飛行できるようにしよう!」この思いが、Solar Impulseプロジェクトの構想へとつながりました。

ピカールは、21世紀の冒険は化石燃料からの脱却であると気づいたのです。この気づきは、20世紀の数多の冒険と自身の経験を洞察することで生まれました。鋭い観察眼と柔軟な発想で革新的なアイデアを創出した事例といえるでしょう。

Photo by Gero Birkenmaier from Pixabay

冒険がもたらすイノベーション

太陽光だけで飛ぶ飛行機実現のため、さまざまな技術開発が行われました。翼長64mという、とんでもなく長い翼に1万7248個の太陽電池を搭載し、機体の軽量素材やコックピットの断熱素材を開発、エネルギー効率が標準的なエンジンをはるかに上回る電気モーターをも開発しました。そして、2105年3月にアラブ首長国連邦アブダビを飛び立ち、2016年7月26日に帰還、世界一周を達成したのです。

現状、Solar Impulseには一人しか乗ることはできません。思い起こせば、リンドバーグが大西洋を飛行したときも一人乗りでした。しかし、それから20年もたたないうちに、200人乗りの飛行機が大西洋を横断するようになりました。一つのブレークスルーが、大きなイノベーションをもたらします

バラストを捨てる勇気

ベクレルやピカールの例が示すように、イノベーションの種は私たちの身近に存在しています。しかし、それらを見出すには、日常的な現象を新たな視点で観察する能力が必要です。ビジネスパーソンにとって、この観察力は極めて重要なスキルとなります。しかし、この過程は決して容易ではありません。

ピカールは、「開拓者とは新しい考えをもっている人ではなく、自分がもっている多くのバラストを捨てられる人だ」と述べています。ここでいうバラストとは、私たちが日常的に抱える習慣、常識、確実さ、ドグマなどを指します。これらは安定をもたらす一方で、革新的な挑戦の妨げとなってしまうのです。

身近な事象の中に潜む可能性を見出し、イノベーションを実現するには、既存の概念や常識、慣習にとらわれない柔軟な思考と行動力が不可欠です。大きな不安と向き合わなければなりません。しかし、その不安を乗り越えたとき、前人未踏の景色を見ることができます。それが、次世代のビジネスリーダーに求められる重要な資質なのです。


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