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2023年12月の記事一覧

詩「ぼかし」

詩「ぼかし」

空は朱と紫のぼかし
緞帳が下りて一日の終わりを告げる
静止することのない私たちを
影絵となった山々が包み込む

私たちの足は常に前進を求められる
ゆっくりの歩みもいつの間にか速歩きになる
でもじつは小さな水晶玉のわらび餅を
四季を知らないまま食う人に私はなりたいと思う

スネアドラムのさざめきが
そういう人の静かな孤独を
10円ハゲみたいな太陽の前に晒す
干いては満ちる不安定の豊かさを知らない太陽

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詩「無題」

詩「無題」

コーヒーの湯気の人待ち
自らの影と戯れていたら
誰を待っていたのかも忘れたよ
ただ、ジグソーパズルの1ピースが見つかって
ことの全貌が見えてきたみたいに
全ての幻想と私の狂気が明るみになった

「新しい年も迎えるしさ、切り替えようよ」って
北風小僧が肩を叩く
私は本当は指先まで凍えて
もううずくまってしまいたい
狂気と正気の境界線で腹を空かせて
誰を探していたのかもよくわからない

背中ばかりが冷

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詩「冬と警告」

詩「冬と警告」

冬の光の青いベールは
人生に対して眠たげなぼくを柔く包む
名も知らぬ人たちの愛の渦は
ぼくの視力を奪っていった

「おまえは冬のキリギリス」
そんな警告灯が明日の安穏を切り裂く
臓器をひとつひとつ失うように
銀杏は無風のこの世で散っていく

ぼくが泣きそうなくらいに白い
木蓮の花がゆっくりと開くように
今日もどこかで誰かが発狂する
それは世界があまりにも美しすぎるから

「日暮も近いから、手を繋い

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詩「考えごと」

詩「考えごと」

いつから絶望を背負っていたんだろう
いつから絶望を抱えていたんだろう
我に帰り 振り向けば 
生きた証というものは砂浜の足跡のよう
やがて消えてしまう足跡だ

絶望は手首を走る青い血脈のよう
身体に大昔から備わっている
我々がまだ透明な鱗をまとっていた頃から
絶望の存在に気がついたとき
もう既にそれは完成形であり 
硬く 冷たく 重い

自らの心にぽっかりと空いた真っ黒い穴は
特別な人に見せたくな

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詩「虚しさを食う」

詩「虚しさを食う」

少しずつの虚しさを
板チョコレートを割るように
私はゆっくり食っている
胃袋が虚しさでいっぱいになって
いつかはち切れてしまうまで
私はゆっくり食っている

絶望する人は微笑う
希望する人は涙を流す
私の表情筋はどちらともなく
絶望とも希望とも取れる喪失感が
お冷の氷を噛むように口内にしみるのみ
ただ私は全ての人の絶望に加担している

突然の吐き気
小さくて弱い胃袋がいよいよはち切れそうだ
細切れ

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詩「海」

詩「海」

私は海をわらう
寄せては引く波にときめきを重ねて

水面には昨宵の星屑が散らされる
まるで海と交わった夜空の忘れ物

ざざざと吹く潮風は時間も空間も知らない
私は私として淋しさに腰かける

数匹のフナムシと私は一つの岩となり
やがて風化する

海水が私の隙に入り込む
受容と一体化をおそれる私に

海に、
海にのまれる

詩「冬」

詩「冬」

寒椿と凍て星のジレンマは
私の眼に火影を生み落とし
熱視線は明鏡の正しさを溶かす
ーーこの世の儚さはドミノ倒しのよう
そう了解したさき拝顔の喜びに震える

詩「花輪」

詩「花輪」

唇に露の香を 装いに花の燦きを
「あいにいきます」 私のいちばんすきな私で
失恋と熱愛の溶け合う境界
心臓はすっかり砂に満たされ
身体はその重さに傾く
霜の降りた世界に彼の人の魂が震えている
そして水精でできた鈴を鳴らした
私の眼から一条の涙
その鈴の音の美しさは春の潮声に似る
読みかけの詩集を閉じ
車窓の光景に目が覚めるように
彼の人の清い心は私の羅針盤を研ぎ澄ます
「あいにいきます」 彼の人は

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詩「生の啓示」

詩「生の啓示」

不意をつかれた
あの人の名前を見つけた
この広い広い世界のお話
わたし、青天の下で少し踊ったりした
爪先まで熱い歓喜が巡った
くすぐったいくらいに

この世が嵐の大海ならば
わたしは櫓を失った小舟
太陽の消え去った世界で
あの人は遠くの灯台だった
その光は慈愛をたっぷりふくみ
その影は憂愁をそなえた

あの人の名前を見つけた瞬間は
鱗粉が冬の風に煌めいたようで
本当は刹那の香りがした
でもわたしの

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詩「浮き草」

詩「浮き草」

鱗のかがやき散り散りと舞う
心居直れば浮き草のわたし
ひっそりゆらぎをいだきつつ
あの人から湧く水の清さを
しんしんと身に染めている
あの人から注ぐ陽光の碧色を
さんさんといのちで喰んでいる
浮き草はそうやって息している

激しい水流は孤独を踊らせる
あの人の姿も見えなくなるが
水はひそかに透光をたもつ
誰をも受けつけぬ冬の河は
恋を磨れば固くなり
愛を包めば柔くなる
もしまたあの人にあえるのなら

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