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【SH考察:029】佐久夜姫子によるかぐや姫的振る舞い

Sound Horizonの絵馬に願ひを!は、基本的に日本神話をモチーフにした要素が多い。
だが一部、神話とは別でかぐや姫の要素が盛り込まれている。既に気づいている人も結構いるようだが、記録として、どこにどのような要素があるのかをまとめた。


対象曲

  • 7.5th or 8.5th Story 絵馬に願ひを!より『私/我が繋ぐは新しき神話』

考察

『私/我が繋ぐは新しき神話』に見られるかぐや姫要素とは

終盤、神社関係者から出てくる5つの吹き出しの中身。シルエットのみだが、見慣れぬものばかりが出てくる。
またそれと同時に流れる、画面左側の佐久夜さくや 姫子ひめこの歌の歌詞にも注目。

婚姻を請う連中に
無理を吹きかけ追い返す

Sound Horizon. (2023). 私我が繋ぐは新しき神話 [Movie]. On 絵馬に願ひを!. PONY CANYON.

この部分がかぐや姫の話をなぞっている。
それぞれの意味を以降にまとめるが、まずかぐや姫のあらすじをおさらいしよう。

かぐや姫とは

竹取物語という日本の物語があり、その登場人物がかぐや姫。竹取物語成立時期も作者も不明だが、平安時代には存在していたようだ。
童話として幼少期に読んだことがある人も多いだろう。一応あらすじを載せておく。

翁(おじいさん)が光る竹を切ると、その中からかぐや姫が見つかる。

かぐや姫は美しく成長したため、たくさんの男が求婚してきた。その中でも最後まで残った者が5人いたため、かぐや姫はその5人に対して、指定した珍しい宝を持ってくるように伝えた。

5人とも持ってくることはできず失敗。ついには帝まで求婚してきたが、かぐや姫は自分が月の人間だからという理由で拒絶する。

やがて迎えが来たため、かぐや姫は誰とも結婚しないまま、ただ世話をしてくれた翁達には礼を言ってから月に帰っていった。

この珍しい宝とは、以下の5つのことだ。

  • 仏の御石みいしはち

  • 蓬萊ほうらいの玉の枝

  • 火鼠ひねずみかわごろも

  • 龍の首のたま

  • 燕の子安貝こやすがい

5つの珍しい宝

神社関係者から出ていた5つの謎のシルエットが、まさにこの5つを表している。順序もこのまま。

 仏の御石みいしはち
釈迦が使っていたという神々しい光を放つ鉢。
今でも宗派にもよるようだが、仏教の修行僧はこういった鉢を持っている場合があるようだ。

図:鉢のイメージ
出典:Mikkabie, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

神社関係者が一番最初に出す吹き出しの中身がおそらくこれ。
(ぱっと見タイヤに見えるけれど)

 蓬萊ほうらいの玉の枝
根が銀、茎が金、実が真珠の木の枝。
蓬萊ほうらいとは古代中国で東の海にある、仙人が住むといわれていた仙境の一つ。

神社関係者が2番目に出す吹き出しの中身がこれ。
わりとわかりやすく、木の枝に丸いものがたくさんついている。

 火鼠ひねずみかわごろも
火をつけても燃えない布。
火鼠ひねずみとは古代中国に伝わる怪物の一種。かわごろもとは獣類の毛皮で作った衣服のこと。

神社関係者が3番目に出す吹き出しの中身がこれ。
ただし布地ではなく、火鼠そのものを表しており、尾が長い燃えている鼠のようなシルエットになっている。

 龍の首のたま
龍が首のところに隠し持っている、神秘の宝玉。
たまという字に球体の宝石や真珠という意味がある。

神社関係者が4番目に出す吹き出しの中身がこれ。
これも珠というよりは龍そのものを表すシルエットになっている。

 燕の子安貝こやすがい
子安貝とは古代中国で安産のお守りとされていたもの。もとは貨幣。
また、燕は海から石を運んで巣に置くとされており、それらが合わさって、燕が子を産むときに、稀に一緒に生まれる伝説の貝として燕の子安貝こやすがいとなった。

神社関係者が最後に出す吹き出しの中身がこれ。
タカラガイに似たシルエットで表している。

図:タカラガイ
右上の角度から見たものがシルエットに近い
出典:H. Zell, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

要するに、5つとも宝としては伝説上・架空の産物ということだ。

ちなみに竹取物語では、前述の5つの宝を指定したのはかぐや姫自身だが、それを求婚者たちに伝えたのは翁。
つまり『私/我が繋ぐは新しき神話』では神社関係者が翁ポジションを担っている。

神社とかぐや姫の関連性

別記事で触れているが、佐久夜さくや 姫子ひめこの実家である陽葦火山ひあしひやま神社のモチーフは実在する日吉浅間ひよしせんげん神社だ。

そして、日吉浅間ひよしせんげん神社はかぐや姫に関する伝承を受け継いでいる

かぐや姫が、月に帰ったのではなく富士山に登っていき、富士山のご神体となった、という伝承である。

結論

これらの点から、狼樂神社になるまえの陽葦火山神社のモチーフである日吉浅間神社に残るかぐや姫伝承にあやかり、かぐや姫のエピソードの中でも特徴的な、「伝説上の宝を持ってくるという無理難題を押し付ける」という話を盛り込んだのだろう。

―――

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他にもSound Horizonの楽曲考察記事を書いています。

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更新履歴

2023/06/18
 初稿
2023/09/11
 絵馬に願ひを!曲名表記をSalon de Horizon 会報誌vol.68+69をもとに正式な曲名に更新

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