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長編小説「KIGEN」

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「AI×隕石×大相撲」 三つの歯車が噛み合ったとき、世界に新しい風が吹きました。 それは一つの命だったのか。それとももっと他に、相応しいものが、言葉が、あるのだろうか― 小学校5…
ようこそいち書房へ。長編小説はお手元へとって御自分のペースでお読み頂きたく思います。
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#大相撲

新連載「KIGEN」第一回

※この物語はフィクションです。登場する人物、団体等は、実在のものと一切関係ありません。 …

いち
1年前
172

「KIGEN」第十二回

 学生たちが軒並み夏休みに突入した七月下旬、リビングで渉は大相撲中継を見ていた。一場所十…

いち
1年前
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「KIGEN」第二十四回

「分かったから落ち着けよ。何を前提にした発言か知らんが、国を端から敵視するなよ。まだ何も…

いち
1年前
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「KIGEN」第三十二回

「奏氏はいまや正式にチームの一員だ。見る権利がある」 「でもっ」 「二人は冷静に対応する…

いち
11か月前
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「KIGEN」第三十五回

五章 「門戸」  季節は鈴虫の声を聞き、紅葉の道を夕べに並べ、厚くマフラーで顔隠したと思…

いち
10か月前
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「KIGEN」第三十六回

「普通の人間と違うんだってな。そんなよくわからん者はうちには要らないよ」  何処から漏れ…

いち
10か月前
52

「KIGEN」第三十七回

 翌朝、早くから蝉が地上を席巻して、青く開けた空には太陽が上っていた。古都吹家の庭先で、いちごうは一人朝運動に取り組んでいた。メニューはAIが毎朝の状態を診断して決めるが、ストレッチに始まり、主に体幹を鍛える筋力トレーニングとなる。運動中のいちごうは見様見真似で付けたまわし一丁だ。剥き出しの肩から胸、上腕にかけては昨年よりも肉付きの良さが見て取れる。元々皮膚の代用として使用したシリコンは、気体の通気性は良い方だが水分は通さない為汗が出せない。だがこの夏、まるで日焼けで皮膚の表

「KIGEN」第三十八回

「暑くないかな」  急に話しかけられていちごうは驚きつつも明快に、いいえ、何ともと答えた…

いち
10か月前
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「KIGEN」第三十九回

「単純に言えば誘拐、ですよね。けれど、あれ程高名で世間的にも立場のある人間が、そんな大そ…

いち
10か月前
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「KIGEN」第四十回

 矢留世が名前を出すと、犬飼教授はハッとして顔を上げた。 「知っていたのかい」 「名前を…

いち
10か月前
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「KIGEN」第四十一回

 必死に取り縋る矢留世を振り払い、源三郎は客間を去って家の奥へ消えてしまった。縁側で微か…

いち
10か月前
62

「KIGEN」第四十二回

「カエデさんは菩薩のような眼差しで、私のしくじりさえも優しく見守って下さいます。でもおじ…

いち
10か月前
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「KIGEN」第四十三回

 大学生だったアイリーが研修の一環で日本を訪れ、その時人事交流の拠点で身の回りの世話をし…

いち
10か月前
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「KIGEN」第四十四回

 いちごうへは生物学を根拠に自分の性別を示した奏だが、それも実は説得力に欠けると思う。つまり正論を常に物事の根底へ敷くのは危うい方法だと奏は考える。そもそもいちごうの生まれ方からして既に埒外なのだ。であるにも関わらず、やっぱり正論を根拠に立ち位置を決めなければならない現実もある。いちごうに関して言えば夢の為だ。しかし彼の本能がいつ自分の性別を自認するかはまた別の話なのだ。  若い研究者は、この深く難解な問題とは、長い付き合いになるんだろうと思った。  腰を落として体全体で