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小説「秘書にだって主張はある。」プロローグ、第一話(全二十話)
いわゆる「お仕事小説」を書きました。令和4年の暮れに上げたもので、舞台はその頃ですが、ちょっと異色でファンタジー要素もあります。71,768字
<あらすじ>
令和とよく似た、しかし隣国と休戦中という少しだけ違う海生日本の東京で。
主人公伊藤恭子は、「柊社」の総務部長秘書であり、やりがいを感じている一方で、実は異能力者であることを、周囲にひた隠しにしていた。
ある時、恭子は相談役と直に面談
小説「秘書にだって主張はある。」第二十話、エピローグ
二十 「告白」
1月21日(土)1930 品川 和食いろり
道彦は北海道からわざわざ、個人的に会いにきてくれた。
この店は、羽田空港から電車1本で、品川駅まで直行できて、駅からも近い。
店内は和風の調度品で統一され、清潔感があふれている。
通された席も、個室ではなかったものの、テーブルごとに充分間隔があけられていて、会話には全く支障がなかった。
ここを選んで予約したのは道彦だ。
ま
小説「秘書にだって主張はある。」第十九話
十九 邂逅
1月20日(金)1800 喫茶ラフィン
まずは、先制を取ることが重要だ。
気をつけて、そして真摯に・・・。
「逆に何だか、はじめまして、って感じがするわ。本当に不思議なものね」
恭子にしては珍しく、こんな調子で初めから本音でどんどん話すつもりだった。相手はどうだろうか?
「そうね。今までは結局、私の空間転移能力で会ってばかりだったから30秒弱の間で、お話らしいお話もできなかっ
小説「秘書にだって主張はある。」第十八話
十八 家族
1月20日(金)1000
臨時役員会議から1週間がたった。
先に、議決した施策は着実に実行中であるが、やはり、まだ目に見える成果にはなっていない。
数字に見えるようになるには、あと3ヶ月ほどはかかるだろうか。
恭子はここしばらくそれとは別のこと、いや根っこの部分は同じだが、あることについて考えていた。
それは柊聡子のことである。
仕事に関係する同年代の女性として、更に同
小説「秘書にだって主張はある。」第十七話
十七 決裁
1月13日(金)1450
柊社においては、役員会議は社内最高意思決定会議であり、定例で3ヶ月に1回、年4回開かれるが、特に重要な案件があるときは参加メンバーの部長以上の発案で臨時開催されることもあり、今回もそれにあたる。
主管は総務部長であり、実際の会議にあたって招集手配、資料準備、記録等は総務部長秘書の恭子の担当となる。
恭子は担当秘書として準備の途中経過を報告することに
小説「秘書にだって主張はある。」第十六話
十六 帰京
1月13日(金)0630 旭川空港出発ターミナル
旭川空港はまだ夜明け間近で、うっすらと明るい程度だ。
道彦は安全確保のためと言い張り、親切にも車でここまで送ってくれた。
「ねえ、こんなに急いで帰る必要あるのかい?今日1日もったいないじゃないの」
「もちろん必要に決まってるじゃないですか。軍と話し合い結果もそうですが、昨晩は不測の事態も起きました。私の渡道と無関係とはどうして
小説「秘書にだって主張はある。」第十五話
十五 遭遇
1月13日(金)0000
実は2300頃、ちょっとホテルのバーに行ってカクテルを2杯ほど飲んでいた。
恭子は、今日の出来事を思い出して、そして旅の高揚感もあって眠れそうになかったからだ。旭川で明日立ち寄る場所も、まだ決まっていない。
そのアルコールがようやく効いてきたのかもしれない。
ベッドで横になっていた恭子はようやく深夜になって、まどろんできた。明日の予定は明日考えよう
小説「秘書にだって主張はある。」第十四話
十四 俯瞰
1月12日(木)1545
就実の丘は、旭川市内から30分ほど車で移動した所にある丘陵地帯だ。
