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Sound Horizonの考察・調査記事まとめ

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ニンニ リズが書いた、Sound Horizonの楽曲や世界観に関する考察や調査記録記事のまとめ。
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記事一覧

【SH考察:115】アルベルジュとアーベルジュの綴りは同じなはず

Sound HorizonのChronicle 2ndで主要なキャラクターであるアルベール・アルヴァレス。彼には「アルベルジュ」と「アーベルジュ」という2つの異名がある。 後者のみ綴りが判明しているが、前者の綴りは明かされていない。 ただ、私はどちらも同じ綴りで読み方のみ変えているように思う。今回はそう思う理由をまとめた。 対象1st Renewal Story Chronicle 2ndより『アーベルジュの戦い』『約束の丘』『聖戦と死神 第3部「薔薇と死神」~歴史を紡ぐ

【SH考察:114】カリフォルニア由来のLivermore

この記事が投稿される少し前の2024/10/23(水)に、わりと突然Sound Horizonの新曲『Halloween ジャパネスク ’24』が配信された。そのためこの曲の話題で持ち切りだ。 今回はどう考えても関連するであろう、2013年に発売されたシングルハロウィンと夜の物語の主要登場人物の話、具体的には名字がLivermoreであることに触れたい。 数多ある名字の中で、何故Livermoreだったのだろうか? 調べてみたところ、彼らが行き着いた地に実在した人物が関係

【SH考察:113】エリーザベトは「憂悶」聖女ではない

Sound Horizonの楽曲のひとつ『磔刑の聖女』は、グリム童話に一時的に含まれていた『憂悶聖女』がモデルとされる。 確かにストーリーは類似点がみられる。しかし『憂悶聖女』の成立過程を鑑みると、厳密にはドイツに伝わり『憂悶聖女』になる前の原型の姿がモデルではないかと考えられる。 今回はその原型の姿を確認する。 対象7th Story Märchenより『磔刑の聖女』 考察『憂悶聖女』 『磔刑の聖女』のモチーフはグリム童話の『憂悶聖女(ドイツ語:Die heilig

【SH考察:112】アアアアアアアアアアアアアアアア...

Sound Horizonの『宵闇の唄』では、エリーゼが唐突に「あああ…」と呻く。それは16種類の漢字を羅列して表現されているのだが、よく見ると「ア」と読まない漢字が混ざっている。 今回はなぜ唐突に意味をなさない呻きを入れたのか、そして「ア」と読まない漢字を混ぜたのかを考えてみよう。 対象7th Story Märchenより『宵闇の唄』 考察錏痾蛙遭嗟有合或吾会在唖逢娃婀堊 この漢字の羅列は『宵闇の唄』でエリーゼが歌う部分に登場する。 16種類の漢字で「ア」を表現

【SH考察:111】アーサー王伝説によるChronicle 2ndの騎士道物語らしさの付加

Sound HorizonのChronicle 2ndで、複数曲に渡ってアルヴァレスを取り巻く騎士道物語が描かれる。 この物語に登場する人物などの名称は、現実に伝わるアーサー王伝説由来であると考えられる。 そのため今回はアーサー王伝説との関連性を確認する。 対象1st Renewal Story Chronicle 2ndより『薔薇の騎士団』『聖戦と死神 第1部「銀色の死神」~戦場を駈ける者~』『聖戦と死神 第2部「聖戦と死神」~英雄の不在~』『聖戦と死神 第3部「薔薇と

【SH考察:110】オーギュストの子はローランサンか?

Sound Horizonの5番目の地平線Romanの中で、曲と曲の間でうっすらと関連性が見え隠れしているものがある。 今回はそのうち『天使の彫像』の彫刻家オーギュストの子が『緋色の風車』で生き延びた少年であり、『見えざる腕』で赤髪を殺したローランサンではないか?という可能性を検証したい。 対象5th Story Romanより『見えざる腕』『緋色の風車』『天使の彫像』 考察『天使の彫像』と『緋色の風車』の関連性 オーギュスト・ローランとは『天使の彫像』に登場する彫刻

【SH考察:109】死せる英雄達の戦いはいつ起きたのか?

