外海書房

香川県で移動古本屋をやっています。小説も書きます。

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最近の記事

顔から聞こえてくる音楽

人間の値打ちは外見か、内面か。古今東西されてきた二択だと思いますが、どのみち、内面は外見に現れると思っているので、僕は外見派です。 生まれつきのパーツの良し悪しも確かにあります。しかし、その人が心の中で何を思うか、どのようで哲学を持ち、どのように生きるか。その選択と、長い年月に揉まれ、次第に人間の顔には、その人の人生を象徴する表情が生まれます。どんな言葉を費やし、身なりに気をつけようと、目つきや表情にその人の本質は現れる。と、僕は思っています。「目は口ほどに物を言う」とはよ

    • 轟音に流れる川端康成

      朝、仕事に向かう時、少し坂を登った先にあるトンネルを潜り抜けなければいけませんが、山が朝日を遮っているので、トンネルを抜けると同時に、眩い光がフロントガラス一面に広がり、冷たい霧の中に佇む街が、金色の粒子に覆われているように見えます。車のマフラーから吐き出される白煙や、厚着で登校する学生たち。なだらかな街の向こうに見える、凪いだ藍色の海などを見ると、枕草子で「冬はつとめて」と呼ばれた理由が、よく分かるような気がします。 そんな時ふと、川端康成の「雪国」が読みたくなり、本棚か

      • Silent、ぼっち・ざ・ろっく 音楽の古典化

        音楽と最も親和性が高いコンテンツといえば、やはり映像でしょう。特に、優れた物語に添えられた音楽というのは、制作者すら思いも寄らない魔術的なパワーを生み出し、見るものの脳髄を強く揺さぶります。ここ最近で特に印象に残ったのはドラマ「Silent」とアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」です。 突発性の難聴をテーマに、すれ違う二人の恋模様を繊細なタッチで描いた「Silent」、自意識過剰で人と接するのが苦手な女子高生、後藤ひとりが音楽やバンドを通して成長する「ぼっち・ざ・ろっく!」(略称

        • 島と静けさの芸術、星野道夫

          僕の住んでいる香川県はかなりの田舎です。全都道府県の中でも最少の面積ですし、うどん県やゲーム条例でたびたびネタにされてたりします。新幹線も通ってないので、初めて乗った時はテンションが上がりましたし、地下鉄の値段の安さには驚かされました。好きなMr.Childrenや米津玄師も、客を呼べるキャパの会場がないので中々来てくれません。それでも、今年の夏にはAdoが来てくれるのが幸いです。彼女のライブには絶対に行きます。 ですが、僕はこの香川県が実に肌に合います。うどんが美味いのは

        顔から聞こえてくる音楽

          真夜中のサニーデイサービス

          去年の五月に大阪に行った時ですね。Mr.Childrenの30周年ライブが京セラドームであったんですけど、その終わりにレコードバーに行こうと思ってたんですよ。それで色々と調べて、心斎橋にあるミルクバーってところに行きました。タリスカーのハイボールとラフロイグのロックを飲むと大分酔いが回ってきて、レコードから流れてくる音楽も、何だかツヤと深みが増し、赤みがかった僕の体にじんわり吸収されていくような、そんな夜でした。 そこで店主がかけてくれた音楽がサニーデイ・サービスの「東京」

          真夜中のサニーデイサービス

          10/5 秋の気配と古川本舗の訪れ

          台風が過ぎると、夏の残り香が風雨に流され、空気の匂いが一気に秋に変わってくる。誕生日が10月ということもあり、秋は一番好きな季節だ。肌に触れる涼しげで、物悲しい温度が、たまらなく心を締め付ける。耳にする音楽も、その感傷に適したものへ自然と変わってくる。 フジファブリックの「赤黄色の金木犀」やMr.Childrenの「口笛」など、秋にふさわしい名曲は数多くあるが、僕が中でも気に入ってるのは古川本舗の「SOUP」というアルバムだ。この季節になると、このアルバムを何度も聞き返して

          10/5 秋の気配と古川本舗の訪れ

          9/20 汗ばむ体とジャズの音色

          夏も過ぎ、朝と夜は幾分涼しい風が吹くようになったが、仕事終わりはまだまだ汗ばむことが多い。疲れた体には、必ず帰り道に音楽をかけて癒しを与えるようにする。 その時の気分にもよるが、仕事の帰りにかける音楽にはジャズが多い。行きはテンションを上げるためのJ-POPや洋楽、頭が冴えない時にはクラシックなどをメインにかけるが、くたびれて、汗ばんだ体にはジャズの音がなんだかしっくりとくる。「モダンジャズは皮膚芸術だ」というのは植草甚一の言葉だが、これほどジャズを的確に表現した言葉はない

          9/20 汗ばむ体とジャズの音色

          9/8 今も昔も最近のものは

          シモーヌ・ヴェイユという哲学者がいる。教職に就きながらも「労働者の苦悩を真に感じるためには、彼らと同じ労働をしなくてはならない」と工場で一年間、過酷な労働に身を費やすなど、凄まじい行動力を持つ哲学者だ。三十四歳の若さで亡くなったが、死ぬ寸前まで思想と執筆を辞めず、文字通り命をかけて残した本の数々は、愛読書に欠かせない本として僕の本棚に置かれている。 彼女の工場時代を記録した「工場日記」という本の中に、印象的なシーンがあった。仕事の休み時間、労働者の一人が映画について語る際、

