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真夜中のサニーデイサービス

去年の五月に大阪に行った時ですね。Mr.Childrenの30周年ライブが京セラドームであったんですけど、その終わりにレコードバーに行こうと思ってたんですよ。それで色々と調べて、心斎橋にあるミルクバーってところに行きました。タリスカーのハイボールとラフロイグのロックを飲むと大分酔いが回ってきて、レコードから流れてくる音楽も、何だかツヤと深みが増し、赤みがかった僕の体にじんわり吸収されていくような、そんな夜でした。


そこで店主がかけてくれた音楽がサニーデイ・サービスの「東京」でした。香川県出身のインディーズロックバンドです。普段からお世話になっているブックカフェのマスターも愛聴しており、僕も影響を受け一通りの作品は聴いていました。「東京」は彼らの代表作と言える作品で、既に何度も聴いていましたが、レコードから流れてくるその音楽は、これまで聴いたどの「東京」よりも美しく、作品に内包された60年代の東京の下町の風情が、ジャケットを通してより鮮明に見えてくるように感じました。


彼らのどのアルバムにも言えることですが、一見爽やかで、人懐っこそうなメロディーと歌声のその奥側に、ひんやりとした狂気のようなものを感じます。ボーカルの曽我部さんは読書家で、リチャード・ブローディガンなどを愛読されているようですが、僕はこの二人の間にとても親和性を感じます。ブローディガンの小説はシュールで意味深な描写が多く、精神病患者が見た夢のような光景が次々と現れます。しかしどの描写もとても淡々と、日常的な雰囲気として描かれているのです。何だか怖いですね。狂気を狂気と認識していない、本物の持つ静けさがそこにあります。


僕は2回ほど曽我部さんを間近で見たことがあります。1度目は行きつけのブックカフェ、2度目はライブです。カフェで曽我部さんはコーヒーゼリーパフェを注文し、美味しそうに食べていました。物静かでダンディな男といった風貌です。それがライブとなると、最初は軽やかに演奏していましたが、曲が激しくなるごとに表情が鬼気迫り、「セツナ」という曲では永遠に続くのではないかというほどのギターセッションを披露し、会場のボルテージをぶち上げていました。内側に仕舞われた狂気が弾け飛ぶその様は、「ロックンロール」の名を冠するのに相応しいパフォーマンスでした。


サニーデイという名前もあり、彼らの曲には真昼の太陽のような素朴な明るさがありますが、僕はこのバンドを聴くのは夜にこそ向いているのではないか、そう思っています。できればレコードで聴きたいと「東京」をAmazonで検索してみましたが、なんと現在2万円越えです。レコード収集も一苦労ですね。またもう一度、真夜中のサニーデイサービスに浸りたいものです。

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