【SH考察:038】月人の"親切"から見る登場人物の死因と月人の人間性
須久奈 月人。かつての名は酒林 月人。絵馬に願ひを!で一際狂気的な男。
彼は彼なりの"親切"をしているが、その結果は登場人物の死。
彼の死を招く行動と、そこから見える人間性について考えた。
対象
7.5th or 8.5th Story 絵馬に願ひを!Full Edition
考察
本件の考察にあたり、自分でまだ遭遇できていない死亡ルートの情報は、twitterで瑞樹さん(@mzkmr1)に教えていただきました。
その節は大変助かりました。この場を借りて御礼を申し上げます。
自称親切な男
彼は親切と称して、他の登場人物が死亡するきっかけを作っている。
佐久夜 姫子、伊咲 那美、天野 宮比、猿田 犬彦、八島 知美、天野 御影、そして伊坂 那美は、参詣時に死亡する場合がある。
(冷静に読むと妙な言い回しになってしまったが、各自の参詣時の曲で稀に死亡ルートが発生する、というのを端的に表すとこうなってしまった)
このうち、伊坂 那美以外はその原因が月人の"親切"であることは、彼の発言でわかる。
曲中に登場する"親切"は6つだが、曲名自体も似たような表現なので、実質7つの"親切"を表している。
《生徒の悩みを解決してあげる教育者?》
これは佐久夜 姫子に対する"親切"だろう。
「教育者」を自称している時点で、彼なりの先生としての立ち居振る舞いの一環で、対象が生徒であることがわかる。
そして姫子は「死にたい」「つらい」「生まれたくなかった」と発言していたことがある。
(この発言は『ある父親の記憶』でわかる。父親に聞かれていたものであって、月人が聞いたことがあるかは定かではないが、姫子が先生として月人を頼って、同様の発言した可能性はある)
『星空へと続く坂道』では、低確率で姫子が死亡した状態で始まる場合がある。
その際、以下のような会話が聞こえる。
この点からも、「死にたい」という悩みを解決しようとした月人の"親切"の可能性が高い。
なお、主要人物が死亡ルートに入った場合、最後に天照 美禍のコメントがある。
他の人物に対しては、ほとんどが何に気を配れば死因を避けられたのかをアドバイスしているか、姫子にだけはもう少し強い命令口調になっている。
《妊婦の憂いを断ってあげる博愛主義者?》
これは伊咲 那美に対する"親切"だろう。
方法が定かではないものの、彼女も『夜の因業が見せた夢』で稀に死亡ルートが発生する。
坂道(石段)を上る途中で転がり落ちてしまうのだ。
なお博愛主義とは、人類は人種や国や階級を超えて愛し合うべきという思想をもつこと。愛を信じない月人が名乗って良いとは思い難い。
ちなみに、伊咲 那美と伊坂 那美はどちらも子供に関する悩みを持っていたが、伊咲 那美は安産祈願をしている。つまり、既に妊娠していて無事に生まれることを祈りたい妊婦であることがわかる。
一方、伊坂 那美は子宝祈願。絵馬の内容的に悩ましいが、『生殖補助医療』はつまり不妊治療で、これから妊娠することを望んでいるようにみえる。
よって、「妊婦」にあてはまるのは伊咲 那美。
伊咲 那美の死亡時に対する天照 美禍のコメントはこちら。明らかに突き落とされていることが示唆されている。
そして伊坂 那美だけは死亡理由が月人ではない。
彼女は伊咲 那美の呪い?で炎上して死亡するという、それはそれで非常に不可解というか特殊な理由で死亡する。
そのため、天照 美禍のコメントも他とは異なり、アドバイスがない。
《新製品の飲料を提供してあげる無償奉仕者?》
これは天野 宮比に対する"親切"だろう。
彼女は『恋は果てまで止まらない』で稀に死亡ルートが発生する。彼女の死因は、死ぬ瞬間の描写だけでは少しわかりにくいが、効果音とその後の天照 美禍のコメントで察することが出来る。
宮比は駈け上がるときに鼓動が跳ね上がって「うっ!」と呻き倒れる。
その際に缶が転がるようなカランカランという音がする。
これがおそらく、月人が渡した缶入りの飲料(に入っていたのであろう毒物か何か)を飲んだことが原因になるのだと思う。
天照 美禍のコメントはこちら。
気になるのは、飲料を渡したであろう月人を「知らない人」と表現していること。
宮比と姫子は同じ制服だから、同じ高校に通っているはず。それにもかかわらず、宮比がその高校の教師である月人を知らないことなどあるのだろうか?