          9/8 今も昔も最近のものは

          7/30 村上春樹の「他人の不在」後編

          村上春樹の小説には他人がいない。だから好き嫌いが別れる。小説、ひいては物語というのは、多種多様な人間模様の織りなす繋がりや衝突だ。なのに、彼の小説には同じような趣味と価値観の人間ばかりが出てくる。この不自然かつ閉鎖的な空気が読む者にとってはどうにも鼻に着く。 前回はここまで書いたが、それだけではこの作家がどうして世界的人気を誇るようになったのか、その説明がつかない。じゃあ、好きな人は一体何が好きなのか。今回はそれについて書いていこうと思う。 ちなみに僕の村上春樹歴で言うと

          7/30 村上春樹の「他人の不在」後編

          7/20 村上春樹の「他人の不在」前編

          圧倒的知名度かつ人気にも関わらず、好き嫌いがばっさりと別れてしまう作家がいる。僕の中では、太宰治と村上春樹がその二代巨頭だ。 太宰治の好き嫌いが別れる理由は、岸田秀が書いた「続ものぐさ精神分析」に彼なりの考えを書いている。その他の文豪についての分析も載ってあり、非常に読み応えのある名著だ。村上春樹に関しては、僕なりの考えを書いていこうと思う。 結論から言うと、村上春樹の小説には他人がいない。だから好き嫌いが別れる。それが僕の意見だ。 要するに村上春樹の小説に出てくる全て

          7/20 村上春樹の「他人の不在」前編

          7/16 宇宙人情物語 スターウォーズ

          何の気なしに、もう一度誰もが知る名作を見直したくなる日がある。最近の僕にとってそれは「スタンドバイミー」と「スターウォーズ」だった。スタンドバイミーについてはまたどこかで話すとして、今日はスターウォーズについて書こうと思う。 スターウォーズに関する記憶は、僕の場合はエピソード1〜3が最も古いものだ。PS2で発売されたゲーム版「シスの復讐」にどっぷりとハマり、何度も何度もプレイしたのを覚えている。なので、主人公のアナキンが闇落ちしていき、ダースヴェイダーになった時には普通に「

          7/16 宇宙人情物語 スターウォーズ

          7/12 ホラーの構造、恐怖の心理

          黒沢清の「CURE」という映画を見た。殺した死体に十字傷を刻むという連続殺人犯を追いかける刑事が主役のサイコホラーだ。抜群の構図、効果的なシーンの見せ方、どこか異界のようなロケーション。全てが絶妙に絡み合い、質の高いホラーを生み出していた。ここ最近見た邦画の中ではトップクラスだと思う。 中でも一番魅力的だったのは、萩原聖人演じる「間宮邦彦」だ。それぞれの殺人には直接手を下した犯人がいたが、皆がこの間宮に洗脳された末の犯行だと言うことが中盤に判明する。刑事が彼を取り調べしよう

          7/12 ホラーの構造、恐怖の心理

          7/11 酒とレコードと調和の夜

          4月初めに菊池寛通りのFLビル二階にオープンした「燦庫」というライブハウスがある。ミュージシャンのライブ、DJイベント、ナイトマーケットなどの幅広い活動のスペースになる、香川の新しいサードプレイスだ。 先日そこで「手放せないレコード/CD」という企画を、常連の喫茶店の半空が開催した。思い出のレコードやCDを持ち寄り、半空のマスターと共に話すという企画だ。皆が様々な音楽を持ち寄った。ジェイムズ・メイソン、中島みゆき、サニーデイサービス、ボビー・コールドウェル、ラッキーオールド

          7/11 酒とレコードと調和の夜

          7/5 粗品と太宰治

          毎週日曜日に、YouTubeで霜降り明星の粗品のチャンネルを見るのが日課になっている。 粗品と言えば、今やTVで見ない日はないとも言えるほど押しも押されぬ売れっ子芸人だが、ギャンブル狂いで多額の借金を背負い、口座には十五円ほどしかないとトークでネタにするほどの金欠というのは有名な話だ。 YouTubeでは彼のギャンブル狂いの様が克明に描かれている。土曜日に競馬の予想動画を上げ、日曜に外した報告をする動画を出す。その際負けた馬券を視聴者に見せると、およそ六十万円から百万。多

          7/5 粗品と太宰治

          7/1 キレのいい創作活動

          「どうして何年も精力的に書き続けることができるのですか?」 「クソを垂れるのに理由があるか?」 僕の好きなブコウスキーという作家が、短編小説の中で発した一言だ。ヨボヨボの老作家の元に、ジャーナリスト志望の大学生がインタビューをしに行く話だが、この老作家は間違いなくブコウスキー本人がモデルと考えていいだろう。 彼らしいパンクな落語精神が炸裂したワンシーンだが、実際に小説を書いていると、このシーンを思い出すことがよくある。 今月の17日に行われる「海の見える古本市」に向け

          7/1 キレのいい創作活動