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短編小説

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#仕事

【短編小説】誰も知らない話

【短編小説】誰も知らない話

気になっている人がいた。

手でまるめてぎゅうぎゅうになったみたいな会社の雰囲気の中で、その人は一人だけ浮いていた。

自分は中途採用で入ったから余計に社内を俯瞰で見る事が多かった。
離婚して親権も奪われて、婿養子だった自分は家族経営だった会社からも追い出されてかなり苦しい生活を送っていた。
そんなぐしゃぐしゃになっていた自分を拾ってくれたこの会社には心から感謝している。

でもやっぱり、昼休憩の

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【短編小説】ほしかったもの

【短編小説】ほしかったもの

最近、欲しかったものを考えながら電車に乗っている。

子供の頃、床にのたうち回ってせがんだのに手に入らなかった女児アニメのおもちゃ。

給食で、休みの人がいたから余っていたゼリー。

私の方が先に好きになったはずの先輩。

ガタガタと車内で揺られながらぼうっとそんな事を考えている。

手に入らなかったものは、ずっと綺麗に私の心臓の奥でふつふつと輝いている。

でもそれは、きっと、手に入らなかったか

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【短編小説】知らない

【短編小説】知らない

歩きながら、今日は何を食べようか考える。

外勤中は仕事以外のことばかり考えてしまう。
商店街を歩いていると、視界の左側で誰かがティッシュを配っている。

受け取りたくないから、用事もないのに角を曲がってみた。

目的地の職場にたどりつかないことで、ネガティブな方に思考が傾いていく。

時間を間違えたこと、エクセルの入力がずれていたこと、挨拶したつもりだったのに聞こえていなくて無視だと勘違いされた

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