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異世界でも本屋のバイトだが、アマゾネスのせいで潰れそうだ

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『異世界でも本屋のバイトだが、アマゾネスのせいで潰れそうだ』最終回

『異世界でも本屋のバイトだが、アマゾネスのせいで潰れそうだ』最終回

角人のヌード写真集は角の部分にモザイクが掛かっている。

雹(ひょう)の降ることが多い星が故郷の角人は、その進化の過程で頭頂部を守るために皮膚が固くなり「角化」したと言われている。

優秀な戦士である彼らは、この世界で一大勢力を築いた。この世界で「勝ち組」となった彼らはどんどん子を産み育てていった。そうして世代が進むごとに芽生えたのが「角を見せるのは恥ずかしい」という感覚だった。

角人の男も女も

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『異世界でも本屋のバイトだが、アマゾネスのせいで潰れそうだ』第15回

『異世界でも本屋のバイトだが、アマゾネスのせいで潰れそうだ』第15回

俺のあまりにも浮世離れした肉体美を見て、ぼっちの冒険者たちが集まり出した。ワラにすがるなクソ虫ども。これだから俺は辞めたんだ、ダンジョン潜り稼業を。

「金払うから仲間に入れてくれ」どいつもこいつも使えそうもなかったが、一応は順番に自己紹介をさせてみた。

「お、オレは威嚇士のマックスだ」褐色の肌と三白眼。俺と背丈の変わらない大男が踏ん反り返って自己紹介を始めた。一見使えそうな感じだ。

「い、い

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『異世界でも本屋のバイトだが、アマゾネスのせいで潰れそうだ』第14回

『異世界でも本屋のバイトだが、アマゾネスのせいで潰れそうだ』第14回

「おい、仲間探してないか? 安くしとくよ、2000イェンでいいよ」

ダンジョン前はちょっとした歓楽街並みの客引きの列だ。自分を売り出す冒険者、怪しげな武器を売ろうとする老婆、割高な値段で弁当を売りつける薄汚いコック、無駄に谷間を見せつけながらダンジョンのガイドブックを売るアマゾネス。

G3級のエプソムダンジョンは3人までのパーティと制限が掛かっている。何でかって? そら王宮が決めた「ダンジョン

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『異世界でも本屋のバイトだが、アマゾネスのせいで潰れそうだ』第12回

『異世界でも本屋のバイトだが、アマゾネスのせいで潰れそうだ』第12回

言っちゃぁなんだが、俺の筋肉センサーは驚くほど敏感だ。まあ、昨晩抱いたエルフの女ほどじゃあないにしても。

この世界で生き残っている奴には、大概何かしら特殊な能力が備わっている。それは武力でも知力でも美貌でも良かった。危険を感知する筋肉センサーと圧倒的武力、これが俺が生き延びている理由だ。とにかく普通じゃ生き残れないのは確かだ。そういうカラクリなんだから仕方がない。

ヤマダはそのことをえらく気に

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『異世界でも本屋のバイトだが、アマゾネスのせいで潰れそうだ』第11回

『異世界でも本屋のバイトだが、アマゾネスのせいで潰れそうだ』第11回

アイツと出会ったのは確か休みの日だ。ぶらっと出掛けた近所のダンジョンで、野良吸血鬼のキンタマ引っこ抜いたり、蓄膿症に効くって噂の鬼奴花を摘んだりして遊んだ帰り道。

転生したばかりのアイツは、まあ誰だってそうなんだが、衛兵たちに着ているもの以外は奪い取られ、ポツンと公園の入り口に立っていやがった。婆ちゃんが死んだ日に宝くじに当たったみたいな、微妙な顔してな。

ストマックシティ中央公園。ま、俺は勝

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『異世界でも本屋のバイトだが、アマゾネスのせいで潰れそうだ』第10回

『異世界でも本屋のバイトだが、アマゾネスのせいで潰れそうだ』第10回

≪バアバ殺しの孫戦士≫顔にまでびっしりと長い産毛を生やした「毛深人」の老女が、両手で山ほど本を抱えた店長を呼び止めた。

「あの、お忙しいところすいません。孫に絵本を探してるんですが」

「ハイハイ、で、どっち系ですか?」

「どっち系?」

「えぇ、戦士系か鉱物系かで、おススメする本が違っちゃいますんで」

どっちかしらと老婆は腕に生えている長い産毛を弄りながら頭をひねった。品出しを早く済ませた

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『異世界でも本屋のバイトだが、アマゾネスのせいで潰れそうだ』第9回

『異世界でも本屋のバイトだが、アマゾネスのせいで潰れそうだ』第9回

≪ストーン&ウェーブには気を付けろ≫『あぁ 飛んできた蒼いドリル虫が アナタの襟足をかすむ アタシはそれを 切り過ぎた前髪おさえながら眺め 夏の終わりの洞窟前 恋の魔法書握りしめ あぁ はにかむアナタの笑顔に アタシの唇は役立たず』今週のヒット曲、waiko『ドリル虫』より

