【SH考察:046】記念祭の過去曲は絵馬に願ひを!の何を暗示していたのか
Sound Horizonの絵馬に願ひを!Prologue Edition発売後、「Around 15周年記念祭」というコンサートで過去曲も扱われた。
その際、絵馬に願ひを!に関連するかもしれないししないかもしれない、真面目なのもあれはおふざけもある、というニュアンスの話があった。
そこで、各曲が絵馬に願ひを!とどう関係しているか、Full Editionの内容がわかる今だからこそ振り返ってみた。
対象
Sound Horizon Around 15周年記念祭第3部での取扱曲
7.5th or 8.5th Story 絵馬に願ひを!Full Edition
考察
演出差分と配役
Sound Horizon Around 15周年記念祭では、第3部で以下に挙げる曲が合計2回ずつ行われた。
その際、曲によっては1回目と2回目で演出が異なっていた。私が知る範囲で違いも簡単に書いておく。
また、配役はこの時点では当然ながらPrologue Editonに登場する人物で担当している。
この時、Full Editionでは伊咲 那美である女性は、Prologue Editionでは伊坂 那美として紹介されていた。
ただややこしいため、ここでは「那美」とだけ表記する。
各曲、参考までに原曲の視聴リンクも載せた。
『檻の中の箱庭』
演出パターン
2021/02/05
2021/03/31(バット持ち少年が介入)
配役
便宜上R.E.V.O.:神社関係者
SCHau:那美
ROhre:佐久夜 姫子
DINg :天野 宮比
GERät:猿田 犬彦
関連性:選択するまではどちらともいえる状態
『檻の中の箱庭』はあからさまにシュレーディンガーの猫を表している。
間違われやすい点だが、シュレーディンガーの猫は、箱の中の猫が生きているか死んでいるかわからない確率五分五分という話ではなく、猫が生きている状態・世界と死んでいる状態・世界が共存しているという主張だ。
コンサートでは一部歌詞が変わっている。
猫ではなく大神、つまり我々が生きてもいて死んでもいるという表現になっている。不穏か。
『Sacrifice』
演出パターン
2021/01/19(選択なし、原曲のように放火)
2021/02/07(選択の石碑出現、選択結果で妹が出産、放火無し)
配役
妹を犠牲にされた姉:佐久夜 姫子
コーラス :那美、天野 宮比、猿田 犬彦
関係性❶:戸惑いのセリフ
この曲、わりと絵馬に願ひを!に通じる点が多いかもしれない。
『Sacrifice』で姉が村人の態度に戸惑うときのセリフと、『私の生まれた《地平線》』で姫子がクラスメイトの態度に対して言ったセリフが似ている。
関連性❷:放火時のセリフ
『Sacrifice』のセリフと、『生まれちゃいけない命など在りはしない!』の伊咲 那美のセリフが似ている。
『Sacrifice』の「等しく」が『生まれちゃいけない命など在りはしない!』には入っていないのは、放火の範囲の違いだろうか。
前者では教会のみならず、妹を殺すことに賛同した村人全員を対象に焼き払っているように見える。それに対して後者では、放火対象が神社だけ。
関連性❸:産むべきか産まざるべきかという選択
佐久夜 姫子は主観が影響して、伊咲 那美の安産祈願の絵馬に対する選択肢が産むべき/産まないべきの2択になっている。
02/07では、曲の途中で選択の石碑が登場し、妹が子を産むべきかどうかという主旨で選ばされた(詳細な選択肢文言は失念)。
その日の大神は子を産むべきという方を選択した結果、子は産まれたものの、その子が教会を巻き込む大騒動の火種になった…という結末。
(余談だが、その選択後に明るい雰囲気に転調して、それはそれでかえって不気味だった)
『遥か地平線の彼方へ』
演出パターン
2021/01/19(関係あるかもしれない星)
2021/02/07(関係ない星)
配役
暗誦詩人ミロス :猿田 犬彦
其の弟子エレフセウス:神社関係者
関連性:神社/能楽関係者は双子だった
歌詞はそのままだったが、セリフの一部が改変されている。例えばここ。
ここのミロスのセリフが変わっているのと、神社関係者のセリフが追加された。
この「お前に関係あるかもしれない/関係ない星」は、言うまでもなく直前の「寄り添う双星」のこと。
これはふたご座の中に含まれるカストルとポルックスのことで、ギリシャ神話に登場する同名の双子から名付けられた星だ。
つまり、ここから神社関係者は双子かもしれないしそうではないかもしれないし……、という曖昧な感じを醸し出している。
Full Editonでは、能楽関係者が以下のように歌っている。
神社関係者と能楽関係者が同一人物かという問題はいったん置いておく。
この歌詞はヴァニシングツイン現象(子宮の中にいる双子のうち、片方が死んで子宮に吸収され消えてしまったように見える現象)を表しているように見える。
このことから、少なくとも能楽関係者が、双子のうち生まれることが出来なかった方であることを、『遥か地平線の彼方へ』のセリフで暗示していたと思われる。
『神々の愛した楽園~Belle Isle~』
演出パターン
2021/02/05(差分なし?)
