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【連載小説】0n1y ~生物失格と呪われた人間~

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人間というのは随分と身勝手だ。 自己中心的で自己満足的で自己保身的で自己保存的だ。 自分が一番可愛くて、そんな自分を穢されるのが許されなくて、他人を貶して貶める。 その貶し貶めが…
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2022年7月の記事一覧

『生物失格』 2章、フォワード、ビハインド。(Post-Preface 2)

『生物失格』 2章、フォワード、ビハインド。(Post-Preface 2)

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Post-Preface 2:或る静かなる殺人。「……あー、クソッ」
 白髪交じりの黒髪をガシガシと乱暴に掻きながら、1人の青年が街を歩いていた。黒い外套を身にまとい、こつこつと革靴を鳴らして辺りを見回す。
「見つからねェ。見つからねェったら見つからねェ」
 愚痴をこぼしても意味が無い、とは分かっていながらも、止めても意味がないとも思っていたので結局愚痴は零し続けることにした。
「この街

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『生物失格』 2章、フォワード、ビハインド。(Epilogue)

『生物失格』 2章、フォワード、ビハインド。(Epilogue)

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Epilogue:秘める決意。***

 ――手足が動かない。
 指一本すら動かせない。
 金縛りではない――むしろその方がどれだけ良かったことか。
「……っ」
 殺風景な部屋。そこにぽつりと置かれた椅子に、頑丈に拘束されていた。指一本一本まで丁寧に固定されている。椅子のすぐ横には、様々な道具が置いてあった。

 ナイフ。ライター。鉤爪。針。紙やすり。ピーラー。電撃棒。ゴムハンマー。彫刻

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『生物失格』 2章、フォワード、ビハインド。(Episode 7)

『生物失格』 2章、フォワード、ビハインド。(Episode 7)

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Episode 7:無関係への収束。「――そうかよ」
 『ヤツ』に似る例の男――名前すら呼ぶのも悍ましい。識別上はそれで十分だから名前で呼ぶこともしない。したくない――は、自分の啖呵に殺意で返してきた。
「なら、仕方ねえな。お前には、ここで死んでもらうしかないか」
 ぱきりと指の骨を鳴らし、顔が怒りに塗りこめられていく。これだけ冷静に見られるくらいには、自分はどうにか持ち直したらしい。な

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『生物失格』 2章、フォワード、ビハインド。(Episode 6)

『生物失格』 2章、フォワード、ビハインド。(Episode 6)

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Episode 6:噛合い亡き独白。 死城影汰は、何も言わない。
 死城影汰は、何も言えない。

 死城影汰は、狂乱していた。
 そこに、話の噛み合いなど存在しない。

***

 ……嘘だ。
 嘘だ嘘だ嘘だ。
 何で、どうしてここに来た。
 ここに、『ヤツ』がいる。
 殺したはずなのに。殺したよな? 殺しきったよな? 殺している殺している殺している。
 なら、目の前にいる奴は誰だ。
 

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『生物失格』 2章、フォワード、ビハインド。(Episode 5)

『生物失格』 2章、フォワード、ビハインド。(Episode 5)

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Episode 5:アウトロー・フロム・アウト。 仮想敵、サーカス一座。
 自陣にはたかが10代前半の少年。好きな女の子に危害が加わらない様に守りながら戦う必要がある。
 武器は無く、味方もそれ程多くない。

 ……。
 どう考えても勝ち目がない。
 どんなに想像しても、結局同じ結論に帰結する――背中とベッドが磁力でくっつくかの様に、勢いよくもたれかかる。
「……味方、と言ってもなあ」

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『生物失格』 2章、フォワード、ビハインド。(Episode 4)

『生物失格』 2章、フォワード、ビハインド。(Episode 4)

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Episode 4:『異質』、野間夢果との会話。 本当に、夢果の声を聴いたのは久々だ。そもそもあまり夢果とは連絡をとることすらしない――夢果の方が仕事が詰まっているから会話する暇すらないのだろう、と思う一方で、特に連絡する様な用もなかったからだ。
 ところで、夢果は『脱線』をすることを嫌う。従って仕事をしている最中、仕事という本質から外れた雑談をすることはご法度なのだ。そういう訳だから、

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『生物失格』 2章、フォワード、ビハインド。(Episode 3)

『生物失格』 2章、フォワード、ビハインド。(Episode 3)

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Episode 3:時間殺しの過去話。 暇を潰す、ということを英語では「時間を殺す」と言うらしいことを、前に授業で聴いた記憶がある。その表現は言い得て妙だと思う。生産をし続けて社会を富ませることを最高善とする資本主義においては、何もしていない時間は即ち、生産性のない時間と同値だからだ。手待は憎むべき悪であり、殺害すべき対象でしかない。
 時間を殺す為に、人々は何かを生産しようとする。仕事

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『生物失格』 2章、フォワード、ビハインド。(Episode 2)

『生物失格』 2章、フォワード、ビハインド。(Episode 2)

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Episode 2:生物失格への事情聴取。 義務ほど人を束縛するものは無いが、義務ほど人を統制するものも無い。
 この世に義務が無かったら、疾うに世界はエントロピーが増大して無秩序に拡散し、崩壊しているだろう。納税が無ければ国は運営できないし、教育が無ければ人は理知的に動けないし、勤労が無ければ生活は回らず社会は衰退する。
 それらは確かに苦痛だが、しかしだ。義務というものは人の動かし方

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『生物失格』 2章、フォワード、ビハインド。(Episode 1)

『生物失格』 2章、フォワード、ビハインド。(Episode 1)

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***

 人は傷ついただけ強くなれる?
 その腐った脳味噌に銃弾を撃ち込んでやろうか?

***

Episode 1:最低と失格の会話。「気分はどうだね、『失格』クン」
「上々だよ、『最低』先生」
 幽霊擬きに刺されて1週間。刺された傷口は塞がってきていた。『最低』先生こと手荒良辞の最高水準の技術故だろう。経過観察を経て問題が無ければ退院できるだろうとのことだった。
 正直それはあり

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『生物失格』 2章、フォワード、ビハインド。(Future Preface 2)

『生物失格』 2章、フォワード、ビハインド。(Future Preface 2)

Future Preface 2:或る男の独談場。「……久し振りだな、『死城』の末裔。二度と会いたくなかったよ」

 夕暮れ時。
 病室にやって来た男――下道法無羅は。
 病室で治療される少年――死城影汰に吐き捨てた。

「嗚呼、会いたくなんてなかったね。誰がテメェみたいな糞餓鬼に。でも、仕方ねえよな。決着付けなくちゃならねえんだ――俺の禍根にも、お前という災厄にも」

 死城影汰は、何も言わない

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小説『生物失格』 1章、英雄不在の吸血鬼。(Post-Preface 1)

小説『生物失格』 1章、英雄不在の吸血鬼。(Post-Preface 1)

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Post-Preface 1:ピエロ・イントゥ・アサイラム。 某所、精神病棟。
 外側に鍵の付いた鉄格子に覆われたドアの穴から、無言で食器皿が滑り込む。今日の昼食であった。
 治療の名の下に隔離されて監禁された男――ナイフが刺さっても平気の平左な見知らぬ少年に、廃屋の決戦で敗北した幽霊擬きの彼は、ベッドで溜息をついた。そして重い腰を上げて鈍い足取りで近づく。
 完璧に栄養が調整されたペー

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