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「岡山発全国、日本発世界」を志し、販促物の圧倒的な国内シェアを誇るイタミアートの軌跡と描く未来

飲食店やイベントごとでよく見かける「のぼり旗」。国内で圧倒的なシェアを誇るのが、岡山に本社をおく株式会社イタミアートです。のぼり旗や幕といった販促物を製造し、インターネットを中心に販売を行なっています。

今回、ソウルドアウト会長の荻原が岡山県にあるイタミアート本社を訪れ、代表取締役の伊丹 一晃いたみ かずあき氏と、イタミアートの創業からの軌跡と今後の展望について伺いました。

株式会社イタミアート
https://www.itamiarts.co.jp/
創業:1999年
本社:岡山県岡山市
事業内容:のぼり旗・幕の製造・販売、オリジナル販促ツールの企画制作、広告物の制作・印刷など

コロナ禍での素早い判断

画像引用元:株式会社イタミアート

荻原:イタミアートさんは1999年、広告制作会社として創業され、今ではのぼり旗などの販促物を製造し、数十の自社ECサイトで販売されています。順調に売上を伸ばしていたイタミアートさんですが、パンデミックの影響はかなり大きかったですか?

伊丹:コロナ禍では正直、「もうどうにもならない」と創業以来初めて思いました。経営者としての私の脳裏には、「倒産」の2文字が浮かんだほどです。口には出していませんが。

売上激減の大打撃を受けたんです。主力商品ののぼり旗や幕などの販促物の注文が、パタッと止まってしまって。お先真っ暗という感じでした。

荻原:コロナ禍で一番大きな影響を受けた業界といえば、のぼり旗や幕の主要なお客さまである飲食業界やイベント業界ですもんね。もちろん、広告業界の私たちも厳しい状況が続きました。どうやって経営危機を乗り越えましたか?

伊丹:コロナ禍になってまず、土地を二つほど売り払い、現金に変えていきました。キャッシュポジション(手持ちの現預金)を高め、資金繰りを安定させるためです。本当は、その土地に工場を建てる予定だったのですが、安い土地を借りて建てたほうがいいと思いまして。ものすごいシミュレーションをした上で判断しました。

荻原:以前ここに来たときは、たくさんの機械があって驚きました。最先端のものもあり、かなり勝負されている姿勢を感じました。

伊丹:ありがとうございます。今はもう、すべて新しい工場に移しました。

本当にやられましたね、コロナ禍は。社長業は環境変化に対応することだといわれていますが、世の中がストップしてしまっては何もできず、ただただ無力さを感じました。

今は、円安がかなり進んでいますよね。でも為替は操作できません。できないことは仕方がないんです。だから、どうにかできるところで調整し、会社が継続して成長、発展できるようにするためにどうすればいいのかを考えています。

荻原:伊丹さんの挑戦される姿勢には、かなり刺激をもらっています。

伊丹ベンチャー企業は「これでいいのだ」で止まってはいけないと思いますよ。

岡山のデジタル最先端を行く

荻原:では、これまで挑戦してきた歴史を伺っていきたいと思います。創業からこれまでのイタミアートについて教えてください。

伊丹:私は専門学校を卒業したあと、地元岡山の出版社に入社して営業をしていました。そのとき、自分の工夫次第で結果を出せる営業の仕事のおもしろさに目覚めまして。会社の既存事業が衰退していくことを感じ、新規事業を提案したのですが却下されました。それなら自分でやっていこうと思い、23歳のとき独立し、28歳で会社を設立しました。

荻原:起業はかなり早かったんですね。どのような事業をされていたのでしょうか?

伊丹:広告などの印刷を請け負っていました。

創業資金は100万円。当時60万のMacBookと、20万の携帯電話を購入しました。MacBookの中にあるアプリ「illustrator」を使い、デザインを作っていました。岡山の印刷業界ではまだ手書きが主流だった頃、私はデジタルを活用して仕事をこなしていきました。

荻原:当時からするとかなり革命的ですね。

伊丹:デジタルの威力を感じましたね。MacBookを使えば、手書きよりも簡単かつ短時間で、きれいなものができました。

当時の売上はおよそ6,000万で自分の給料は1,000万。思い切った贅沢をするわけでもないので、貯金はどんどんたまっていましたし「俺はすごい」と思い込んでいたんです。それが30歳の頃、スイッチが入りました。

荻原:何かきっかけがあったんですか?

伊丹:当時入会していたJC(青年会議所)の先輩から刺激を受けました。JCには、すばらしい人格者の方も多く、リーダーシップを発揮して皆を引っ張っていくような方もいました。いつか追いつきたい。負けていられない。もっと大きな企業をつくりたい。そんな思いが大きくなっていったんです。

ECへの参入と成長

荻原:経営に対する思いが変わった瞬間ですね。ECへの参入はその頃だったのでしょうか?