魔法の書は大きく分けて2種類存在する。1つは安価で、誰でも気軽に購入できる。ただし所詮は大量生産できる工業品。効果のほどは

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『異世界でも本屋のバイトだが、アマゾネスのせいで潰れそうだ』第7回

『異世界でも本屋のバイトだが、アマゾネスのせいで潰れそうだ』第7回

≪難易度の高い問い合わせ≫転生前、日本人大学生だった僕は郊外型の書店で働いていた。そこでも悩まされていたのが「うろ覚えの老人の問い合わせ」。

こっちに来てからは、あぁあんなのは可愛いもんだったなと思える。

この世界でポピュラーな住人---人間、ドワーフ、エルフ、ノーム、ホビット、オーク。それぞれ向けの雑誌が刊行されている。それどころか少数派である足長人、手長人、角人(つのびと)、有翼人、半魚人

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『異世界でも本屋のバイトだが、アマゾネスのせいで潰れそうだ』第6回

『異世界でも本屋のバイトだが、アマゾネスのせいで潰れそうだ』第6回

≪ファッション雑誌はモンスター?≫女性の美の追求というのは何処の世界も同じようで。

ここ異世界においても、その探究心は凄まじく、執念すら感じるほどである。

基本、朝の品出しは店長と早番の僕の2人でやる。月に何度かある女性誌の発売日は、ある意味地獄だ。

「この、太ったオーク向けの『素敵なオーク様』ってのは?」

「それは若い子向けのファッション誌。一見、婦人誌っぽいけどな」

「特集が『目指せ

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『異世界でも本屋のバイトだが、アマゾネスのせいで潰れそうだ』第5回

『異世界でも本屋のバイトだが、アマゾネスのせいで潰れそうだ』第5回

≪地図鳥は飛んでゆく≫この世界は歪だ。電気のインフラが整備されているのに、なぜか電話が無い。なので人々の通信手段は『地図鳥』に委ねられている。

カラスほどの大きさで全身真っ赤なこの鳥は、顔つきがキツネに何となく似ていることから『ファイヤーフォックスバード』という名が付いた。皆は略して『ファックス鳥』と呼んでいる。その特徴は別名通り「地図が読めること」。

問題は食べるエサが高価であり、維持費がそ

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『異世界でも本屋のバイトだが、アマゾネスのせいで潰れそうだ』第4回

『異世界でも本屋のバイトだが、アマゾネスのせいで潰れそうだ』第4回

≪アマゾンさん≫僕がこの世界の本屋になって一番ビックリしたのは、官能小説コーナーにおける『半魚人モノ』の圧倒的な量だった。買うのはもちろん半魚人の男性たち。

店長は常連のアマゾンさんと談笑していた。基本的に半魚人たちは服を着ない、全身ヌルヌルだから。アマゾンさんは首に赤いマフラーを巻いているので仇名でそう呼んではいるが本名は知らない。

「何か、おぼしろそうなの、入った?」ビランス書院文庫の平台

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『異世界でも本屋のバイトだが、アマゾネスのせいで潰れそうだ』第3回

『異世界でも本屋のバイトだが、アマゾネスのせいで潰れそうだ』第3回

≪ダンジョン初心者≫雑誌の付録掛けをしていた僕の前に、1人の男が現れた。ミイラのように顔に包帯を巻いているので年齢不詳。右手に持っている剣は初心者向け『トヨクニ製』ショートソード(茶褐色の鞘が目印)、左手に盾は無し。服装は粗末な茶色の肌着のみ。まあ、見たところ冒険初日といったところか。

「あの、これからダンジョン初めて行くんですが、おススメの本てありますか?」

「少々お待ちください」こういう事

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『異世界でも本屋のバイトだが、アマゾネスのせいで潰れそうだ』第2回

『異世界でも本屋のバイトだが、アマゾネスのせいで潰れそうだ』第2回

≪異世界の資本≫この世界は大雑把に分けると「文明が発達した、高い壁に囲われた都市」と「それ以外の危険地帯」の2つしか存在しない。問題なのは食料・資源といった経済活動の源になる大部分が8割を占める危険地帯にあり、我々は文明生活を維持するために、そこに飛び込まねばならないという事である。

この一文から始まる最近のベストセラー、マット・パケティの『異世界の資本』をパラパラ読みながら僕は唸っていた。素晴

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『異世界でも本屋のバイトだが、アマゾネスのせいで潰れそうだ』第1回

『異世界でも本屋のバイトだが、アマゾネスのせいで潰れそうだ』第1回

≪季節の風物詩、現る≫ 長年やってりゃよ、客の考えてることまで、近付いてくる靴音聞くだけで分かるってもんよ。

僕はレジで、いつだったか聞いた店長の言葉を思い出していた。自動ドアを開けて駆け寄ってくる忙しない靴音は雄弁だ。客は確実に狼狽している。

「あのあのあの、こ、こ、ここは一体、何処なんですか?」茶髪のロン毛に鼻ピアス。上下赤いジャージ姿の狐目の若い男。恐らくこちらに来てから初めて目にする「

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