Sound Horizonの6番目の地平線Moiraにて、エレフセウスとレオーンティウスはイーリオンという地で直接対決にもつれ込む。 このイーリオンは、日本ではトロイアという名前で知られる地の別名だ。そしてトロイアではかつて実際に戦争があったのでは?という説が考えられている。 そのため、現実においてトロイア戦争がいつ頃起きたのかを考えることによって、それを参考にしたであろうMoiraもいつ頃を舞台としているのかを推定できるのではないだろうか。 対象6th Story M

【SH考察:108】兄が「シェイマスだかウィリアムだか」と言った理由

Sound Horizonのハロウィンと夜の物語に登場する、リヴァモア兄妹の兄の方。彼は名前が確定していない。ただし自ら「シェイマスだかウィリアムだか」と口にしている。 今回は、なぜ他のどの名前でもなく「シェイマス」「ウィリアム」の2つの名前を口にしたのかを考えてみよう。 対象Story Maxi ハロウィンと夜の物語より『星の綺麗な夜』 考察名前がハッキリしない兄 作中の主要登場人物であるアイルランド出身のリヴァモア兄妹のうち、先にアメリカに渡った兄は名前がハッキリ

【SH考察:107】狼樂神社の鳥居の意味

Sound Horizonの絵馬に願ひを!では、狼樂神社の出現によって、霞がかかった幻想的な鳥居も登場する。 現実に目を向けると、鳥居にもかなりバリエーションがあることに気づく。狼樂神社の鳥居のデザインにはどのような意図があるのだろうか。 対象7.5th or 8.5th Story 絵馬に願ひを!Full Edition 考察そもそも鳥居とは何か 鳥居とは、神域と人の住む世界の境に置くことで、その区分けを明確にし、神域の入口を表すものだ。 狼樂神社の場合、神社の敷

【SH考察:106】ArkがなぜArkなのかさっぱりわからない

※2024/09/02更新 Sound Horizonで複数のアルバムに収録されている『Ark』。この単語は直訳すると箱舟という意味だが、曲中に全く箱舟が出てこず、全然箱舟らしくないものがArkと呼ばれている。 そのため、なぜ『Ark』という曲名なのかがさっぱりわからない。 今回はいつもとは異なり、ただただ私がいろいろ考えたものの煮詰まっているさまをお見せするだけになる。 もし他の方で何か知見をお持ちであれば、ぜひご教示いただきたい……。 対象4th Story Ely

【SH考察:105】アルテミシアの断髪と死の関連性

Sound HorizonのMoiraで、アルテミシアは自らの死期を悟ったがその運命に抗わなかった。一方でNeinでは改竄・否定の影響を受けて突如心変わりして逃げ出し、生き延びた代わりにその髪を剣で斬られた。 この「髪を剣で斬られる」という事象は、ギリシャ神話における死の扱いとの関連性が強い。 今回はその点に関する情報を整理しようと思う。 対象6th Story Moiraより『冥王 -Θανατος-』 9th Story Neinより『愛という名の咎』 考察ギリシ

【SH考察:104】エレフとミーシャの身分は紫のせいでバレバレだった説

Sound HorizonのMoiraで数奇な運命を辿る双子、エレフセウスとアルテミシア。二人は幼い頃から紫色のマントのような布を身にまとっている。 彼らに紫を印象付けているキャラクターデザインには、彼らの持つ特殊能力のほかに、史実からわかる紫の価値観も影響しているかもしれない。 今回は古代ギリシャにおける紫色の価値観について、エレフとミーシャと照らし合わせながら考えてみた。 対象6th Story Moira 考察キャラクターデザインとしての「シ」 エレフセウスと

【SH考察:103】「黒き死の病」は身体の黒変を意味しない

Sound HorizonのMärchen及びそのプロローグにあたるイドへ至る森へ至るイドでは、黒死病と呼ばれる恐ろしい病の存在が垣間見える。 この「黒死病」という名称に対して、日本ではしばしば「感染者の身体が黒くなるから」という由来が語られるが、それは誤りだ。 今回はなぜ誤りと言えるのか、また本来の意味を解説する。 対象Prologue Maxi イドへ至る森へ至るイドより『光と闇の童話』 7th Story Märchenより『宵闇の唄』 考察黒死病=ペストである

【SH考察:102】「自由か死か…」という言葉の重み

Sound Horizonの第六の地平線Moiraでは、曲中に「自由か死か…」というナレーションが入る。 前後の文脈からして違和感はなく聞き流してしまうようなフレーズだが、実際のギリシャ史、というよりは人類史を見ていくと、このフレーズに重みを感じるようになった。 今回はこの「自由か死か」の歴史を追っていこうと思う。 対象6th Story Moiraより『奴隷達の英雄 -Ελευσευς-』 考察ギリシャにおける「自由か死か」 エレフセウスが復讐を決意し、奴隷達を味方