伊丹:2003年、32歳の頃です。JCで一緒に活動している後輩が、インターネットを使って「Yahoo!オークション(現・ヤフオク!)」に出品して、利益を得ているということを知りました。当時、イタミアートでもホームページをもっていましたが、インターネットでビジネスができる、売上を上げることができる、という発想はなくて。私たちみたいな零細企業がそんなことできるはずない、と思っていたんです。

そんなときホームページを見てみると、月に3,000円ほどの売上があることに気が付きました。そこで、ある社員に依頼して、インターネットで仕事をとれるようにしてほしい、とお願いして担当してもらったんです。リニューアルを繰り返していると、あるときから急に月に20数万円の売上が立つようになりました。

すぐに300万に到達。当時はSEOも今ほど難しくなく、すぐに検索結果の上位に上げることができました。そうこうしているうちに、インターネットのことがだんだんとわかってきましたね。外回りの営業活動を辞め、完全にインターネットにシフトしていきました。

荻原:なるほど。インターネットでは最初は何を売っていたのでしょうか?

伊丹: うちわです。紙の印刷はすでに大手企業がやっていたので、紙以外にしようと思いました。イタミアートは偶然にも、うちわをつくっている企業との繋がりをもっていたので、うちわの販売から始めることにしたんです。

荻原:なるほど。そこから成長の過程で何かターニングポイントになった出来事はありましたか?

伊丹:3億円の売上があった頃、「このECサイトはすごい」という企業に出会いました。福井県のとある印刷会社で、販促物を企画制作する同業の会社でした。サイトを見ていると、ものすごい数の販促物を横展開していて、イタミアートもその会社のように商品展開したほうがいいのではないかと考えていたんです。

話を聞きたいと思い連絡を取っても、何度も何度も断られました。何とか会えることになり、会社を訪問します。社長室でしばらく話をしていると「いたちゃん、どうしてもっと頑張らないの?君ならもっとできるでしょう」と言われたんです。

それまで「やりすぎだ」とは言われたことはありましたが、「なんでやらないの?」と言われたことはありませんでした。なのに、初対面の人に言われてしまったんです。そのとき、「3年で10億円までいく」と決意しました。

荻原:素晴らしい出会いですね。そこからどのように成長していったのでしょうか?

伊丹:経営陣からは、「どこの会社の社長も皆思っていることです」と真正面からは受け取ってくれませんでした。私は「俺を見ておけ!言ったことはやるからな!」と言い、本気で達成しようと思いました。
その後1年で4億5千、2年で6億8千。だんだんと見えてきたときにデジタル広告をやろうと思い、力を入れ始めました。費用対効果が合えばいくら使ってもいい、という方針で広告費をどんどん追加。それが当たって、すぐに伸びていきました。2015年には新オフィスを構え、工場も増設しました。

画像引用元:のぼりキング

新卒採用の強化により組織がスケール

荻原:事務所を新設して、だんだんと会社が大きくなっていったんですね。社員の採用の状況はいかがでしょうか?現在イタミアートさんでは新卒採用をされていますが、いつから始められたのでしょうか?

伊丹:20年前から新卒採用を行なっていましたが、一人か二人を採用するくらいでした。2017年頃から、10人規模で新卒採用を始めましたね。2017年、社員が16人のとき、600人ほどの応募があった中から13人を採用しました。

荻原:かなりチャレンジングですね(笑)。社内から反論はありませんでしたか?

伊丹:もちろん社員は嫌がっていました。「無理です」という声があちこちから出ていましたよ。ですが、当時の社員はかなり頑張ってくれて、仕組みがない中でも、自分たちなりに考えて行動してくれました。無茶ぶりが人を成長させるというか。

荻原:わかります。うちも社員が70人だったときに3年間で新卒を85人採用したことがあります。採用したいターゲットや伝えたいメッセージを明確にすることで優秀な学生さんたちに入社いただくことができ、会社もかなりスケールしましたね。採用は本当に大事だと思います。

伊丹:そうですね。新卒で入社した社員は、本当に優秀な方ばかりでした。

そこから毎年新卒採用を強化していくことになり、今では県内の就職ランキングで比較的上位にランクインしています。広告はほとんど使っておらず、毎年600人ほどの応募があるようです。

今年はコロナ禍で苦しい状況ではありますが、会社の将来のことを考えて30人を採用しました。そのうち10人は外国国籍の方で、エンジニアでベトナム人を3人、管理部門で公認会計士の資格をもつモンゴル人を1人、工場勤務で6人を採用しています。

荻原:外国国籍の方の採用も、徐々に増やしていく予定ですか?
 
伊丹:はい、その予定です。これから海外でも販路を拡大していこうとしている中で、社員が母国に帰ったときに何か役に立つかもしれないとも思っています。

荻原:おもしろいですね。では、採用の基準はありますか?

伊丹:私の場合は、一緒に働くイメージができるか、その子を幸せにしてあげられるイメージができるか、ということですね。

そして、イタミアートを選んでよかったと思ってほしい。私自身、娘にも入社してもらっていますが、自分の家族にもイタミアートを勧められるくらい、会社のことを好きになってほしいと考えています。人間としての成長ややりがいを感じてもらい、会社の成長の過程を一緒に見ていきたいです。

成長の原動力となった出会い

荻原:伊丹さんは、JCをはじめとした、所属コミュニティや周りの友人に刺激を受け、成長を志すことができたのでしょうか?かなり早い段階からインターネットへ挑戦されたり、新卒採用や外国国籍の方の採用に挑戦されたりと、いろいろな方法でイタミアートは成長されてきましたよね。成長していく上で、大切にしていることはありますか?