二人は雪原のとある場所に行き着くと、そっとあたりを見回した。くねくねとうねる丘に、道が続き、木々が点在する。
本当に誰もいない。そしてなにもなく、ただ一面の雪だ。
あたりは暗くなってきた。だいぶ斜めになってきた陽光の名残でも、大雪山は、まだはっきり見える。
とても雄大だ。
ここ
小説「秘書にだって主張はある。」第十三話
十三 訪問
1月12日(木)1400
店を出て、車に乗り込むと道彦は急におしゃべりを加速し始めた。
これまでの短いながらの付き合いから、これは、道彦がペースを掴んだ時の態度の一つだと気づいた。
「さて、これから北海道統合軍司令部へ向かいます」
「よろしくお願いします」
車に乗せてもらっていることを、また少々引け目に感じて、恭子は少し小声で返事をした。
「ちなみに案内場所は、さっきと同じで
小説「秘書にだって主張はある。」第十二話
十二 旭川
1月12日(木)1250
運転が始始まってしばらくして、ふと、恭子は道彦があまりしゃべっていないことに気づいた。
なんとなく、らしくない・・・。
恭子は、もしかしたら運転に集中したいのかと思って、喋りかけなかった。意外だが、あまり上手くないのかもしれないと思った。
30分ほど、道彦の車で移動すると市街に入った。そして、レストランとかにしては、ちょっと広すぎる駐車場に停めて、
小説「秘書にだって主張はある。」第十一話
十一 往路
1月12日(木)0600東京本郷アパート
東京は晴れ、しかし・・・。
スマホをタップしニュースを見ると、残念ながら、現在、北海道は移動性低気圧と寒冷前線が通過中で、午前中いっぱいは影響が残るという予報だった。
手荷物の準備は昨日の夜までに済ませている。小さめのカート一つだけだ。ガッチリ防寒効果のあるコート以外はできる限り軽装のほうがいい。
恭子は、スマホを取り出し、もう一
小説「秘書にだって主張はある。」第十話
十 承認
道彦のとの電話を切った直後、周りから見られていないことを確認し、1回だけ、しかしその分、大きく深呼吸をした。
よっし、一つやってみるか。
そう、まずは趣旨からだ。
「本件は、我が社の北海道、東北地域における営業活動の間題解決に貢献できる」
立派な理由だ。太鼓判!まず大丈夫。
次はもちろん経費。
スマホを片手に持つ。
いつも総務部長の出張経費積算をやっているから、恭子にと
小説「秘書にだって主張はある。」第九話
九 不穏
1月10日(火)0830 柊社
いつものとおり、始業時間前30分に出社した恭子は、社内の様子が、しきりに気になって落ち着かなかった。
いつもと何かが違う・・・。
こう言った社内の雰囲気の様なものを肌で感じ取るのも、秘書として必要な資質だと自分では、そう思っている。
そして、しばらくはそれが何なのかはっきりしなかった。が、しかしようやく、自分自身が社員の視線を受けていることに気
小説「秘書にだって主張はある。」第八話
八 経過
1月6日(金)1600
帰社した恭子は自分のデスクで電話を前にして、しばらくは悶々としていた。
相談役への報告事項を頭の中で整理するためになど、もちろん単なる言い訳だと自分でもわかっている。道彦との会話のメモなら、ほら、目の前にあるじゃないか。
その上、いつもなら意識外にふり払えるはずの総務部ブースの雑音が妙に気になる。
なぜなの?
しかし、このまま考えているばかりでは、い
小説「秘書にだって主張はある。」第七話
七 軍人
1月6日(金)1230
恭子は、ちょと早目に社を出た。相手は軍人、時間には特に厳しく構えておくべきである。
ちなみに今回、外出の表向き用件は、「総務部のお客様用お菓子の買い出しを兼ねた長めの昼食」にした。
念のため、直子に、ちょっと遅くなるかもと、フォローをお願いしてきた。見返りはおやつのケーキだ。
ところで恭子は、往路を歩きながら、ある漠然としたことを考えていた。そう、道彦