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顔から聞こえてくる音楽


人間の値打ちは外見か、内面か。古今東西されてきた二択だと思いますが、どのみち、内面は外見に現れると思っているので、僕は外見派です。


生まれつきのパーツの良し悪しも確かにあります。しかし、その人が心の中で何を思うか、どのようで哲学を持ち、どのように生きるか。その選択と、長い年月に揉まれ、次第に人間の顔には、その人の人生を象徴する表情が生まれます。どんな言葉を費やし、身なりに気をつけようと、目つきや表情にその人の本質は現れる。と、僕は思っています。「目は口ほどに物を言う」とはよく言ったものです。


音楽のジャケットにも、ミュージシャンの顔写真を載せるだけで、内容の全てが伝わってくるような、いわゆる「顔ジャケの名盤」があります。例えばビル・エヴァンスの「Portrait in jazz」からは、格調高く、端正で美しい音が聞こえてきます。またジョン・コルトレーンの「Blue train」は、求道者のような彼の表情から、重々しい音が聞こえますし、ノラ・ジョーンズの「Come away with me」は、日の当たる海岸に吹く、爽やかな風のような音が聞こえます。


同じ人間でも表情ひとつで、全然違う音が聞こえて来る場合もあります。ボブ・ディランの「時代は変わる」は、険しい彼の表情から、緊張感の漂う音がします。それが「Blonde on Blonde」では、カジュアルな雰囲気に変わり、余裕のある、リラックスした音色になりました。更に「Nashville Skyline」では、青空を背景に、にこやかに笑う彼の顔が、アルバム全体の爽やかな空気を象徴しています。決してファンや評論家に、自らの尻尾を掴ませない彼の生き方が、こうやってジャケットにも滲み出ているようです。


もちろん日本にも、顔ジャケの名盤はたくさんあります。細野晴臣の「HOSONO HOUSE」は、控えめな佇まいと、その内に溢れる自信が表情から滲み出て、あの音楽世界と溶け合っているように見えます。また藤井風の「HELP EVER HATE  NEVER」は、日本の音楽シーンに新たな天才が舞い降り、懐かしさと新しさが同居し、無造作なのに洗練した、凄まじい傑作を生み出した。その衝撃が、ジャケットから漂ってくるようです。


人は見かけにはよらない、という言葉もある以上、全てを顔で判断するのは正しくはありません。それでも、作品と、それを作ったアーティストの人となりをじっくりと見ていると、顔は人生の履歴書という考えにも、無視できない真実が含まれているのではないでしょうか。皆さんもお気に入りの顔ジャケの名盤があれば、是非教えてください。

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