伊丹自分の付き合っている人や周りの環境を選ぶことです。自分の周りを見渡して、その平均のポジションにいるのが自分。成長しよう、上を目指そうという気持ちがあるなら、自力で努力するのは難しいので、環境を変えながら刺激をもらうことが大切だと思いますね。

荻原:なるほど。会社がだんだんと成長していく中で、伊丹さんが刺激を受けた人物や出来事はありましたか?

伊丹:私は、若手起業家が集うEO(Entrepreneurs’ Organization)という世界組織の大阪拠点、EO Osakaに所属しており、素晴らしい経営者仲間たちとの出会いがあり、会社の大きな成長を志すようになりました。

中には上場を目指している経営者もいらっしゃり、話をしているうちに、私も本気で上場を目指すことを決意しました。迷っているとき、「どうして俺がここで立ち止まっているんだ」という気持ちになりましたね。自分だけだと満足してしまっていたと思いますが、仲間からの刺激を受け、人の雇用や社会への貢献などを通じて会社を成長させたいと思うようになりました。

荻原:同じ志をもつ仲間との出会いがあり、事業拡大を目指されたんですね。

伊丹:また、40歳の頃、今後の会社の成長において参考にすべき書籍との出会いもありました。百田尚樹氏の小説『海賊とよばれた男』です。出光興産の創業者、出光佐三をモデルに描かれた主人公・国岡鐡造の生き方に感銘を受けました。自社だけではなく、社会と国の発展を考えるスケールの大きさ。私もそのような経営者になりたいと本気で考えるようになりました。

それまでは、自分の代で会社を畳もうと思っていたほどです。ですがこれからは、自社の成長だけではなく地域の繁栄を願って経営をしていきたいと考えるようになりました。

岡山県の経済は、岡山県の財界の人たちで引っ張ればいいと思っていたんです。ですが、「俺も財界の一員になれるのではないか。チャレンジしなければならない」というように考え方が変わっていきましたね。

販促物のプラットフォームへ

荻原:それでは最後に、今後のイタミアートの展望を教えてください。

伊丹販促物のプラットフォームを目指していきたいです。紙の印刷の領域では、地位を確立している企業が数社あります。私たちは、よりニッチな販促物の領域で、プラットフォーマー的な存在を目指します。商品を横展開していき、「販促物ならイタミアート」という状況を確立したいです。

また、円安が進んで金利差が進む中では、日本は金融緩和を緩めるわけにいかないと思います。なので、海外に攻めていきたい。場所は検討中ですが、東南アジアや台湾あたりを考えています。販売拠点をつくり、マーケットを広げていきたいですね。

荻原:アジアを中心に拠点を広げられるんですね。

伊丹:実はヨーロッパには、私たちの同業で1,000億の売上があるくらい大きな会社もあるんです。ですが文化の違いによって、アジアに進出してきたとしても成功しないと思っています。私たちイタミアートが、アジアでマーケットを拡大していきたいです。

また、地域社会に大きなインパクトを与えられる存在にもなりたいです。岡山がもっと元気になるように私たち自身が変わっていくということが重要だと思っています。

荻原: いいですね。ビジネスモデルを少し変えてみるなどでしょうか?

伊丹:そうですね、クロスマーケティングのようなことができないかな、と考えています。

毎月2,000件から3,000件ほどの新規のお客さまがイタミアートのサービスを利用してくださっています。30万件ほど、toCとtoBのお客さまの両方がいらっしゃり、大半がtoBのお客さまです。toBのお客さまに、贈答用の花を販売したり、ギフトカタログを配布したり、そういったおもしろいことができるのではないかと思っています。
 
あともう一つは、自社開発のシステムやITを、印刷業や広告業の会社にサブスクリプションの形態で売っていく、といったことも考えています。

荻原:どんどん新しいアイデアが出てきますね。驚きました。今後も岡山から全国へ、海外へと大きくなるイタミアートさんを楽しみにしています。

私たちソウルドアウトも、イタミアートさんのような「地方発全国、日本発世界」という志を掲げ挑戦している企業を支援していきたいと、今日改めて感じることができました。本日はありがとうございました!


編集後記
最初から最後まで二人の会話が止まらず、経営者同士のパワフルな会話に圧倒されました。伊丹社長は著書から浮かんでいたイメージそのもので、とてもかっこいい方でした。今後もおもしろくなっていくイタミアートさんが楽しみです。

【執筆・編集:みやたけ(@udon_miyatake)】

*イタミアートさんの会社紹介動画

*伊丹一晃氏の著書『地方弱小でも、勝てます』

創業から現在まで、何を意識し決断し組織化してきたのか。また、販売チャネルをアナログからデジタルへどのようにシフトしていったのか。中小企業経営のヒントがかかれています。


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