《古い乗り物を手入れしてあげる善意修理者?》
これは猿田 犬彦に対する"親切"だろう。
彼は『西風のように駆け抜けろッ!』で稀に死亡ルートが発生する。
彼の死因は交通事故。スズを病院に連れていく途中で、単車がクラッシュしたような描写がある。
彼の愛車のゼファー750の製造期間は1990年~2007年だそうだ。
説明が長くなるため今回は省略するが、狼樂神社が現れたのは2019年秋以降になるはずなので、10年以上前に製造されたバイクということになる。
「古い乗り物」といっても、まぁ差し支えないだろう。
天照 美禍のコメントはこちら。
《離れた家族を一緒にしてあげる人道主義者?》
これは八島 知美に対する"親切"だろう。
彼は『死はいつも水の貌で・・・』で稀に死亡ルートが発生する。
彼は地震と津波で実の両親や姉妹、愛犬を喪い、豪雨・土砂災害で養父母を喪った。
「離れた家族」とは、亡くなって現世にいない家族のことを指しているのだろう。
死亡ルートの場合、家族が津波に呑み込まれたとき、後ろから水面に突き落とされる。
つまり月人がわざわざ東北に行っていることになる。どこで行動力発揮してるんだ。
なお、人道主義者とは人間愛に基づいて福祉推進を目指すこと。月人が自称して良いとはとても思えない。
天照 美禍のコメントはこちら。
《結果を強迫される重責から解放してあげる救済者?》
これは天野 御影に対する"親切"だろう。
彼女は『太陽を目指して跳べばいい』で稀に死亡ルートが発生する。
彼女は東宮パラリンピックの秋津代表。国を背負って戦うアスリートとして、「結果を強迫される重責」を感じていてもおかしくない……と、月人が勝手に認識したと思われる。
(実際に感じていたかもしれないが、それから死という形で解放される筋合いはないだろう)
死亡ルートの場合は車に轢かれてしまう。
の直後に轢かれる。結構序盤。
天照 美禍のコメントはこちら。
《祝い酒に隠し味を足してあげる理解者?》
ではこれが誰に対する"親切"なのか。
登場人物の中で、死ぬ場合がある人物があと一人だけいる。
姫子の父、大山だ。
彼は佐久夜 姫子の父として存在する場合、容態は悪いものの、狼樂神社出現時点ではまだ生きている。
一方で石長 姫子の父として存在する場合、狼樂大社出現時点で既に故人となっている。(が、その後願い叶って生き返った可能性が高い)
彼は普段酒を飲まない。しかし娘である姫子の誕生日兼妻である鹿屋野の命日にだけ、深酒をする習慣がある。
この日がいつかという明言はないが、鹿屋野がかつて手入れしていた庭を眺めながらの深酒。彼女の命日だろう。
そして、月人の親切が"祝い酒に隠し味を足してあげる"こと。
ここから、大山の容態悪化/死亡の要因が、月人に何か仕込まれた酒を飲んでしまったことではないか?という推測ができる。
ただし、これにはいくつか確認すべき点がある。
もともと病気を患って入院していた大山が酒を飲むのか?
なぜ祝い酒と表現しているのか?
なぜ佐久夜の時は容態悪化するものの死んでおらず、石長のときは死亡するのか?
もともと病気を患って入院していた大山が酒を飲むのか?
前提として、大山はもともと何らかの病気を患って入院している。
これは『私我が繋ぐは新しき神話』でわかる。
父親はもともと病気で、治りかけていたのに容態が急変したから、回復を神頼みしようとして神社に向かった、それが『星空へと続く坂道』の話だ、と読み取ることができる。
つまり、
父親の病⇒治りかける⇒飲酒関連で何かが起こる⇒容態急変(石長の場合は死亡)⇒姫子が駈け上がる
という時系列であることが推測できる。
なお、石長 姫子の場合は父親の死亡前後の描写がないため、上記時系列と全く同じであるとは断言できない。
ただそのように仮定したほうが、いろいろと説明がつきやすいので、以降もその仮定でみていく。
で、本題。
入院していて治りかけとはいえ、酒を飲むか?という疑問だ。
まず、少なくとも病院では飲酒できないはず。堅物で普段は酒を飲まない大山が、規則を破るとは考えにくい。
つまり、彼は一時退院していたと考えたほうが良さそうだ。
家であれば、医者の許可があるなら多少の酒を飲むくらいはありえるだろう。
なぜ祝い酒と表現しているのか?
大山が一時退院していたとすると、祝い酒という表現も違和感が減る。
月人が退院祝いとして酒を持ってきて、それがちょうど大山にとっての年に一度の深酒の日と重なったからそれを飲んだ……とすると、矛盾はなさそうだ。
なぜ佐久夜の時は容態悪化するものの死んでおらず、石長のときは死亡するのか?
これは二人の誕生日の夜の過ごし方の違いに起因していると思われる。
佐久夜 姫子の場合は、深酒をする父親を覗き見?している。
つまり、飲酒中に父親の容態が悪化した場合、すぐに気づける可能性が高い。結果、処置も早くなり一命を取り留める可能性も高くなる。
一方で、石長 姫子はケーキを食べて眠ってしまう。
(血糖値爆上げした後って、急激に下がって眠くなるよね……)
そのため、深夜深酒をする父親の姿を見ていなかったのだろう。
すると、飲酒時に容態が悪化した父親に気づけなかったか、気づくのが遅くなり、対処も遅れて死亡してしまったと思われる。
月人は時を超えたりやり直したりできたのか?
