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週報『海のまちにくらす』(2022-2023)

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2022年春から大学を休学して東京を離れ、新しい土地で生活をしています。相模湾に面した小さな半島です。ここではじぶんは土地を通過していく観光的旅行者でも、しっかり根をおろした恒久…
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2022年6月の記事一覧

海のまちに暮らす vol.23|役に立つアッシー、何もない僕の生活

海のまちに暮らす vol.23|役に立つアッシー、何もない僕の生活

 アシダカグモという、サイコホラー映画にでも出てきそうな恐ろしげな格好のクモが我が家にやってきたので、「アッシー」という名前をつけて飼うことにした。飼うといっても、別に餌を与えているわけではないです。一応同じ屋根の下で生活を共にしているし、しょっちゅう顔も合わせます。夜中にトイレなんかで会うとけっこうどきんとする。けれど数日経つと慣れてしまうのと、向こうも僕に驚いて逃げていくので(体長に関していえ

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海のまちに暮らす vol.22|メイン会場は8階です

海のまちに暮らす vol.22|メイン会場は8階です

 正式な古本市というものにはじめて行った。何をもって正式と呼ぶのかという話になると、実は僕にもよくわからない部分があるのだけれど、一応定義づけるとしたら本の量とか規模によるのではないでしょうか。この日行ったのは所沢の駅前ホール(ビル?)で、それはもう陳列するとか展示するといった言い回しでは追いつかないほど暴力的な量があり、どれも比較的手に入りやすい価格でビシバシと売り捌かれていた。

 古本市の醍

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海のまちに暮らす vol.21|それはまるで来客の絶えない家の玄関みたいに

海のまちに暮らす vol.21|それはまるで来客の絶えない家の玄関みたいに

 新しく畑に畝をつくろうということで、元々あるジャガイモの苗木を1本抜いたら小さな芋ができていた。せっかくなので持って帰って茹でてみる。ピンポン玉くらいの可愛らしいジャガイモがミルクパンの泡と煙のなかで踊る。ザルへあげ、塩と胡椒をまぶして口に放り込むと、小さいながらもちゃんとジャガイモの味がして、ほくほくとした甘みの奥のほうに畑の土の味も混ざっているような気がした。ジャガイモは土の中にできるからか

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海のまちに暮らす vol.20|バイシクル・バイ・マイサイド

海のまちに暮らす vol.20|バイシクル・バイ・マイサイド

 真鶴出版で一緒に働いているタカハシさんから自転車をもらった。なかなか乗る機会がなくてね、と言って、ネイビーのボディにブラウンのサドルが付いたコンパクトなモデルをくれた。ある日の昼時、タカハシさんはその自転車に乗って真鶴出版へやってきて、夕方、今度は僕がそれにまたがり家まで帰った。目的の品物をさりげなく受け渡すマフィア映画の一幕みたいでなんだか面白かった。備え付けのカゴにはリュックサックがちょうど

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海のまちに暮らす vol.19|火か木、あるいは月

海のまちに暮らす vol.19|火か木、あるいは月

 穴があったら入りたいのと同じように、登りたいものだ。そう、そこに山があるならば。海の町で暮らしていれば、当然山のあるところへも行きたくなる。カレーライスにしたって、ひとたびルーを口に運べば、次はライスを同じ量だけいただくというのが順当なところだろう。ルー、ライス、ルー、ライス、海、山、海、山……

 動機はほとんど適当なのだが、箱根を目指してみることにした。山といえば箱根だろうという、なかなか安

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