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外国人技能実習制度改正に向けた最終報告書を読む【9】

外国人技能実習生・特定技能制度の抜本的な改正を前に、改正内容を考える上で重要となる最終報告書を読む連載を実施している。連載開始から早いもので2ヶ月が経過している。今回は第9回目となる。なお、これまでの連載は以下の通りだ。

前回は提言3の6について読み、その内容にふれた。今回は、国および自治体の役割に関する提言を行っている提言3の6について読んでいく。

提言3 「7 国・自治体の役割」

本提言では、外国人技能実習制度・特定技能制度の新制度・育成就労制度における国や自治体の役割に関する提言がなされている。

提言①について

① 地方出入国在留管理局、新たな機構、労働基準監督署、ハローワーク等
の関係機関が連携し、外国人の不適正な受入れ・雇用を厳格に排除し、的
確な転籍支援等を行う。

最終報告書

本提言がなされるにあたり、議論段階において、

  • 監理団体や受入れ機関による不適正な受入れ等に対する強い問題意識

  • 悪質な監理団体、登録支援機関、受入れ機関等の排除の必要性

上記2点が論点として挙がっている旨が最終報告書に記載されている。新制度(育成就労制度)でこれらを良い方向へと進める上で、地方出入国在留管理局・新機構・労働基準監督署・ハローワーク等の国・地方自治体の機関が適切な仕事にあたる旨を提言している。

提言②について

② 制度所管省庁は、業所管省庁との連絡調整、業所管省庁や関係機関への
助言、送出国との連携の強化等、制度全体を適正に運用する上での中心的
な役割を果たすものとし、技能実習制度における地域協議会を参照して
同様の協議会を組織することなどにより、地域の特性を踏まえた新たな
制度及び特定技能制度の適正化等を図るものとする。

最終報告書

制度所管省庁が従前通り各々連携して制度全体の運用ににおける中心的な役割を担うこと、また地域ごとの協議会を設立し、地域の特性や課題を踏まえた取り組みを行うことの大きく2点について提言している。

新制度(育成就労制度)への転換においては、現行制度の運用にあたる機関に対しても大きなメスを入れられている。不適切な運用が行われる至った諸要因を生んでしまっていたためと思われる。

従って、新制度においてはそうした不適切な運用が行われない形を意識した提言が行われた。一方で、不適切な運用を防ぐために中央集権化ばかりを強めては、受け入れる地域の課題感と乖離しかねない。本提言をそうした乖離を防ぎ、地域の実情を踏まえて制度が利用され得る形を模索したものと見られる。

提言③について

③ 業所管省庁は、受入れ対象分野の受入れガイドラインや育成・キャリア
形成プログラム(新たな制度から特定技能1号への移行だけでなく、特定
技能1号から特定技能2号への移行を含む。)を策定するなどして受入れ
の適正化を促進するほか、業界特有の事情に係る相談窓口の設置、優良受入れ機関に対する支援等の優遇措置、不適切な引き抜きを防止するために必要な措置等を講じるなど、外国人の受入れ環境の整備等に資する取組を行う。これらの取組等については、特定技能制度における分野別協議会を新たな制度でも活用するなどして業界団体等と連携しつつ、業界全体の実情を踏まえて行うものとする。

最終報告書

事業所管庁において、現行の機能に加えて、

  • 外国人の受入れに係るガイドライン策定

  • 処遇確保を含む技能育成・キャリア形成に関する標準的なモデルの策定

  • 産業政策の観点から人材不足及び人材確保の状況を確認

上記の役割が期待されるといった提言である。加えて、

  • 分野別協議会の機能強化を実施して分野ごとの取組の標準化を図る

  • 地域・地場に必要な投資を行い産業を活性化する

上記の役割も期待したい声があったとされている。地域・地場への投資並びに産業活性化を実施するのは自治体や地域企業、地域住民の役割であり、その点をも国に期待するのは間違っていると言える。外国人技能実習制度・特定技能生であるかどうかに関わらず、認識は正す必要を感じる。

提言④について

④ 文部科学省は、厚生労働省及び出入国在留管理庁と連携し、日本語教育
機関における日本語教育の適正かつ確実な実施を図り、その水準の維持
向上を図る。

最終報告書

外国人技能実習制度・特定技能制度の新制度(育成就労制度)においては、外国人就労者・労働者の日本語能力の向上が大きな課題として掲げられている。

その課題を解消し、外国人技能実習生・特定技能制で働く人々への日本語能力向上に向けた取り組みを文部科学省及び関係者に要求する提言である。日本語教育推進に関する諸制度を活用した、学習の質の向上・学習機会確保が指摘されている。

昨今、外国人技能実習生を取り巻く環境として、地域活動と連携した日本語交流機会の創出や地域住民との触れ合いを通じた日本語能力向上に向けた取り組みが行われている。

このような取り組みは、地域との交流を通じて、生活の不便や不安を解消するのにも寄与すると思われる。また、生きた日本語に触れる機会が増えれば、生活能力の向上にも繋がる。今後、同様の取り組みが増えるのであれば好ましく感じられる。

提言⑤について

⑤ 各自治体は、上記②の協議会に積極的に参画し、同協議会等を通じて業
所管省庁等とともに共生社会の実現や地域産業政策の観点から外国人材
の受入れ環境の整備等に取り組むとともに、外国人受入環境整備交付金
や外国人支援コーディネーターを活用するなどして、外国人から生活相
談等を受ける相談窓口の整備や、外国人の生活環境等を整備するための
取組等を推進する。

最終報告書

自治体の役割について細かな提言が行われている。

  • 外国人材の受入れ環境の整備

    • 事業所管庁との連携強化

    • 負担の増える地域の支援、相互理解等の取り組み

    • 一元的相談窓口の体制整備

    • 国と地域のネットワークの構築

    • 外国人の生活環境等の整備

主に自治体は上記に取り組むべきと提言されており、財源に関する言及もなされている。加えて支援担当者の整備に関する言及もなされているが、こちらは受託機関の窓口担当者に対する支援を実施する方向で話が進んでいるようである。

さりとて、外国人技能実習生、特定技能で働く人々は今後全国的に増えていくと見られる一方で、地方の多言語対応力は向上していない。支援担当者の需要は急激に増加していくと推測される以上、窓口や支援者の形は多様な観点で検討される必要性があるように思える。

提言⑥について

⑥ 政府は、我が国で修得した技能が帰国後に生かされ、ひいては我が国へ
の送出しにもつながるよう、育成される技能の見える化等を推進する。

最終報告書

新制度(育成就労制度)と特定技能制度は国際貢献を念頭に置いている制度ではないとした上で、帰国後で日本において身につけた技能を母国で活用できるような支援をする必要性が提言されている。

具体的には国家間の資格相互認証制度である。実現性は極めて難しいようにも思えるが、実現すれば日本にとっても大きな価値が生じる内容である。実現できるようになって欲しいと心から感じる。


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