2021/03/30(差分なし?)
配役
メインVo.:佐久夜 姫子、天野 宮比、那美(原曲は1人だが3人で分担)
関連性:愚かなる《人々》?
ちょっと自信がない。私がBelle Isleのストーリーに詳しくないため、そもそも原曲の歌詞を意味を忠実に理解できていない可能性が高い。
ただ、その中でもこの歌詞が気になった。
人々と書いて神と読ませている。
これが、現実では一介の人間であるローランが狼樂大神として祀り上げられたことか、それとも日本神話の神々の名に由来しながらもただの人として扱われている登場人物たちのことか……。
どちらかを比喩している気がしたが、どうだろうか。
『生と死を別つ境界の古井戸』
演出パターン
2021/02/07(妹)
2021/03/31(弟、少年が介入)
配役
健やかに悲惨な子:天野 宮比
意地悪な寡婦 :那美
性悪な妹 :佐久夜 姫子(02/07)
性悪な弟 :須久奈 月人(少年期)(03/31)
ホレおじさん :猿田 犬彦
関連性:感染症?
結構こじつけじみているかもしれないが、正直これくらいしか関連性が思い浮かばない……。本当は単に盛り上がるから選ばれただけかもしれない。
『生と死を別つ境界の古井戸』の解釈の一説として、ペストの感染拡大を暗喩しているのではないかというものがある。
曲の最後にネズミが駆け回る声と音がし、コンサートではそれが視覚的にも強調されていた。
ペストはもともとネズミの病気で、ノミを媒介して人に感染したと言われる。(近年異論もあるようだが)
ペストには、腺ペストと肺ペストがあるようだが、中世ヨーロッパで流行ったのは腺ペスト。これは感染すると身体の一部が壊死し皮膚が黒ずむ。
怠惰な妹が瀝青塗れ、つまり体が黒くなるというのは、ペスト感染の症状を例えたものではないか?という解釈だ。
で、絵馬に願ひを!に照らし合わせると、作中の展開によってはコロナが流行する。この感染拡大を意識したもの……かも?
『魔法使いサラバント』
演出パターン
2021/02/05(ハッピーエンド)
2021/03/31(宮比が魔法のランプに戻される)
配役
男 :猿田 犬彦
胡散臭い面の男:神社関係者(原曲では胡散臭い髭の男)
ランプの精 :天野 宮比
男の母親 :那美(原曲では恋人だったが母親に変更)
コーラス :佐久夜 姫子
関連性:犬彦の母親は亡くなっている
後にFull Editionの『生という名の罪過』にて、犬彦の母親...というか、父母、祖母、兄が全員事故で亡くなっていることが判明する。
『魔法使いサラバント』では母親のことしか触れていないものの、既に亡くなっていることの暗示として読み取れる。
『歓びと哀しみの葡萄酒』
演出パターン
2021/01/19(背後から刺す)
2021/02/06(背後から刺さない)
配役
Loraine de Sant - Laurent:那美
仮面の男:神社関係者
関連性:子への愛?
原曲のロレーヌは、駆け落ちしようとするものの相手の男を仮面の男に殺され、貴族の駒のように扱われることに嫌気がさして逃走、ワイン造りに従事するようになる。
そして、ワインのことを自分の子供のように愛している。
「子供(達)」への愛があるという点で、広い意味で那美と共通点があると言えなくもないとは思うものの、ロレーヌは人はもう愛さないと明言している。
この点は那美とは離れている気がしていて、「子供(達)」への愛だけが関連性というには少々違和感がある。
『死刑執行』
演出パターン
2021/01/19(差分なし?)
