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四つ葉の記憶

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我儘で、楽観的で、小さな幸せを見つけるのが得意だった、父の事。
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花火の夜に

花火の夜に

 父の通夜は、旧暦の七夕祭りの日だった。

 当日、道端に笹飾りを見掛けるまで、その事に気付いておらず、気付いた時には、ぼんやりと驚いた。そうか。お父さんが亡くなっても、お祭りはあるんだね。当たり前だけど。

 命日が、前夜祭の花火の日と気付いたのも、その時だったろうか。それとも、もう少し後になってからだったろうか。

 七夕の花火を、父と一緒に観に行ったのは、私が就職した年の夏だった。三十年くら

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四つ葉のクローバーの申し子

四つ葉のクローバーの申し子

 子供の頃、父の事はよく分からなかった。

 いわゆる昭和のモーレツ社員という人種だろう。帰りはいつでも夜中で、子供たちとは平日に顔を会わせる事が無かった。

 休日は夕方近くまで、ずっと眠っていた。起きてくると、何かを取り戻すかのように、集中的に子供たちと遊ぶ。

 遊び方は少々乱暴だ。高い高いをしたり、飛行機と称して、子供たちを振り回したり、お馬はみんなを歌いながら、膝の上で子供たちを揺すった

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お知らせ

お知らせ

父が旅立ちました。

長く闘病していましたが、家族の見守る中、安らかな最期でした。

故人の遺志で、御弔問・御香典・御供物・御供花は辞退とさせて頂き、家族葬で見送りました。

2018年に父の事を書いた文章です。

この頃の父は、まだ、ひとりで散歩が出来ていました。少し歩いてはひと休み、また少し歩いてはひと休みして、とても時間をかけながら。

だけど、その時間のかかる散歩を、心から楽しんでいる節が

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百箇日

百箇日

百箇日母の選んだ百合が咲くオプティミストの父に似ている

今日もまた砂糖を入れた珈琲が写真の前で静かに冷める

こんな時お父さんなら何て言う?問うて灯した白檀香る

史上最速の桜【30日間毎日note:その2】

史上最速の桜【30日間毎日note:その2】

今年の開花は、観測史上最速だったそうだ。例年と比較すると、2週間も早い。

花を待ちわびていた癖に、「早すぎる」と、文句を言いたくなるのだから、人間は勝手な生き物だと思う。

あっという間に散ってしまうのではないかと不安だったけれど、案外、長持ちしてくれて、カメラロールには、沢山の写真と動画が残された。

今年は、花を見る度に思い出した。

——来年も、桜の季節を迎えられるといいな。

父と顔を合

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父の一周忌に寄せて 『銀雨の星 〜♭4 self cover 2023 〜』

父の一周忌に寄せて 『銀雨の星 〜♭4 self cover 2023 〜』

「この歌、何だか、お父さんを思い出した」

 私が作詞で参加した、なおがれさんとの共作オリジナル曲を聴いて、母がそう言った。

 父の事を書いた詞ではない。

 でも、確かに、父の事が無かったら、書けなかった詞だ。

 昨夏、長い闘病生活を終えて、父が旅立った。

 覚悟はしていた。

 元々、主治医から「生きているのが不思議だ」と言われていた父だ。最後の入院では、「これ以上、治療の手立ては無い」

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