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長編小説「KIGEN」

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「AI×隕石×大相撲」 三つの歯車が噛み合ったとき、世界に新しい風が吹きました。 それは一つの命だったのか。それとももっと他に、相応しいものが、言葉が、あるのだろうか― 小学校5…
ようこそいち書房へ。長編小説はお手元へとって御自分のペースでお読み頂きたく思います。
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#人間

「KIGEN」第二十二回

「いちごう君の突然のシャットダウンは、彼の内部で、例えば電子回路を遮断するもの、要するに…

いち
1年前
53

「KIGEN」第二十三回

 若き研究者の背負った現実があまりにも非現実的で、その苦悩を思えば下手に口を開けない。何…

いち
1年前
59

「KIGEN」第二十六回

 手探りながらも着々と準備が進められた健康診断を前に、奏はいちごうを慮り声を掛けた。いち…

いち
1年前
50

「KIGEN」第二十七回

「これは僕の想像だけどね、いちごうさんは痛いとか、楽しいとか、たった今も凄いが飛び出した…

いち
11か月前
52

「KIGEN」第二十九回

「先生は本当に賢くていらっしゃる。私はいたく尊敬致します」 「いちごう、何言い出すの、失…

いち
11か月前
53

「KIGEN」第三十四回

 通話を終えた三河は、本部のチームの仲間からだと言って、新たな情報を披露した。 「都心で…

いち
11か月前
51

「KIGEN」第三十六回

「普通の人間と違うんだってな。そんなよくわからん者はうちには要らないよ」  何処から漏れたか分からない。だがどうでもよかった。ただ残酷だった。  今日はショックが大きいと思うから、奏くん気遣ってあげて。そんな労りと共に帰宅したいちごうは、力なくリビングのソファへ腰を落とした。付き添いを断られた奏は、彼の帰りを今か今かと待ち設けていた。朗報を手土産に帰宅するだろういちごうを待っていたのだ。無慈悲に追い返されて来た彼に、掛ける言葉が見つからない。 「いちごう」 「駄目だっ

「KIGEN」第三十七回

 翌朝、早くから蝉が地上を席巻して、青く開けた空には太陽が上っていた。古都吹家の庭先で、…

いち
11か月前
57

「KIGEN」第四十二回

「カエデさんは菩薩のような眼差しで、私のしくじりさえも優しく見守って下さいます。でもおじ…

いち
10か月前
56

「KIGEN」第四十四回

 いちごうへは生物学を根拠に自分の性別を示した奏だが、それも実は説得力に欠けると思う。つ…

いち
10か月前
67

「KIGEN」第四十六回

六章 「相撲道」  いちごうが受験する新弟子検査が近付いていた。これに合格しなければ大相…

いち
10か月前
50

「KIGEN」第五十三回

 思いがけない爆弾だった。会見場は相撲一色に染められていたのに、いきなり毛色の違う、だが…

いち
9か月前
50

「KIGEN」第五十八回

 大相撲は年に六場所行われる。そして合間の期間で巡業といって、全国へ出向いては土俵を作り…

いち
9か月前
51

「KIGEN」第五十九回

 こんなにも感情を大きく揺さぶられたのは初めての経験だった。喜怒哀楽の起伏が激しくて、自分の解釈が付いて行けない。怒りに気付いても理解や制御を試みる前に口から態度から表へ勝手に出て行ってしまうのだ。どうしていいか分からなかった。十六歳にして初めて気の落ち込みを体感している基源は今、荒野で一匹のうさぎの様に心許ない。堪らず庭へ降りて植え物の間へしゃがみ込んだ。足元を見つめる内に目が慣れて、自分の影がぼんやり出来ていると気が付く。植木の影も凸凹に並んでいる。試しに手をかざすとそれ