2021/02/07(差分なし?)
配役
刑事犬彦:猿田 犬彦
女性Vo. :天野 宮比
関連性:犬彦の未来の選択肢の一つ?
そもそもこの曲はSound Horizonの曲ではなく、Revo個人名義で参加した「リヴァイアサン/終末を告げし獣」の収録曲。
この曲に登場する「犬彦」は新宿警察署猟奇殺人課の刑事。
それをふまえて、Full Editionの鹿島 健の『ある少年の記憶』の内容に気になる点がある。
犯罪組織を追い詰めるなら当然捜査機関で、警察かそれに準ずる機関に属する運命ということだ。
そして、絵馬に願ひを!で赤髪は犬彦だけ。つまり、犬彦の運命に捜査機関に属する可能性があるということになる。
『星女神の巫女』
演出パターン
2021/02/06(死せる乙女その手には水月の冒頭まで)
2021/03/30(選択の石碑出現、愛という名の咎へ)
配役
アルテミシア :佐久夜 姫子
詩女神コーラス:那美、天野 宮比、猿田 犬彦
関連性❶:巫女
アルテミシアはレスボス島に流れ着いた後、星女神の聖域で巫女として仕えることとなる。
佐久夜 姫子は実家が狼樂神社に変貌してからは、そこの巫女として仕えることとなる。
宗教観は違うが、どちらも巫女という点で一致。
関連性❷:入水
アルテミシアはスコルピオスに斬られた結果水に落ち、『弥生の大海原』の佐久夜 姫子は自ら海に入って入水自殺を試みるという違いはあるが、水辺での死という点では近い。
『光と闇の童話』
演出パターン
2021/02/06(差分なし?)
2021/03/20(差分なし?)
配役
Märchen von Friedhof:猿田 犬彦
エリーゼ:スズ
関連性:ミルフィーユ
Full Edition初出の『太陽を盗んだ女』にメロディーの引用がある。
『緋色の風車』
演出パターン
2021/02/05(差分なし?)
2021/03/30(差分なし?)
配役
メインVo.:天野 宮比
コーラス :佐久夜 姫子、那美
語り :猿田 犬彦
関連性:特になし?
この曲はコンサートでの定番で盛り上がるため、正直関連性よりもコンサート映えの意味合いが強いように思う。
無理矢理関連性を見出すならば、『緋色の風車』では村?が明らかに燃やされており、絵馬に願ひを!でも時折放火を懸念するような描写が差し込まれる。
『宵闇の唄』
演出パターン
2021/01/19(差分なし?)
2021/02/27(差分なし?)
配役
Märchen von Friedhof:神社関係者
屍人姫 (エリーザベト):佐久夜 姫子
屍人姫(修道女?):那美
屍人姫(青髭の妻):天野 宮比
屍人姫(?) :猿田 犬彦("姫"とは)
関連性:記憶を失っている
メルヒェンは、メルツ フォン ルードウィングが井戸に落とされ死んだ後に、井戸の中で目覚めた姿。
その際、メルツだった時の記憶を失っている。
そして、Full Editionで能楽関係者も、何らかの記憶を失っている節がある。
『Baroque』
演出パターン
2021/01/19(承認欲求クソデカギャルが!)
2021/02/26(ならば私が許そう)
配役
歪んだ真珠の乙女:天野 宮比
仮面の男 :神社関係者
(もともと仮面の男はABYSSだが、神社関係者も狐面だから「仮面の男」と言っても差し支えないな…)
関連性:同性愛
選択肢自体はPrologue Editionの時点で既に見せられていたため、暗示というかもはや明示だが。
宮比は恋する相手を絵馬に明記しなかったため、選択肢として異性愛(犬彦を対象とする)と同性愛(許理を対象とする)で分岐が起きる。
そのうち同性愛の方と関連した選曲だろう。
なお、『Baroque』はかなりギャル語に改変されているが、ストーリーとしては概ね原曲の通り。つまり、宮比は告白するもフラれ、逃げた相手(つまり許理だろう)を追いかけた結果二人とも転がり落ち、相手が死んでしまう。
実際に告白したのは境内ではなく九重山広場なので、状況的には完全一致はしないものの、この明らかにバッドエンドは気になる。
『Sacrifice』が選択肢の出現によって、妹の子が産まれるように改変されたのに対し、『Baroque』は2回とも改変されなかった。
これはFull Editionで描かれなかった許理への告白の結果の暗示…か?
