見出し画像

外国でぶち当たる言葉の問題はお互い様な方程式によって出来上がっている気がするしあらゆることに対してみんな同じ考えを持ってると思うなよっていうのが答えだ

スリランカの話は最初から読んだ方が分かりやすいかも🦆 読まなくても読めます
https://note.com/sino_no_me/m/mabb0ff1ff657

食べたことのない味のキャンディを食べながらコロンボへの帰路に向かう。噛み砕いても喉を通らず、ロベルタとルーカスへの恋しさが増す。

定宿《Clock Inn》に久しぶりに戻り、一番最初に遭遇したのはロベルタでもルーカスでもなくアメリカ人の女の子だった。チェックインするタイミングが彼女と重なり、ご飯一緒にどう?と誘われたのだ。

私は人見知りなので初対面で他国の人と2人で食事というのは苦手なんだけど「こういうの断るからダメ(成長しない)なんだよ」と思い、誘いに乗ることにした。

画像10

彼女の名前はエミリー。
私より10は年下に見えるし、ノリが今どきの若い女の子という感じだ。喋り方は良く言えばテンポがよく、逆を言えばマシンガンのように速い。

私たちはチェックイン後、宿からほど近いレストランに入った。エミリーは料理を注文するにもポンポンっと迷いがなく、私のもたつき感が一層目立つ。彼女はフムスという料理を注文していた。ひよこ豆をペースト状にしたもので、パンや野菜をディップして食べる中東料理だそう。感じのいいレストランに来ても、私はカリーをオーダーしてしまった。

画像1

食事をしながらエミリーはたくさん話をする。
楽しくないわけではないがこんなことを思う。

英語ネイティヴの人たちは、どうして他国の人たちが全員英語を話せると思っていて、なんの遠慮もなく英語で盛大に話をしてくるのだろう。少なくとも私は、分かっているフリをしながら薄ら笑いでごまかすことに必死だ。

そしてこんなことも思う。

どうして日本人は、奥ゆかしさを時に誤った方向で発揮し、「わからない」「ゆっくり話してほしい」と言えばいいのに言えないんだろう。外国でぶち当たる言葉の問題は、こういうお互いさまな方程式により出来上がっている気がする。

「ねえシノ〜、てかさーホテルになんか変な人いたよね?」

アメリカドラマに出てくるスクールカーストTOPの女子高生みたいな口調でエミリーが言う。
いたっけな?私には覚えがない。

「え、いた?どんな人?」

「男の人。さっき宿でいろいろ手続きしてたらじっとこっち見ててさ。なんかすごく気持ち悪いヤツだったの!」

明らかな嫌悪感を漂わせながら力説するエミリー。私はそのことについてもっと聞いたり話したりしたかったんだけど、うまい英語が出てこない。こうやって話を盛り上げることもできない自分に度々ガッカリするのだが、多少なりとも頑張ったことには○をあげたい。

画像11

食事を終え、私たちは宿へと戻った。と同時に、ある一定の方向に目線を向けながらエミリーが私に耳打ちをしてきた。

「ほら見て。あそこにいる男。さっき言ったキモい奴。まじで怪しすぎ」

嫌悪感を露わにしているエミリーの言葉に、私は「ワォ……」以外の言葉を発することができなかった。相変わらず英語がスムーズに出てこなかったから、ではない。す、すいません、それ、その男、うちのロベルタなんですが……。

まさかの事実が発覚。ロベルタがキモい男って言われてる。しかもすごい嫌悪感を持って。そんな気まずさから言葉を発することができなかった。

ちょっと離れた場所にいるロベルタは私に気付いていない。キャンディから戻って初めて遭遇して声をかけたいくらいなのに、「キモい男」に今私が話しかけたらエミリーはどう思うのだろうか。

というか、事実キモい男だった。私が初めてロベルタに出会った時も、なんか怪しいと思ったもん。エミリーの気持ち、分からなくはないんだけど、だけどさ、実はロベルタはいいヤツなんだよエミリー。キモいって言わないでよ。せめて気持ち悪いって言って。

「あの人変な人じゃないよ」と言いたかったけど、なんか上手に否定してあげられなかった。
そういうとこだぞ私。ごめんロベルタ。

エミリーは「おやすみ」と言い部屋へ戻っていった。私はロベルタの元へとまっすぐ会いに行った。もったりとした話し方、のそのそとした動き。私が戻ってきても「お」と言うくらいで、もっとテンション上げんかいっ!と言いたくなる抑揚の無さ。すべてが落ち着くぜ……(でももっとテンション上げんかいっ)。誰かが思う“キモい人”も、誰かにとっては大事な人。だよ。

