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はじはじのつづき集

14
『はじまりのはじまり』 15の物語のはじまりから広がったあなたの中の物語。 ここに集めさせていただきます。 ありがとう ありがとう ありがとう
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#掌編小説

追悼

追悼

「そんな日もあるし、こんな日もあるのよ」

 となりで空を見上げながら、母は言った。どこか遠くへ置くように。
 あの朝の母の声を、今でもはっきりと覚えている。

 



 

 夜明けとともに目が覚めた。寝返りを打ってまぶたを閉じるけれど、脳が活動をはじめている。重い身体を引きずるように、ベッドから抜け出した。

 昨日の服を洗濯機に放りこみ、コーヒーメーカーのスイッチを入れる。ルーティンでレ

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夏の夜の、部屋の鯨の、小さな秘密。

夜中に目覚めた。
天井を、鯨が泳いでいた。

子犬くらいの大きさの鯨。私は何度か、まばたきをして、ぼおっと鯨を目で追う。カーテンの隙間から差し込む街灯を浴びたり、暗闇に紛れたり、そうやって鯨はゆるやかに泳ぐ。

鯨は、私をちらちらと横目で見下ろしながら、何度か周回して、キッチンの花瓶のところへゆったりと泳いでいく。私は目をそらさずに、鯨を追う。花の匂いを嗅ぐように鯨は花の周りをしばらく泳ぎ、キッチ

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