『Mother』
演出パターン
2021/02/05(制服)
2021/03/31(つなぎ)
配役
メインVo.:犬彦(神社関係者から奪った)
関連性:なし?
ちょっと何とも言えない。
少なくとも原曲の性格と犬彦の性格は合ってない。
『石畳の緋き神社関係者』
演出パターン
2021/02/06(差分なし?)
2021/03/30(差分なし?)
配役
シャイタン:神社関係者
ライラ :佐久夜 姫子
サランダ :天野 宮比
トゥリン :猿田 犬彦
エーニャ :那美
関連性:ムカチャッカシャイタン
現実の日本で2013年頃に流行った、怒りを表すギャル後の6段活用を基にしたと思われる表現。
おこ(弱め)
まじおこ(普通)
激おこぷんぷん丸(強め)
ムカ着火ファイヤー(最上級)
カム着火インフェルノォォォォオオウ(爆発)
激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリーム(神)
ちなみにこれ↑、wikipediaから拾ってきたのだけれど、最後の「神」って何?
で、これが関連するところとしては『私の友達』での天野 力の怒り表現。
『ゆりかご』
演出パターン
2021/02/07(選択なし)
2021/03/31(選択の石碑発生)
配役
母親 :那美
コーラス:天野 宮比、猿田 犬彦
関連性:子を亡くした母親
伊坂 那美や伊咲 那美は、少し運命が違ったらこうなっていたかもしれない。
『食物が連なる世界』
演出パターン
2021/02/05(夫が犬彦)
2021/03/31(夫が月人でバッドエンド)
配役
妻 :佐久夜 姫子
夫 :猿田 犬彦(02/05)、須久奈 月人(03/31)
いじめっ子:天野 宮比
医者 :那美(02/05)、神社関係者(03/31)
猟師? :神社関係者(02/05)、猿田 犬彦(03/31)
関連性❶:姫子が妊娠する
『生まれちゃいけない命…』『生みたかった命…』『生まれちゃいけない命など在りはしない!』では、いずれも姫子が妊娠し、出産する。
関連性❷:妻をバットで殴る夫の存在
夫役を月人が演じていた場合、最後にバットで姫子を殴ろうとする。
Full Editionでは月人の父親酒林 ナギヒトが、妻つまり月人の母親をバットで殴り殺してしまい、ニュースになる。
関係性❸:戸惑いのセリフ
これは『Sacrifice』にも通ずることだが、『食物が連なる世界』にも類似のセリフがある。
『星の綺麗な夜』
演出パターン
2021/02/06(差分なし?)
2021/03/30(差分なし?)
配役
便宜上Halloween Night:神社関係者
ディアナ:那美
破落戸の《野心家》:猿田 犬彦
コーラス:伊咲 那美、佐久夜 姫子、天野 宮比、猿田 犬彦
関連性:ジャガイモを投げつけてくる謎の幽霊
『あるジャーナリストの記憶』で久延が言った取材ネタのひとつ。
この幽霊については作中ここでしか触れられていない。
ちなみに、絵馬に願ひを!~大神再臨祭~でもなぜかRevoが書いた絵馬のうちの一つがアイルランド語になっていた。というか署名がシェイマスだかウィリアムだかになっていた。
ちなみにこの絵馬の内容を翻訳するとこのようになる。
結論
関連性が明らかな曲もあればそうでもない曲もあった。
絵馬に願ひを!での展開のにおわせが強めだったのは『Baroque』『Sacrifice』『食物が連なる世界』あたりだろうか。
いずれにせよ、映像化して発売してはもらえないものだろうか……。
―――
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更新履歴
2023/08/05
初稿
2023/09/11
絵馬に願ひを!曲名表記をSalon de Horizon 会報誌vol.68+69をもとに正式な曲名に更新
2023/09/22
曲名表記を一部修正
2024/04/24
一部歌詞引用について「※ルビは書き起こしのため誤差がある可能性あり」の注釈追記
サカバヤシの表記を酒林に変更
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