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【SH考察:023】お守りの柄にも意味がある

Sound Horizonの「7.5th or 8.5th Story Concert『絵馬に願ひを!』~大神再臨祭~」(長いので以降絵馬コン)では、コンサートグッズとして、登場人物の願にちなんだお守りが6種類ある。

6種類それぞれ異なる柄が使われているが、なぜその柄なのか意味があるようだ。調べた結果をまとめた。


考察

お守りと吉祥文様きっしょうもんよう

図:公宴記念販売小物の一覧(筆者撮影)

6種類のお守りはいずれも布地の色や模様が異なるが、特に模様の方はちゃんと意味がありそうだ。
縁起が良いとされる文様、吉祥文様きっしょうもんようというものが使われている。

吉祥文様という存在や概念自体は和柄に限ったことではなく、世界各地で見られる。
今回はお守りに使われている和柄の意味を見ることで、どのような縁起を担ぎたいのか、なぜそのお守りに使われているのかを深堀する。

恋愛成就守:七宝しっぽう文様

図:恋愛成就守(筆者撮影)

天野宮比の願にちなんだお守り。
彼女の金髪を思わせる明るい黄色い地に、七宝しっぽう文様の布地が使われている。
輪を重ねた柄で、輪が四方に広がることから四方しほう七宝しっぽうと連想し、宝を表すからめでたく縁起の良い模様とされる。
(七宝とは金・銀・瑠璃るり玻璃はりつまり水晶・珊瑚さんご瑪瑙めのう硨磲しゃこつまりシャコガイなどの美しい貝と言われている)

無限に連鎖する輪の模様から平和や円満を意味し、人間関係の豊かさを願って引越しや結婚など恋愛事で好まれる文様。

安産守  :割菱わりびしつなぎ文様

図:安産守(筆者撮影)

伊咲那美の願にちなんだお守り。
彼女の来ている服と同じ紺地に、割菱わりびしつなぎ文様の布地が使われている。

菱は生命力が強く繁殖力も強い植物であることから長寿や無病息災、子孫繁栄を願う意味がある。

図:水面をみっちり覆う菱
出典:Show_ryu, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons

その菱を思わせる幾何学模様であるひし形を、多数組み合わせてより強く願った文様が割菱つなぎ。

病気平癒守:亀甲花菱きっこうはなびし文様

図:病気平癒守(筆者撮影)

猿田犬彦の願にちなんだお守り。
彼の神と同じ色の赤地に亀甲花菱きっこうはなびし文様の布地が使われている。

外側の六角形が名前の通り亀甲、つまり亀の甲羅を模したもので、亀にちなんで長寿を願う意味がある。そのため長寿→病とは縁遠いという意味合いで選ばれたと思われる。

また中に入っている花菱も、前述の通り菱自体が生命力が強く繁殖力も強い植物であることから長寿や無病息災、子孫繁栄を願う意味がある。

亀甲と花菱を組み合わせることで、長寿を願う意味がより強調されている。

ただこのお守りのような六角形の向きは、調べた限りだが少し珍しい気がした。
というのも下図のように頂点が上向きのものが多いのだ。

図:亀甲花菱文様の例
出典:No machine-readable author provided. Wikiwikiyarou assumed (based on copyright claims)., CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

合格守  :桜文様

図:合格守(筆者撮影)

八島知美の願にちなんだお守り。
青地に桜文様の布地が使われている。
桜は幸先の良い物事の始まりを意味する。合格(による新たな門出)を願うものとしてはさほど違和感はない。

しかし、布地の色が気になる。
他のお守りは、登場人物の衣服や髪などの特徴的な色味を使用しているが、合格守だけ違う。
八島知美は比較的暗い色味の衣服を着ており、髪も黒。髪の毛のインナーカラーとも違うように見えるし、お守りの色はどこにも使われていない。
これはどちらかというと「水」を連想させる色で、八島知美に使うのはなかなか痛烈では……?
(ただ筆者が八島知美が出る日に遭遇できていないため、実際にはどこかでこの色を身にまとっている曲があるのに気づけていないだけ?)

もしかするとあまり濃い色にすると伊咲那美とかぶるから、という現実的な理由かもしれないが、少し気になった。

子宝守  :亀甲網代きっこうあじろ文様

図:子宝守(筆者撮影)

伊坂那美の願にちなんだお守り。
彼女の上着の色と同じ水色の地に、亀甲網代きっこうあじろ文様の布地が使われている。

網代文様は、魚を捕るための網の代わりに竹や木を組んで網状にして使った道具を模した文様。「網」の「代」わりの文様ということ。
魚を捕るためのものなので、大漁・豊漁を願う意味がある。

それを亀甲(六角形)の形に組み合わせたものが亀甲網代文様。
亀甲の方は前述の通り、長寿や無病息災の意味がある。

そのため、亀甲と網代を合わせることで、長寿の子どもをたくさん授かれるように、という意味を込めたと推測している。
(調べた限り、亀甲網代文様自体に子孫繁栄の意味はなさそう)

必勝守  :毘沙門亀甲びしゃもんきっこう文様

図:必勝守(⛩しおみ⛩様@h_aruageha ご提供 )

天野御影の願にちなんだお守り。
彼女の衣服と同じ黄緑色に毘沙門亀甲びしゃもんきっこう文様の布地が使われている。

毘沙門亀甲文様は、先に挙げた亀甲花菱文様と同じく亀甲文様の一種。
そのため、亀甲の長寿を願う意味を持つ。
また毘沙門とは毘沙門天のことで、日本では七福神の一人として、勝負ごとに利益があるとして崇められている。

結び方にも意味がある

最後に、柄ではなく紐の結び方についても触れておく。
これはこのグッズに限らず、一般的にお守りによくある結び方だ。
実はこの結び方にも名前や意味がある。

図:お守りの結び目(筆者撮影)

この二重の輪が2つ、下に小さな輪が一つある結び方を二重叶結にじゅうかのうむすという。

図:二重叶結びの簡易図(筆者作成)

そもそも叶結びとは、真ん中の結び目が表から見ると口、裏から見ると十字っぽく、口+十で叶を表すから、願いを叶えたい人にとって縁起が良いとされる結び方。

その結び方を、紐を二重にして行うことで装飾性を高めたのがこの二重叶結びだ。
この小さな結び目一つにも、願いが叶うようにという意味が込められている。

結論

お守りの柄という、多くの一般人にとっては調べないとわからないようなところにも実はしっかり意味があった。

こうして意味を調べ理解を深めると、コンサートグッズとはいえ、なんだかご利益がありそうな気がしてくる……のは私だけだろうか?

余談だが、6種類すべて狼樂神社のお守りだったのが気になった。
(お守りの裏の表記がすべて狼樂神社)
伊坂那美は狼樂大社になる前の陽葦白銀神社、八島知美と天野御影は狼樂大社にお参りに来ているのだから、お守りも大社のものになりそうだが。

―――

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他にもSound Horizonの楽曲考察記事を書いています。

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更新履歴

2023/05/14
 初稿
2023/05/18
 「結び方にも意味がある」章追加
2023/06/05
 安産守:割菱わりびしつなぎ文様更新
 必勝守の写真掲載
 子宝守:亀甲網代きっこうあじろ文様更新

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