【SH考察:032】姫子の願いを伝える祝詞の現代語訳
Sound Horizonの『絵馬に願ひを!』では、祝詞を唱えるシーンがある。現代語とはかけ離れた表現を多用するため、一見すると大まかには理解できても読みにくかったり、正確な意味がつかみにくいところもある。
そのため、今回その意味を調べて現代語訳してみた。
対象
7.5th or 8.5th Story 絵馬に願ひを!Full Editionより『狼樂神社』『狼樂大社』
考察
祝詞とは
祝詞とは祭祀の際に神様に向けて唱える言葉のこと。それを読み上げることを奏上という。
神様に対して最大限の経緯を払い、平身低頭して使えることを約束し、恐れ謹んで願い事をする、という構成になっている。
祝詞は神社や神職ごとに、そして時代によっても変わるため、狼樂神社・大社の祝詞は神社関係者や能楽関係者の特色(メタ発言をすると、Revoに対して祝詞について教示した神職の特色)が出ているとみて良い。
祝詞は一定の構成に基づいて作られている。
多くの場合、発端文、由縁・神徳文、感謝文、 目的文、献供文、祈願文、結尾文という順序だ。
※ただし狼樂神社・大社では一部順序が入れ替わっている
狼樂神社・大社の祝詞
祝詞の前半、姫子の出番が来る前までは神社・大社で完全に同一。
まずはそこまで見てみよう。
掛まくも畏き
ここから「~白さく」までが発端文。
神様の前で神職が、神と人との仲介役として、祭祀を行うことを宣言する文章のこと。
古語では「掛く」に気にかける・思うといった意味があり、「掛まくも」で「心に思い浮かべることも」「言葉に出して言うことも」という意味。
「畏い」は恐れ多いという意味。
⇒現代語訳:心に思い浮かべるだけでも恐れ多い
狼樂大神の 貴の大前に
「貴」は、「あなた」を尊敬の意を込めて表したもの。
「大前」は天皇や神様の前のことを敬った表現。
⇒現代語訳:狼樂大神の前において
恐み恐みも白さく
「恐み」は前述の畏きと同様恐れ多いという意味。繰り返して強調している。
「白す」は申すと同じく言うの謙譲語で、はっきり素直に言うというニュアンスが強い。また、後ろに続く文章がある場合に「白さく」となる。
⇒現代語訳:謹んで申し上げますが
蒙り奉る 恩頼を 尊み奉り 忝み礼び奉る
感謝文。神様の威厳や徳、加護(=恩頼)に対する感謝の意味を示す。
「蒙る」はこうむるとも読み、恩恵を受けるという意味。奉るをつけて尊敬の意をつけている。(この表現は以降も頻出する)
「忝む」は恐れ多いという意味。
「礼ぶ」は礼を尽くす、敬うという意味。
この辺りでもうお気づきの通り、神様に対していろいろな表現を重ねてとにかく恐縮しまくっている。
⇒現代語訳:お授けいただく大神様の恩恵を、敬いの気持ちで、恐れ多くも感謝しお礼申し上げます
なおここまでで、はっきり由縁・神徳文と言える文節が定まらなかったこと、内容的にそもそも感謝文と重なることが多い文でもあることから、「蒙り奉る~」が由縁・神徳文を兼ねているのかもしれない。
次に、姫子の出番から最後まで。
神社と大社で異なる部分は併記する。
此処なる女 佐久夜姫子/石長姫子
ここから「~思ほし給ひ」までが献供文。神様に対して舞などを献上し、それを見定めていただくことで神様から徳や加護をいただきたいという意思を表す。
今回の場合は、姫子の巫女としての働きを献上するものとしたようだ。
これはそのままの意味。
⇒現代語訳:ここにいる女性、佐久夜姫子/石長姫子は
参上り来て
「参上る」は目上の者(今回は大神)のところに行くこと。
⇒現代語訳:大神様のところへ参上し、
御前に仕へ奉る状を
御前は前述の大前と同様、神様の前のこと。そこに仕える、つまり姫子が巫女として仕えることを示している。
「状」は様と同じで、様子のこと。
⇒現代語訳:あなた様にお仕えする様子を
愛しと思ほし給ひ
わりとそのままの意味。「愛し」はいとおしいという意味。
⇒現代語訳:いとおしいとお思いになっていただき、願いをお聞きいただきたく
父の煩ひを 祓ひ給へと/父の魂を 反し給へと
ここが祈願文。神様に対して徳や加護をいただきたい旨を述べる。
また目的文(祭祀の目的を述べる部分)も兼ねているかも。
ここは佐久夜 姫子と石長 姫子で父親の状態が違うため、願いたいことも変わっている。
「煩い」はこの場合病気のこと。現代語の場合は同じ読みでも患いと書く。
⇒現代語訳:父親の病を治していただきたい/父親の魂をお返しいただきたいというお願いを
恐み恐みも白す
結尾文。結びの言葉。
⇒現代語訳:恐れ謹んで申し上げます
結論
現代語では慣れない表現も多いが、全体的に神に対してとにかくかしこまって恐れ多いという意を繰り返し繰り返し使うことで、最大級の尊敬の意を表している。
逆に言うと、その表現を除くと言っていることは実にシンプルで、巫女として仕事するから父を助けて(病を治して/生き返らせて)!ということだ。
―――
参考文献:
瓜生 中(2017).『よくわかる祝詞読本』.角川ソフィア文庫
―――
よろしければスキボタン(♡)タップ・コメント・シェアしていただけますと幸いです。
他にもSound Horizonの楽曲考察記事を書いています。
絵馬に願ひを!関連記事:
【SH考察:016】絵馬に願ひを!秋津皇国を現実と照合してみた
【SH考察:017】絵馬に願ひを!登場人物の名の由来
【SH考察:025】陽葦火山神社の歴史に関わったであろう廃仏毀釈とは
【SH考察:026】絵馬に願ひを!の中に見られる日本神話のオマージュ
【SH考察:027】絵馬に願ひを!と三種の神器
【SH考察:028】宮比と犬彦の《結末に至らない》ルートは同一時系列である説
【SH考察:029】佐久夜姫子によるかぐや姫的振る舞い
【SH考察:030】久延鳶彦の記憶を追う(前編:物の名前の語源・由来)
【SH考察:031】久延鳶彦の記憶を追う(後編:取材ネタ)
【SH考察:033】秋津を左右する神託の解釈
【SH考察:034】絵馬に願ひを!に関するアレコレ(言葉の使い方編)
【SH考察:035】絵馬に願ひを!に関するアレコレ(二人の那美編)
【SH考察:036】絵馬に願ひを!に関するアレコレ(猿田 犬彦編)
【SH考察:037】絵馬に願ひを!に関するアレコレ(天野 宮比編)
【SH考察:038】月人の"親切"から見る登場人物の死因と月人の人間性
【SH考察:039】絵馬に願ひを!に関するアレコレ(天野 御影編)
【SH考察:040】絵馬に願ひを!に関するアレコレ(八島 知美編)
【SH考察:043】二人存在する那美と二人存在するかわからない那岐
【SH考察:045】秋津国はなぜCuegeneなのか
更新履歴
2023/06/23 初稿
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?