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小説「秘書にだって主張はある。」プロローグ、第一話(全二十話)
いわゆる「お仕事小説」を書きました。令和4年の暮れに上げたもので、舞台はその頃ですが、ちょっと異色でファンタジー要素もあります。71,768字
<あらすじ>
令和とよく似た、しかし隣国と休戦中という少しだけ違う海生日本の東京で。
主人公伊藤恭子は、「柊社」の総務部長秘書であり、やりがいを感じている一方で、実は異能力者であることを、周囲にひた隠しにしていた。
ある時、恭子は相談役と直に面談
小説「秘書にだって主張はある。」第二話
二 「戦争」
それにしても、北海道か・・・
恭子は思い返した。
実は、北海道は恭子にとって生まれの土地である。
そして、10才の時、この石巻に引っ越すまで、親子3人で旭川に暮らしていた。
父は、旭川市職員、母は専業主婦であったが、家計が苦しかったのか、時折パートに出ていた。
それが幼かったそして一人っ子の恭子には、少しさびしかったのではと思う。
その分、恭子の関心は環境に向き、幼
小説「秘書にだって主張はある。」第三話
三 「顧客」
海生5年1月4日(水)1100 柊(ひいらぎ)社
年末年始の休暇も終わり、東京に帰ってきた恭子は、張り切って就業体制に戻っていた。
今日から、めでたくお年始営業だ。
恭子の勤める、柊社は、東京都千代田区神田にある卸売商社で、商品は主に化学分析機器を取り扱っている。
資本金は、2,500万円。中小業種でも古参であり、その中でもそこそこ大きく、近年の業績も安定している。
所
小説「秘書にだって主張はある。」第四話
四 友人
1月4日(水)1220
「ねえウワサ聞いた?」
神田のカフェ「ポモドウロ」のカウンターに二人で並んで座りながら、一緒に昼食のスパゲッティーを食べていた営業部長秘書の工藤直子(なおこ)が、正面キッチンを向いたまま話題を振ってきた。
直子は、二人の時は名前で呼び合うほどの、気のおけない仲で、身長は恭子より3cm高い168cm、映えのある顔立ちと、秘書らしく品位を保ちつつも適度にグラマ
小説「秘書にだって主張はある。」第五話
五 面談
1月5日(木)0955
今回の相談役との面談調整は総務部長が買って出てくれて、柊邸で次の日である今日1000に実施することになった。部長は部長で、なんだかんだ気を遣ってくれているらしい。それはしょうがない。私との約束を守らなかった彼が悪いのだ。
恭子は、一度、柊社に早めに出社してから、あらためて出発し、約束の時間の5分前に目的地である柊邸に到着した。
その時に感じたが、「邸」と
小説「秘書にだって主張はある。」第六話
六 予約
1月5日(木)1500
それでもやはり、恭子は電話機を前にしてしばらく躊躇していた。
どうにもやはり、軍というものに敷居の高さを感じるのだ。だが相談役の指示だ。やらずばなるまい・・・。
意を決して、受話器を取り、相談役から預かった電話番号を入力する。
コールは3回で出た。
「あの、私は、東京都神田にあります柊社の伊藤と申します。柊道彦様の電話でございますか?」
「ああ、そうで
小説「秘書にだって主張はある。」第七話
七 軍人
1月6日(金)1230
恭子は、ちょと早目に社を出た。相手は軍人、時間には特に厳しく構えておくべきである。
ちなみに今回、外出の表向き用件は、「総務部のお客様用お菓子の買い出しを兼ねた長めの昼食」にした。
念のため、直子に、ちょっと遅くなるかもと、フォローをお願いしてきた。見返りはおやつのケーキだ。
ところで恭子は、往路を歩きながら、ある漠然としたことを考えていた。そう、道彦
小説「秘書にだって主張はある。」第八話
八 経過
1月6日(金)1600
帰社した恭子は自分のデスクで電話を前にして、しばらくは悶々としていた。
相談役への報告事項を頭の中で整理するためになど、もちろん単なる言い訳だと自分でもわかっている。道彦との会話のメモなら、ほら、目の前にあるじゃないか。
その上、いつもなら意識外にふり払えるはずの総務部ブースの雑音が妙に気になる。
なぜなの?
しかし、このまま考えているばかりでは、い
小説「秘書にだって主張はある。」第九話
九 不穏
1月10日(火)0830 柊社
いつものとおり、始業時間前30分に出社した恭子は、社内の様子が、しきりに気になって落ち着かなかった。
いつもと何かが違う・・・。
こう言った社内の雰囲気の様なものを肌で感じ取るのも、秘書として必要な資質だと自分では、そう思っている。
そして、しばらくはそれが何なのかはっきりしなかった。が、しかしようやく、自分自身が社員の視線を受けていることに気
小説「秘書にだって主張はある。」第十話
十 承認
道彦のとの電話を切った直後、周りから見られていないことを確認し、1回だけ、しかしその分、大きく深呼吸をした。
よっし、一つやってみるか。
そう、まずは趣旨からだ。
「本件は、我が社の北海道、東北地域における営業活動の間題解決に貢献できる」
立派な理由だ。太鼓判!まず大丈夫。
次はもちろん経費。
スマホを片手に持つ。
いつも総務部長の出張経費積算をやっているから、恭子にと
小説「秘書にだって主張はある。」第十一話
十一 往路
1月12日(木)0600東京本郷アパート
東京は晴れ、しかし・・・。
スマホをタップしニュースを見ると、残念ながら、現在、北海道は移動性低気圧と寒冷前線が通過中で、午前中いっぱいは影響が残るという予報だった。
手荷物の準備は昨日の夜までに済ませている。小さめのカート一つだけだ。ガッチリ防寒効果のあるコート以外はできる限り軽装のほうがいい。
恭子は、スマホを取り出し、もう一
小説「秘書にだって主張はある。」第十二話
十二 旭川
1月12日(木)1250
運転が始始まってしばらくして、ふと、恭子は道彦があまりしゃべっていないことに気づいた。
なんとなく、らしくない・・・。
恭子は、もしかしたら運転に集中したいのかと思って、喋りかけなかった。意外だが、あまり上手くないのかもしれないと思った。
30分ほど、道彦の車で移動すると市街に入った。そして、レストランとかにしては、ちょっと広すぎる駐車場に停めて、
小説「秘書にだって主張はある。」第十三話
十三 訪問
1月12日(木)1400
店を出て、車に乗り込むと道彦は急におしゃべりを加速し始めた。
これまでの短いながらの付き合いから、これは、道彦がペースを掴んだ時の態度の一つだと気づいた。
「さて、これから北海道統合軍司令部へ向かいます」
「よろしくお願いします」
車に乗せてもらっていることを、また少々引け目に感じて、恭子は少し小声で返事をした。
「ちなみに案内場所は、さっきと同じで
小説「秘書にだって主張はある。」第十四話
十四 俯瞰
1月12日(木)1545
就実の丘は、旭川市内から30分ほど車で移動した所にある丘陵地帯だ。
二人は雪原のとある場所に行き着くと、そっとあたりを見回した。くねくねとうねる丘に、道が続き、木々が点在する。
本当に誰もいない。そしてなにもなく、ただ一面の雪だ。
あたりは暗くなってきた。だいぶ斜めになってきた陽光の名残でも、大雪山は、まだはっきり見える。
とても雄大だ。
ここ