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エッセイ

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日記とか回想とか
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#創作大賞2023

兄と映画館

兄と映画館

10歳年上の兄は、私に映画館の楽しみを教えてくれた。

友達は少なく、恋人はおらず、スポーツもゲームもしない兄の唯一といっていい趣味が、映画だった。
兄の部屋に行くといつも、小さな箱型のテレビに知らない洋画が映っていた。棚に、床に、ビデオテープとDVDが年々うず高く積もっていった。

私が小学校高学年の頃からだろうか、大学生の兄は時折、映画館に連れて行ってくれた。ポイントが余って仕方ないのだと言っ

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ダウナー系人間

ダウナー系人間

「○○くんのトークはアッパー系だよね。俺のラジオはダウナー系だからさ」
好きな声優が、ラジオでこんなことを言っていた。

対談相手の○○という声優は、「さあ、今回も始まりましたこの××ラジオ!」という感じで、ハイテンションに喋る。一方私の好きな声優は、「……はい、皆さんどうもこんばんは。声優の△△です」というふうに、淡々と落ち着いたトーンで喋る。

アッパー、ダウナーという言葉をドラッグ以外に使う

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男の子になって新宿を歩く

男の子になって新宿を歩く

私の私服には、主に2つのパターンがある。女の子っぽい服と、男の子っぽい服だ。
説明する必要はないかもしれないが、前者はふんわりしたスカートやカーディガン、花やレースのモチーフのブラウスで、後者はジーンズやパーカーや襟のついたシャツ等である。

人と会う予定のときは、たいてい女の子服を選ぶ。お出かけという感じで気分も上がるし、多少なりともフォーマルな方が相手に失礼がないと思うからだ。

一人で出かけ

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窓辺でスピッツを聴きながら

窓辺でスピッツを聴きながら

最近、家の中にお気に入りの場所ができた。窓辺だ。
リビングに大きな掃き出し窓があり、ベランダに出入りするために空けてあるのだが、そこに小さな折りたたみ椅子とサイドテーブル(どちらも独身時代の夫の持ち物だ)を持ってきた。軽いので、邪魔なときはどかせばいい。

サイドテーブルにマグカップを置く。たいていコーヒーか紅茶だ。
先週は本を読んだ。何度も読んでいる江國香織の「東京タワー」を、読み終わったのにも

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