佐久夜 姫子がいる世界で彼が挙げた"親切"の対象のうち、大社側にしか登場しない八島 知美と天野 御影が挙がるのは、違和感があるかもしれない。
彼自身こう言っている。
彼が嘘を吐いていると判断してしまえばそれまでだが、時を超えるのは人間にとっては当然ながら特殊能力で、それを、曲がりなりにもただの人間っぽい月人ができると言い切るには、それなりの理由はあったほうが良さそうだ。
あくまで個人的な印象だが、サンホラの世界で超常現象が起きる場合、何かが起きたとわかる様子がある程度ちゃんと描写されていると思う。
例えばこの辺り。
しかし月人は、自分は時を超えられない、やり直せないと明言している。
過去の傾向と照らし合わせると、これが180°逆(時を超えられる)と言い切るのは躊躇われる。
また、八島と御影は参詣よりもだいぶ前に死亡タイミングが訪れる。
八島に至っては大社出現が2019年、震災は2011年、8年も前だ。
おそらく神社(大社)に参詣するかどうか関係なく、月人の無差別な?"親切"の犠牲になったのだと思う。
(登場人物以外にも、月人の"親切"の犠牲になった人がいたのかもしれない)
そのほうがまだ現実的で、個人的にはあり得そうな気がする。
結論
月人が狂人なのは、何度繰り返してもそうなる運命……と言ってはあまりにも素っ気なさすぎるのかもしれないが、おそらくそうなのだろう。
ただ犯行は決して緻密とは言い難い。
たとえば宮比が警戒して飲み物を飲まなければ成立しないし、犬彦が走行中に気づいて修理に駆け込むかもしれない。大山は病み上がりだから大事を取って酒を控えるかもしれない。
そもそも姫子が生きている時点で、「生徒の悩みを解決してあげる」彼なりの"親切"は失敗している。
また、仮にすべての犯行が成立したとしても、犯人はすぐに割れるだろう。
宮比や大山の場合、死因を調べたら飲料が原因だとわかり、おのずと月人が犯人だとバレるだろう。
『《祝い酒に隠し味を足してあげる理解者?》な男』で彼が逮捕されたことからもわかるとおり、彼は完全犯罪ができる計画性や冷静さ、緻密さはないのだ。
ただただ、彼なりの愉快さを求めて、子供の時にやっていた残忍な遊びの延長戦をしているに過ぎないように見える。
そういう意味では、『《祝い酒に隠し味を足してあげる理解者?》な男』の冒頭に登場する石碑の左側で、佐久夜 姫子が表した「狂人を装う仮面の奥に隠した孤独な少年の面影」というのは的確なように思う。
―――
キャラクターアイコン:
さざれ様(𝕏アカウント @sazozo0)
―――
よろしければスキボタン(♡)タップ・コメント・シェアしていただけますと幸いです。
他にもSound Horizonの楽曲考察記事を書いています。
絵馬に願ひを!関連記事:
【SH考察:016】絵馬に願ひを!秋津皇国を現実と照合してみた
【SH考察:017】絵馬に願ひを!登場人物の名の由来
【SH考察:025】陽葦火山神社の歴史に関わったであろう廃仏毀釈とは
【SH考察:026】絵馬に願ひを!の中に見られる日本神話のオマージュ
【SH考察:027】絵馬に願ひを!と三種の神器
【SH考察:028】宮比と犬彦の《結末に至らない》ルートは同一時系列である説
【SH考察:029】佐久夜姫子によるかぐや姫的振る舞い
【SH考察:030】久延鳶彦の記憶を追う(前編:物の名前の語源・由来)
【SH考察:031】久延鳶彦の記憶を追う(後編:取材ネタ)
【SH考察:032】姫子の願いを伝える祝詞の現代語訳
【SH考察:033】秋津を左右する神託の解釈
【SH考察:034】絵馬に願ひを!に関するアレコレ(言葉の使い方編)
【SH考察:035】絵馬に願ひを!に関するアレコレ(二人の那美編)
【SH考察:036】絵馬に願ひを!に関するアレコレ(猿田 犬彦編)
【SH考察:037】絵馬に願ひを!に関するアレコレ(天野 宮比編)
【SH考察:039】絵馬に願ひを!に関するアレコレ(天野 御影編)
【SH考察:040】絵馬に願ひを!に関するアレコレ(八島 知美編)
【SH考察:043】二人存在する那美と二人存在するかわからない那岐
【SH考察:045】秋津国はなぜCuegeneなのか
更新履歴
2023/07/05
初稿
2023/07/15
全体的に更新。主に天照 美禍のコメントを追加
2023/07/17
《生徒の悩みを解決してあげる教育者?》追記
2023/09/11
絵馬に願ひを!曲名表記をSalon de Horizon 会報誌vol.68+69をもとに正式な曲名に更新
2023/09/22
歌詞引用元表記を一部修正
2024/04/24
一部歌詞引用について「※ルビは書き起こしのため誤差がある可能性あり」の注釈追記
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?