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私が写真を撮る理由

もし彼が生きていたらこんな時、何を言うだろうとふと思うことがある。
あの頃の私はカメラなんてもの持っていなかったし、いつかのために写真に収めておこうなんて感覚は持ち合わせていなかった。
ましてや彼にもう二度と逢えなくなる日が来るなんて思ってもみなかった。
月日が経つにつれて、彼の顔や声がどんどん記憶から薄れていく。
一緒に過ごしたことも鮮明に思い出せなくなっている。
そのことが辛い。
この先、どんどん忘れていってしまうことが怖い。
でも記憶の中に留めておくには限界がある。
だからこそ今、私はカメラを構える。
形に残しておかなかったことをどんなに悔やんでも、もう過去には戻れない。
だったらせめてこの先は同じ後悔はしたくない。
どんなに小さなことでも自分にとって大切な瞬間を切りとることの素晴らしさを、ありふれた日常の尊さを、教えてくれた彼の死を無駄にはしない。絶対にしない。
私がここに生きてきた証を、
私の大切な誰かがこの世界に生きていた証を、
幸せな記憶も辛い記憶も全部一緒に閉じ込めたい。
…ここまで来るのに随分時間が掛かっちゃった、ごめんね。
だけど今からでもきっと遅くはないよね?
いつかまた逢えたら、貴方にうんと褒めてもらえるように私精一杯生きるから。だからずっと見守っていてね。

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