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はじはじのつづき集

14
『はじまりのはじまり』 15の物語のはじまりから広がったあなたの中の物語。 ここに集めさせていただきます。 ありがとう ありがとう ありがとう
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記事一覧

『緑の療養所』

『緑の療養所』

またお願いします。
若い女性がすまなそうな笑顔で、
鉢を置き言った。
都心部にあるにも関わらず、
知る人ぞ知る場所。
お洒落な町並みで、
景観をみださぬよう精一杯頑張った鉢植え達は、
ここに来て療養する。
そうやって都会の鉢植えは、
うまくロ-テ-ションを組むのだ。
毎朝、カフェやヘアサロンのスタッフが、誰かしら軽トラでやって来る。

秋子は、今日も公園のベンチに座っている。

雨の日以外は毎日だ

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『キス』

『キス』

初めてキスした時のこと、覚えてる?

迂闊にも女にそう聞かれた時、

ケンの頭の中では

ずいぶん昔に忘れ去っていた、

亡き妻とのはじめてのキスがフラッシュバックしたのだった。

今更かよ、

まざまざと細胞に蘇る記憶に圧倒されつつも

ケンは自分に呆れた。

何ヶ月も蓋をされていた何かが

間欠泉のように噴き出し

帰り道の雨の中

ケンは膝から崩れ落ちた。

今更かよ。

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追悼

追悼

「そんな日もあるし、こんな日もあるのよ」

 となりで空を見上げながら、母は言った。どこか遠くへ置くように。
 あの朝の母の声を、今でもはっきりと覚えている。

 



 

 夜明けとともに目が覚めた。寝返りを打ってまぶたを閉じるけれど、脳が活動をはじめている。重い身体を引きずるように、ベッドから抜け出した。

 昨日の服を洗濯機に放りこみ、コーヒーメーカーのスイッチを入れる。ルーティンでレ

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夏の夜の、部屋の鯨の、小さな秘密。

夜中に目覚めた。
天井を、鯨が泳いでいた。

子犬くらいの大きさの鯨。私は何度か、まばたきをして、ぼおっと鯨を目で追う。カーテンの隙間から差し込む街灯を浴びたり、暗闇に紛れたり、そうやって鯨はゆるやかに泳ぐ。

鯨は、私をちらちらと横目で見下ろしながら、何度か周回して、キッチンの花瓶のところへゆったりと泳いでいく。私は目をそらさずに、鯨を追う。花の匂いを嗅ぐように鯨は花の周りをしばらく泳ぎ、キッチ

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『旅人』 ~星空~

『旅人』 ~星空~

境界線が消えていくことを、最近よく思っていました。企画に参加させていただきました。

長いこと一人で旅をしていた。

朝焼けと共に目覚め

星空と語り

風に励まされた。

そうしているうちに、

旅人には分からなくなってしまった。

自分と世界の境目

どこからが私で

どこからが世界なのか。

どこからが自分で

どこからが他人なのか。

星空を見上げる。

無限の空

無限の星たち。

その

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象の逆立ち

象の逆立ち

シモーヌさんのこちらの続き。

ぼくたちが逆立ちする感覚っていうのはさ、
からだが固まったら
うーんって伸びするのと
一緒なのよ。

楽しいことしよう、とか
あそぼう、とかじゃなくて、
もっとふつうで
いつものことなんだよね。

頭の中は
折れて 曲がって こんがらがって
どこからほどいていいか わからない毛糸玉みたいで
心の中は
かぴかぴにかわいて高野豆腐みたいな
今の私に
ぞうが 逆立ちを

