予定通り進まない採用プロジェクトをプロジェクト譜で進める方法
採用ほど予定通りに進まないプロジェクトはない。今回、テーマとして取り上げるのは、「予定通り進まないプロジェクトの進め方」である。本書は、プロジェクト工学に基づき、プロジェクトマネジメントをより良い形で行うための手法を実例とともにレクチャーする一冊である。以下リンクは広告だが、Kindle Unlimited 加入者なら無料で読める。
プロジェクトマネジメントと聞くと、ついつい採用とは関係ないのでないかと思いがちだが、本来的に採用とは年間の採用計画に基づき採用目標達成をゴールとするプロジェクトである。もっとも上段に位置する企業成長の観点から言えば、採用はゴールではなくスタートなので、その点は誤解しない方が好ましい。
また、年間の採用計画に基づき採用目標達成をゴールとして考えるのは、あくまで採用全体についての話である。一人の候補者との出会いから内定承諾に至る対個人の動きの一つ一つもプロジェクトに違いなく、その場合のゴールとはその個人の内定承諾となる。採用は、それら一つ一つのプロジェクトの集合とも考えられる。
本書では、プロジェクト譜というものを用いて、予め外部環境及び内部環境を整理した上で、明確なゴールと中間目的の設定により施策を想定し、俯瞰的に実現可能性の高い計画を作成可能にしている。
実際にプロジェクトが進んだ後、都度修正を加えながら、現状を俯瞰して適切な打ち手を講じていく流れを意識しており、計画に閉じたフレームワークというわけでないため、機動的なプロジェクトマネジメントを可能にする特徴を持つ。
それだけではない。プロジェクト完了後にプロジェクトがどのように進められたかを後から検証しやすくなっている。失敗したプロジェクトはなぜ失敗し、どうすれば失敗を回避できたのか。成功したプロジェクトの要因は何だったのか。後からそれらを俯瞰的に検証することで、プロジェクトマネジメントスキルの向上に結びつけられる。
昨今、採用を戦略的に進めようという動きが多く見られる。採用を戦略的に進めるには、計画や過程の管理が重要となり、そのナレッジの共有が肝になってくる。プロジェクト譜は、そうした戦略的な採用に必要なプロジェクトマネジメントツールとして力を発揮するに違いない。
進まない採用を進めるためにプロジェクト譜を利用したプロジェクトマネジメントを行うイメージ
プロジェクト譜の全体図は上記の通りである。左側に廟算八要素としてプロジェクトの概要が記載される。各要素は、それぞれのプロジェクトに合わせて分類した内容を記載する。「予定通り進まないプロジェクトの進め方」で記載されている内容を要約したものを一例として記載する。
メンバー
プロジェクトメンバーに関する情報を記載する(役割や得意領域、関係性など)
予算規模
予算に関する情報を記載する
納期/リードタイム
期限やその期限に関する情報(余裕の有無など)を記載する
クオリティ
現状提供可能な品質や機能的な特徴、競合と比べたときの優位性などを記載する
ビジネスモデル
どのようにお金を得るか、何らかの評価を得るかを記載する
環境
プロジェクトを取り巻く内外の環境やプロジェクトへの期待値などを記載する
競合
把握している競合の他、競合になり得る相手の情報も記載する
外敵
プロジェクトを行う上で障害となる存在を記載する
これらはあくまで一例であるため、実際に記載する内容は、自身が当てはまると思った情報をざっくばらんに記載すれば良い。記載した内容は、右側を設計する上で参考にする。
右側には、勝利条件(プロジェクトによって達成するもの、目的など)、勝利条件を達成するための中間目的(主要な成功要因)、中間目的を実現するための施策を記載する。
右側下部は、なぜ本プロジェクトを実施するかなどの背景や現在の状況などを自由に記載するが、記載がなくても問題はない。作る手順を大まかに伝えると以下の通りとなると思われる。
廟算八要素を記載する(すべて埋める必要はない)
勝利条件を設定する
中間目的を設定する
施策を設定する
なお、プロジェクション譜を実際に創ってみると分かるが、1枚のスライドに記載できる量はとても少ない。そのため、プロジェクト全体を1枚に収めようとすると入りきらない。
使い方としては、プロジェクト全体について大まかなプロジェクト譜を創った後、各中間目的、各施策それぞれについて新たにプロジェクト譜を創るといった、細分化を用いる形が現実的となる。
採用において利用するのであれば、ポジションごとに作成する形になるのでなかろうか。作成効率を上げられれば、候補者一人一人に対して作成できるが、その場合には対象となる候補者を選ぶ基準等が必要になるかもしれない。
プロジェクト譜の使い方の詳細は本書に譲るが、使っているときのイメージは伝えようと思う。プロジェクト譜を創った後、プロジェクトが始まる。恐らく各施策を実行していくと思われる。各施策を実行すると、予定や想定と異なる結果が出始め、当初の計画はあっけなく崩れていくのが常であろう。
プロジェクト譜では、記載した施策を実行した後、コメントの形で施策に対する評価や検証を行う。その評価や検証の結果に基づき、施策を増やしたり、中間目的の手前に新たな中間目的や施策を設定したりと、プロジェクト譜それ自体の修正を行っていく。
そうした修正は記録できるだけ記録し、後から確認できるようにする。それがプロジェクトマネジメントのナレッジとなる。上の図では、施策の2番目はそもそも失敗だったためバツをつけている。また、施策の1番目(A)を実施したところ、施策の3番目(C)に繋げた方が効果が高いことが分かったため、AからCへと矢印を伸ばしている。
このように流動的に状況が変化していくプロジェクトの様子を、可能な限りプロジェクト譜にも記載していく。その結果、プロジェクト譜の内容が変わってくるはずである。そうなったら、最終稿として新たにプロジェクト譜を創り、プロジェクト完遂までの道筋を見やすく表す。
するとプロジェクトの完遂と併せて、最終的にどのような過程を踏んだことでプロジェクトが完遂したのか確認できるプロジェクト譜も完成する。これはプロジェクトに参加していないメンバーも後から確認して、失敗や軌道修正、最終的にどんな道筋で完遂まで至れたのかを知る材料となる。
プロジェクト譜が溜まっていけば、それだけプロジェクトマネジメントのナレッジが積み重なるとともに、プロジェクトマネジメントに不慣れなメンバーにとっての良い教科書が出来上がる。自然と組織全体のプロジェクトマネジメントスキルが高まっていくだろう。
プロジェクト譜は進まない採用・非力な採用力をカバーする有効的なツールになる
採用担当者として起用される者は、ビジネススキルすら低いケースが少ない。また現場との協働が前提となるケースが増える中、現場のオンボーディンの効率化の必要性は高まっている。
プロジェクト譜によるナレッジの蓄積は、そうした課題の対処策の一つになるだろうし、あってはならないミスによって採用の失敗を招かないようにする防御策となる。
PMBOKなどのプロジェクトマネジメントに関するフレームワークは、プロジェクトマネジメントを上手く行う上で大きな力となるものだが、採用のようなプロジェクトに転用するのは難しい。
その点プロジェクト譜はとても使いやすく、尚且つ簡易的に利用するのであれば作成に時間を要しない。簡易的に利用した場合でも、数が増えればナレッジとして機能する点も嬉しい。
これまで感覚的に行っていた採用にある種のプロセス思考を取り入れたいとき、言語化されたナレッジを積み上げることで中長期的な採用の成功パターンを築き上げたいとき。プロジェクト譜は強力な味方になってくれるだろう。
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