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小説「秘書にだって主張はある。」第十五話
十五 遭遇
1月13日(金)0000
実は2300頃、ちょっとホテルのバーに行ってカクテルを2杯ほど飲んでいた。
恭子は、今日の出来事を思い出して、そして旅の高揚感もあって眠れそうになかったからだ。旭川で明日立ち寄る場所も、まだ決まっていない。
そのアルコールがようやく効いてきたのかもしれない。
ベッドで横になっていた恭子はようやく深夜になって、まどろんできた。明日の予定は明日考えようか、なんてウトウトしていた・・・。
その時。
かすかに残っていた意識に、コツン!という割と高い足音が割り込んできて、いっぺんに目が覚めた。
「だれかいるの⁉︎」
「ごめんなさいね。夜分失礼するわ」と女の声がした。
鍵はしっかり閉めたはずだ。
暗くてよく見えないが、相手はテレビの方向3mほどの所にいるらしい。
さらに意識を向けると、・・・。
能力者!
言葉遣いからして、いきなり乱暴なことをするつもりは無いらしいが、刺激しない方が無難だろう。
「電気、つけていいかしら?」
刺激しないよう一応断ってからベット脇に配置してあったスイッチを入れた。
コート姿の女性が一人。
恭子は、息を呑んだ。
そう、そこには年末に夢の中で出会った彼女がいたのだった。
「どうしてここへ」恭子はちょっとまぬけな質問をしてしまった。少なからず動揺してしまっていたのだ。仕方ない。それでも相手は一応答えてくれた。
「説明するには、時間が足りないわね。お察しかもしれないけど、私、空間転移能力者なの。それにしても成功するとはね。びっくりしちゃったわ」
「えっ・・・」
どういうこと?恭子には意味がわからなかった。
「私は、柊という会社に勤める伊藤恭子と言います」
相手が返してくれるかもと思い、自ら先に名乗った。そして、彼女が「そう。私はね・・・」と答えようとしたところで、あの夢の時と同じように突然消えた。
おそらく30秒たって能力が切れたからだろう。
しばらくの間、呆然としていたら、スマホの音が鳴り始めた。
送信元は道彦だ。思ってもいなかったので恭子は少し慌てて電話に出た。
「道彦さんですか?」
「どうした?何があった?」
「3分ほど前、ホテルの私の部屋に見知らぬ女が侵入してきました。おそらく能力者です。そして、30秒ほどして消えました」
「分かった。きみは無事なんだな?」
「はい大丈夫です」
「そうかよかった。このあと今すぐロビーにお願いして部屋を変えてもらうんだ」
*
恭子は言われた通り部屋を変えた後、道彦に電話をかけ直した。そうするのが礼儀だと思ったからだ。実を言うと訳のわからない状態で、要は不安だったのだ。
「道彦さん、部屋を変えました」
「うん無事でよかったよ」道彦は再度繰り返した。
「でも、助かりました。どうして分かったんですか?」
「そうだなぁ。今度ばかりは少し怒られそうだけど正直に話すね。実は、君に護衛員を付けていたんだ。さっきの部屋の隣だった」
そうか、そんなことをしていたんだ。思いもよらなかったが、特に不快には感じなかった。
「少々プライバシーを侵害しているかもしれないが、誓って安全確保のためだ。その護衛員から、部屋の様子がおかしい、話し声が聞こえるっていう連絡があったんだ」
「そういうことだったんですね。だったら言って下さればいいのに」
「でも、こんなことまで起こるとは思わなかった。どんなやつだったの?まさか外国人じゃないだろうね?」
「たいへん綺麗な女性で、おそらく日本人だと思います。年齢は25、6才。身長は多分150cm半ぐらい、可愛いと言うより立派な感じ?」
「なに、それ。たった30秒かそこらのうちにずいぶんとまた細かく」
「それから、おそらくは彼女は空間転移能力者です」
「・・・」
ふいに道彦の声が途切れた。その後、念のために、そこから出ないように、とだけ言いのこした後、電話は切れた。
正直、少し唐突な切り方に恭子の不安はあおられてしまった。男は中身が大事なんて思っちゃったけど、やっぱり撤回しようか。
もし、あれが、露西矢の関係者だったらどうしよう。
もし、恭子が寝入った後、また空間転移してきたらどうしよう。
もし・・・。
いつものひとり暮らしでも全く気にならないのに、今は身近に誰もいないことに、急に不安を覚え、恭子はまた寝つけなくなってしまった。
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