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お前という存在が欲しい

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ブロードキャスト
湊かなえ
KADOKAWA

そういうモノだったんだと

 圭祐が高校入学前に交通事故に遭ったのはそうショックではなかった。そもそも、中学最後の大会で、全国大会へ進出できなかった元凶は自分にある。陸上部顧問の村岡先生が、もし自分の代わりにライバル関係であった良太を選出していたなら行けたであろう。その後ろめたさに陸上の世界から外れたこと。その真相は、高校に入学してから知ることになったのだが。

違う道で全国へ

 そんな圭祐が、陸上の代わりに見つけたのは、同学年の正也に誘われた放送部。先輩後輩関係なく、部員同士がぶつかり合いながらも、正也が描いたシナリオ“ケンガイ”が全国大会へと牽引するきっかけになった。しかし、そんな正也は自らの手柄だとは思おうとはしない。実は、久米咲樂という、クラスからも外された存在で、かつ、スマホや携帯電話も所持せず、SNS(LAND)からも外され孤立していた存在。

お前が必要だ

 話は、圭祐に戻る。事故による怪我で体育の授業に参加できない代わりにレポートを提出しにいくと、高校の陸上部の顧問である原島先生からスカウトを受ける。実は、自身の後輩である村岡から、逸材がお前の高校に入学したぞと連絡があった。気持ちが、陸上へと揺らぐまま、彼は手術を受けることに。

ウソが発覚する

 その病院にて、後輩である田中の、自身の父が末期がんでその父のために活躍をしたいと言うことがウソであることが発覚した。実は、中学の時に、村岡が良太を外した理由は、良太が高校推薦を得る条件が中学最後の大会に出場させないこと。つまり、陸上においてエース級の活躍をさせるためには、ピークを高校以降へ持って行かせたいが為だったから。そのライバルの事情を知ってしまった圭祐。良太にその事実を曝露する。となると、手術を終え、陸上の世界へカムバックをすることもできるのだが、放送部を取るか、もしくは、もう一つの選択をするのか。

朝井リョウ作品に匹敵するほど

 湊かなえにしては、朝井リョウに匹敵するほどの学園モノ、それが意外だった。けれどもメッセージとして伝えたかったのは、正也が書いたシナリオ“ケンガイ”だったのではないか、と考える。つまり、「圏外」。コミュニティから阻害される事への冷酷さ、最近は、SNSによるイジメがより深刻化している。そういう哀しいことを無くすためには、という著者のメッセージを、今の中高生に問うてみたい。そのアプローチとして、「放送部」という部活動をチョイスしたのだろう。道徳の教材として使って欲しい。

もう一つオススメ

 湊かなえ作品の中で、もう一つ学生モノとして挙げられるのが、テレビドラマ化にもなった「高校入試」。あの作品は、入試日程の最中に教員同士が不当な採点の元凶を推理し合うという設定が、今の入試制度を問うている。社会に訴えたいという共通の作品として、こちらもオススメしたい。

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