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長編小説「KIGEN」

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「AI×隕石×大相撲」 三つの歯車が噛み合ったとき、世界に新しい風が吹きました。 それは一つの命だったのか。それとももっと他に、相応しいものが、言葉が、あるのだろうか― 小学校5…
ようこそいち書房へ。長編小説はお手元へとって御自分のペースでお読み頂きたく思います。
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2023年8月の記事一覧

「KIGEN」第三十八回

「暑くないかな」  急に話しかけられていちごうは驚きつつも明快に、いいえ、何ともと答えた…

いち
10か月前
52

「KIGEN」第三十九回

「単純に言えば誘拐、ですよね。けれど、あれ程高名で世間的にも立場のある人間が、そんな大そ…

いち
10か月前
53

「KIGEN」第四十回

 矢留世が名前を出すと、犬飼教授はハッとして顔を上げた。 「知っていたのかい」 「名前を…

いち
10か月前
60

「KIGEN」第四十一回

 必死に取り縋る矢留世を振り払い、源三郎は客間を去って家の奥へ消えてしまった。縁側で微か…

いち
10か月前
62

「KIGEN」第四十二回

「カエデさんは菩薩のような眼差しで、私のしくじりさえも優しく見守って下さいます。でもおじ…

いち
10か月前
56

「KIGEN」第四十三回

 大学生だったアイリーが研修の一環で日本を訪れ、その時人事交流の拠点で身の回りの世話をし…

いち
10か月前
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「KIGEN」第四十四回

 いちごうへは生物学を根拠に自分の性別を示した奏だが、それも実は説得力に欠けると思う。つまり正論を常に物事の根底へ敷くのは危うい方法だと奏は考える。そもそもいちごうの生まれ方からして既に埒外なのだ。であるにも関わらず、やっぱり正論を根拠に立ち位置を決めなければならない現実もある。いちごうに関して言えば夢の為だ。しかし彼の本能がいつ自分の性別を自認するかはまた別の話なのだ。  若い研究者は、この深く難解な問題とは、長い付き合いになるんだろうと思った。  腰を落として体全体で

「KIGEN」第四十五回

 年が明けて、日は流れ、世間には今年も桜が舞い人々を楽しませた。二人は順調に学年を上がり…

いち
10か月前
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「KIGEN」第四十六回

六章 「相撲道」  いちごうが受験する新弟子検査が近付いていた。これに合格しなければ大相…

いち
10か月前
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「KIGEN」第四十七回

「ええ、いちごう君、の研究観察に関しては、JAXAへ正式なチームが存在するそうです。その…

いち
10か月前
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「KIGEN」第四十八回

「ええ、仰る事はよく分かりますがその・・・力士はみな人間です。当然ですが。ですから、生身…

いち
10か月前
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「KIGEN」第四十九回

「おじいは横綱にまで登り詰めた立派な方です。そんな冗談で私をからかわないで下さいよ」 「…

いち
10か月前
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「KIGEN」第五十回

 親方から部屋を引き継ぎ垣内部屋の垣内親方を襲名する。そうと決まった矢先、垣内親方が体調…

いち
10か月前
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「KIGEN」第五十一回

「喧嘩両成敗だ。処分は妥当だった。だが俺自身が角界に残る事を許さなかった。人を喜ばせるためにあった手で、人を傷つけたんだからな。相撲道に反する行為だ。許される訳が無い――もう古い話だ」  いちごうは頭の中であらゆる言葉を想像した。胸の内に沢山の言葉を浮かばせた。だがどれも簡単に出て行かなかった。全て語ってくれた源三郎に届けたい言葉はこんなものじゃないと、自身の中に在る言葉の箱をいくら漁ってもまだ見つからなかった。全く、AIであるのを忘却しているとしか思えなかった。自分の知能