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黄昏 はじはじのつづき

黄昏 はじはじのつづき

黄昏時に見たものは
茜色の母の愛
妹を膝に乗せ
諦めた様に笑っている

妹は母の膝を
両手で抱えて眠る
私が近づくと睨み付け
これは渡さないと
泣きじゃくる

仕方なく父の側
タバコの輪っかの作り方
覚えて真似てまん丸い
煙の輪っかを作ってた
上手に浮かぶ真白い輪っかを
妹は両手で受け取った

黄昏は時々に
冷たい愛を連れてくる
あなたには渡さないと
見せびらかしにやってくる

輪っかを作ってあげ

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距離と夏の香り

距離と夏の香り

流れが変わるのを告げるかのような、

久方の朝焼けだった。

今日はさとしに連絡してみよう。

かなはそう思った。

ちょうど10日前、2週間ほど留守にしていたさとしが帰って来たと連絡してきた。

「今日帰ってきました。まったりしてます。」

なんとなく予感していた、「今日あたり帰るかな?」

出会ってまもなく3年になるというのに、かなはさとしに会うとすこし緊張する。

綺麗に見せたいからにほかな

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はじはじのつづき『緑の療養所』

はじはじのつづき『緑の療養所』

シモーヌさんの企画に参加させていただきます。
今回はこちら、の続きを。

この療養所を利用するのは、5度目だ。

近ごろ、活気のない日々が続いていた。

日差しもあまり入らない。

私も彼女もなんだか萎れてきていた。

彼女は、「またお願いします、」と言い残し、

帰って行った。

私は、彼女がヘアサロンの、

新人アシスタントとして採用された

2年前の春にやってきた。

つまり、同期みたいなも

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はじはじのつづき『猫の秘密』

はじはじのつづき『猫の秘密』

シモーヌさん、
素敵な企画、私も参加させて下さい!

「僕はお腹に金色の野原を持っている。

お母さんはそこにナウシカが見えると言っている。

金色の野原を保つコツは、

晴れた日にはしっかりお日様を浴びて、

光の充電をすること。

それが一番大事です。」

🐈…

「大きく息を吐いて、それから、

金色の野原に顔をうずめてご覧なさい。

そして、野原の真ん中で、

そっと、でも出来るだけ長く

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『猫の秘密』 #はじまりのはじまり

『猫の秘密』 #はじまりのはじまり

猫の学校の 授業が はじまった。

先生が
「今日は、秘密についてです。
 秘密というのは、誰にも話さないでお腹の中にしまってあることです。
 今日は、その秘密を、そっと打ち明ける 練習をしてみましょう。」

 、、、練習するの? なんでだろう?

すると、先生は
「秘密を お腹の中に 持ち続けていると、
 お腹の中が 秘密で一杯に なってしまうので、
 時々、外に出して あげないと いけませんよ

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ミツバチじいさん

ミツバチじいさん

背高く空に伸びたバラたちだけは

花弁が空に還って行くんだ、

そりゃおめぇ、

そん時は

ふぁんたすてぃっくってやつだよ!

全ての花が地面に散るって

どこかで決め込んじゃいないかい?

ミツバチじいさんは、

バラ園を一緒に飛びながら

そんな話をしてくれた。

あの日私は、背の高いひまわりから、蜘蛛の巣に飛び降りようとしていた。

私は誰のためにこんなに必死になってるんだろう。毎日毎日毎

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はじはじのつづき からの15首

はじはじのつづき からの15首

この記事は、シモーヌさんの「はじはじのつづき」に参加させて貰ってます。

この企画は、シモーヌさんの書かれた「はじまりのはじまり」に着想を得て続く物語を書くんですよね。「はじはじのつづき」なんだから、当たり前。はい、わかってます。が、書けませんアタシにストーリーは。なので、質より量を目指してみました。笑

本来広げるべきものを圧縮すると言う、なんともはやの参加の仕方。

おお!とか、ひゃあ!とかの

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秘密の朝の物語【短編小説】

秘密の朝の物語【短編小説】

あなたのために、と  
薔薇は精一杯背筋を伸ばし
大切にとっておいた 朝露の最後の一粒を
差し出したのだった

僕は手でそれを受け止め
澄んだ一滴を舌に載せた
芳しい香りと冷たい味わいが 
身体の隅々に染み渡る
その滴は 薔薇の涙 薔薇の魂

大丈夫だ、僕は。もう大丈夫だよ

 時間は一ヶ月前に遡る。

 僕は作家を生業にしている。業界内でしか名前は知られていない。いわゆるゴーストライターだ。
 

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