岡本かの子『金魚撩乱』評論10000字超
金魚神話
~岡本かの子小説『金魚撩乱』の考察~
論者 西山宗一(漫画原作者)
Ⅰはしがき
これより、岡本かの子の小説『金魚撩乱』を考察する。文芸として本作を批評し、また、本論の補助として金魚の表象を考え、フィクション表現における金魚の在り方、金魚の評価のされ方を導き出したい。
私は作家であり金魚愛好家だ。この二つの知見を用いたい。また、金魚を題材として取り扱うに当たり、文化・人種・国籍・職業・世代などに関して、もっともらしい言論・文彩を用いて、差別的な考えを述べること・専門性を偽ること・論者が意のままに団体・個人を貶めることのないよう徹底して務めることを大前提条件とし、また、学問的知識は、断片的な情報ではなく、理論体系を伴っているものと定義する。また、論者の専門外の事柄を取り扱いながら『金魚撩乱』を論じることは、あくまで横断的な教養とともに考えを述べるものであり、明らかな飛躍や妥当性に欠ける推論を排することに論者は尽力し、また、その道に精通する専門的研究に敬意を示すとともに、できる限りの思慮を尽くした論理展開を、意図した過不足のないよう誠実に行うよう心がけたい。
以上を金魚を題材とした本作の考察に至った動機とする。
Ⅱ本論
真佐子と金魚の一体化
本作において真佐子を金魚と重ね合わせた表現が散見される。初めに直喩として幼少期の真佐子を『まるで、金魚の蘭鋳だ』と復一の義父である宗十郎は例えた。
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