こうして、私のコロンボライフ with ロベルタ&ルーカスが再スタートした。
毎晩一緒に飲み歩いた。飲む以外何もしてないコロンボライフ。それでいいのかコロンボライフ。

画像7

実際に来てみるまでスリランカはさぞかし雑多な国なのだろうと思い込んでいたけど、コロンボは都会でお洒落なバーも多い。ロベルタとルーカスはなぜかいろいろなバーを知っていて、2人乗りの極狭スリーウィラーに3人で乗って移動する。座れない1人が座ってる2人の膝の上に乗ったりして、この窮屈な感じの楽しさよ。

ロベルタとルーカスの会話はウクライナ語(?)なので私には分からないけど、ときどきロベルタが英語に訳してくれるし、私は2人がいてくれたらそれだけで嬉しいからなんでもいい。

画像2
画像3
画像4

とあるバーでスリランカ人のイケメンを発見。バーカウンターに座っているその青年にロベルタが話しかける。ロベルタはあんな感じなのにコミュ力はなぜか高い。

人の心を浮つかせる低音の効いたテンポのいい音楽、甘くて酸っぱいトロピカルカクテル、加えてイケメンの登場ときた。なんかテンション上がるぞ、見てるだけで目の保養になるぞ、いやちょっとロベルタとルーカス邪魔なんだけど、などと、気づけば私の大事な2人に自ら暴言を吐いていた。誰かが思う“大事な人”も、誰もが思う”イケメン”には負ける。のか?笑

右:ロベルタ 左:スリランカのイケメン

画像8

なんていうのは半分くらい冗談で(半分は本気なのか問題)、イケメンよりももちろんロベルタとルーカスが私は好きだ。

帰り道、腹ペコな私は何か食べて帰ろうと2人を誘った。ロベルタはもう眠いから帰りたいと言い、ルーカスは、、「ルーカスがシノのご飯に付き合ってから帰るって言ってるから2人で行っておいでよ。俺は先に帰っとくわ〜バイビ〜!」とのことだった。

これは事件だ。なぜか。それはルーカスが英語を全く話せないからだ。ロベルタという通訳者がいなければ一切会話は成り立たなくなる。案の定レストランを探すときも、食事をしている今も会話はできていない。

私は大袈裟なニッコリ顔を作り親指を立て「おいしいね」を表すなどして、できない会話を試みる。しかしそんな会話は一瞬で終わる。ルーカスに「ワイフはクッキング上手?早く子供とトゥゲザーしたい?」などの超簡単な単語を使ってみるが、ワイフもクッキングもトゥゲザーも理解してもらえない。私の英語はルー・カス・大柴……。

画像5
画像6

食事を終え、私たちは宿へと向かった。もちろんずっと会話はないが、道すがら小さいカブトムシのような虫を見つけた。私はルーカスに「虫がいるよ」と指で指し、『虫』という言葉を伝えたくて両手のひらを羽のようにパタパタさせた。そうするとルーカスがウクライナ語で何か言いながら私の真似をして両手をパタパタさせた。そのときのルーカスの笑顔を私はずっと大事にしたい。

私とルーカスの言葉の間にはいつもロベルタがいた。でも今は、私とルーカスだけで初めて会話ができた。言葉を使わずに心が通じるというかつてない新しい感覚に触れ、何か強い希望が湧いた。ウキウキした。今宵はいい夢が見れそうだな、なんて思ったりした。

画像10

これまでいろんな人に「英語話せなくても海外行けるよー」と言ってきたけど、自分ではなく相手が話せないバージョンでも、会話、できたよ!
英語なしでも海外行けるよみんな!

私みたいに話せないのに分かったフリをする人もいれば、ルーカスみたいに話せないのではなくてそもそも英語を話す気がない人だっている。会話ができなくても私と一緒にご飯を食べてくれたりするんだ。誰もが必要だと思い込んでる”共通のツール”を、誰しもみんなが必要としているわけではない。違うやり方があるのかもしれない。だからきっと、そこそこでいい。

こうやって私の愛する”キモい”ヤツらとの心の距離は、日々とても近いものになっていった。
まさかまさか、2人がここコロンボを去ってしまうという衝撃の事実を知るまでは……!
離れるその距離、120km!急に遠い!まじかー!

〜来週はスリランカ最終回!続く〜


𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃
〔Instagram〕
https://www.instagram.com/mmmusume/
𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?