『生物失格』 2章、フォワード、ビハインド。(Future Preface 2)
Future Preface 2:或る男の独談場。
「……久し振りだな、『死城』の末裔。二度と会いたくなかったよ」
夕暮れ時。
病室にやって来た男――下道法無羅は。
病室で治療される少年――死城影汰に吐き捨てた。
「嗚呼、会いたくなんてなかったね。誰がテメェみたいな糞餓鬼に。でも、仕方ねえよな。決着付けなくちゃならねえんだ――俺の禍根にも、お前という災厄にも」
死城影汰は、何も言わない。
「お前は災厄だ。この世の癌同然だ。解ってんだろ、なあ? のうのうと生き延びやがって、普通に恋して暮らしやがって。俺への当て付けか、なあ?」
死城影汰は、何も言えない。
「まあ良い。今からお前を殺す訳だし。お前なんて、殺したら綺麗さっぱり忘れてやる。それから第二の人生を――いや、本当の人生を歩むんだ。しっかり償ってくれよ、なあ? 俺の人生を浪費させた罪と――」
死城影汰は、何も言わない。
「――俺の兄貴、下道獄楽を殺した罪とを」
死城影汰は、何も言わない。
「人殺しの自覚があるんだろ? 義務教育は受けているよな? なら分かるだろ。罪を償えよ――人殺しは罪なんだから、罰を受けなきゃならねえだろうが」
死城影汰は、何も言わない。
「それともアレか、兄貴を殺したのは正当防衛だったとでも言いたいのか? まあ、そうだろうよ。兄貴は『殺人』の衝動に苛まれていたからな。殆どの場合は、謂れも無い殺され方をする筈だ。だが、お前は違う。謂れなく殺されかけたのかもしれねェが、お前には殺される謂れはあったんだからよ」
死城影汰は、何も言わない。
「『死城家』――呪いを振り撒いた最悪の一家にして、嵐の如く到来し世界を滅茶苦茶にして去って行った災厄の一家。その末裔にして唯1人の生き残りのお前なんざ、あの場で兄貴に殺されちまった方がマシだった。それなのにテメェは、あの災厄を全て忘れるようにして、好きな女の子と恋愛しているってんだからよ」
死城影汰は、何も言わない。
「それに、その大儀そうな様子じゃ、また誰か傷つけたらしいな? 虫唾が走って反吐が出るぜ。自分が災厄だと認識してねえのか? 世界を壊し人を壊し、これ以上に壊すのか? 壊し足りねェのか? お前のエゴで、全てを壊していいとでも、本気で思ってんのか?」
死城影汰は、何も言わない。
「……嗚呼、答えまで言うな。どうせそう思っているんだからよ。そうでなきゃ、自分の腹を刺してでも敵を倒そう、なんて狂気じみた真似はしねェからな。恋人を守る為なら何をしても許される? 恋人以外の世界は如何でも良い? 巫山戯んじゃねえ――そのエゴが、他人の人生を壊して良い理由になる訳がねえだろうが」
死城影汰は、何も言えない。
「と言っても、お前には分からねェだろうさ。だから、実演してやろうと思うんだ。痛みの想像出来ない馬鹿には、痛みを以て分からせるしかないんだからよ」
死城影汰は、何も言わない。
「そろそろ、戻って来る頃合だな。お前の恋人」
死城影汰は、何も言わない。
「この病室で、お前の目の前で、恋人を殺す。なるべく残酷に、なるべく残虐に。惨めにさせられる程惨たらしく、酷だと思う程に酷く、丁寧に丁重に、乱暴に粗暴に、命を奪ってやる――お前の言うエゴが何なのか、分からせる為になァ!」
死城影汰は、何も言わない。
「俺はお前を二度殺す。精神的に殺して、肉体的に殺す。それでも殺し足りないくらいだが、人はそう何度も殺せない。仕方なく二度だ。精々絶望して絶命しろ、死城影汰」
死城影汰は、何も言わない。
死城影汰は――。
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