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詩「うらがえし」

詩「うらがえし」

うらがえし
何もかもどうでもいい、という
蜥蜴の尻尾
君を溶かした夕焼け空には
春の余韻すら見当たらなかった
「だから文学も哲学もやるのです」
そんな言い訳は誰も聞かない

うらがえし
もう生きたくはない、という
黒鍵の失われたジャズ・ハノン
私の拙さは病める星となって
人知れず燃え尽きる
「どうか私を分別してください」
そんな泣き言は誰も聞かない

うらがえし
もう決別よ、という
梅雨空を切り込

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詩「五月雨と文」

詩「五月雨と文」

雨よ、土よ、草よ、露よ
君らの雰囲気が書かせたお手紙
君らの匂いが僕は大好きで
そのこともお手紙にしたためたよ
じめっとしていて、それでもやさしい君らが
僕の青インクを滲ませようと企てたの、知っているよ

心配なんだ、宛名さえも読めなくなって
このお手紙が広い時代の漂流者になりやしないか
心配なんだ、文字をつぶしたただの滲みが
僕の涙だと思われやしないか
だから、僕にお手紙を書かせるなら
いたずら

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詩「今宵」

詩「今宵」

今宵も気がつけば
うつ伏せで眠っている
心臓が圧迫される午前3時
朝の気配はまだ遠い
ぽつらぽつらと愛の告白するように
小さな雨粒が若草を湿らす
やがて雨は連なった音律になり
私の心を鋭敏に震わす

今宵も気がつけば
こわい夢見て眠ってる
罪が皺に刻まれる午前4時
朝の気配に裏切られる
カラカラの唇に懺悔の言葉も無く
ただ夜より降り続く雨に手を伸ばす
道のぬかるみもまた一興
私の心は鈍く汚れた

詩「Azalee」(和訳付き)

詩「Azalee」(和訳付き)

Azalee

Diese Welt ist "verkrüppelt".
Wir sind es, bevor wir wissen, was "verkrüppelt" bedeutet, leer wie eine Azalee, deren Nektar von Insekten ausgesaugt wurde.

Schließlich bedeckten die verstre

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詩「見上げたら」

詩「見上げたら」

見上げたら
電球が風に揺れている
よく見たら
その明かりは宙を漂う

君の上野のパンダになれたら
どんなによかったかな
君のセルロイドの眼鏡の縁になれたら
どんなによかったかな
君の家の黒猫の鈴になれたら
どんなによかったかな

見上げたら
鏡のような柳が靡いている
よく見たら
みな僕の姿だ

詩「病」

詩「病」

一日を通して涼しい
鯖色の雲がもくりと風に吹かれるよ
濾された涼しさが私に寄り添う
覚えたての歌を歌ってみる
この世に生み落とされたばかりの歌
温かな響きが私自身の背中を撫でた
本当はいつだってあなたのために
オーロラの音律を口ずさみたい
これが私の自信です
あなたの笑顔の隣で幸せを探せたら
もう幸せはいらないのかもね
この発見
この喜び
今のあなたに伝えられたら
今すぐ伝えられたら
何もかもを手

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詩「ここ」

詩「ここ」

今日もまたはじまった
朝焼けに包まれて
わたしの肉体がよじれる
わたしはここにいるよ
ここで泣いているよ
叫ぶことも許されぬ静謐のお堂で
またあなたに巡り会う機会を雫に例えている

今日もまたおわる
夕焼けは生贄の色
わたしの肉体も融解する
わたしはここにいるよ
ここで笑っているよ
叫ぶことも許されぬ静謐のお堂で
また知らぬうちに生きるあなたを痛感する

詩「或る文」

詩「或る文」

いかがお過ごしですか
まう最後にお会ひしてから随分と経つやうです
何時からか貴方の微笑みは寂しいものとなり
最終的に私が貴方から一つの安らぎを剥奪したと気がついたあの日
さういふ地獄もあるものだなと
愛染明王の御前にぬかづきたい心地でした
現在の私は貴方の面影を私の中に探しながら
自らが作つた現実と対峙するといふ矛盾を生きてゐます
確かなことは私にやり直したい過去はありません
そして過ぎ去りつつあ

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詩「レール」

詩「レール」

雨粒が電車の窓に爪を立てる
みんな神に導かれたみたく
真剣に見つめている
わたしは句読点のないお手紙を
じつは色んな人に出したくて
美しい便箋を溜め込んでいる
ムラのある筆圧も怖がらないで

お金を稼いだら社会になっていく
わたしは胃もたれにやられてる
わたしの鱗の一等綺麗なやつを
あなたの痛みと交換してください
それが何よりの誉れであると教わったから
いつか星座の連なりのように
あなたとあなたに

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詩「不足」

詩「不足」

何を考えても全部足りない
わたしやあなたを傷つけて
もう身動きがとれなくなる
雨の前の青い匂いは土に注いでゆくよ
わたしも好きな季節と溶け合うよ
笑顔と泣き顔の狭間で
また足りない考えで
あなたとわたしを包みたくて

何を言っても全部足りない
私の気持ちも解らないから
あなたに伝わることもない
雨の後の赤い泥濘に足を取られて
わたしは舌を噛んでばかりいる
楽園と地獄の狭間で
また足りない言葉を紡ぐ

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詩「でん」

詩「でん」

でんでんでん
しあわせでんでん
でんでんでん
ふしあわせでんでん
でんでんでん
かねもちでんでん
でんでんでん
びんぼうでんでん
でんでんでん
やさしいでんでん
でんでんでん
つめたいでんでん

たくさんくらべはするけれど
でんでんはずっとつづきます
しらんかおしてつづきます
どこふくかぜでつづきます
やまからみずがしみましょう

でんでんでん
でんでんでん
でんでんでん
でんでん

詩「リーラの詩」

詩「リーラの詩」

甘美な風に誘われて
わたしいま藤棚の下
生キャラメルに凝固した
香りを一身に受けています
最後に見たあなたは
絶望のスポットライト浴びて
力なく笑っていました
脳みそのしわに吸われたその相はリフレイン
花序のゆらぎは振り子のよう

記憶のしっぽが遺影になって
この藤の花をレイにして
石のようなあなたにかけましょう
たぶん涙もこぼさないと思います
はたまたすべては石であり花であるため
わたしは呼吸も

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詩「いのる」

詩「いのる」

言葉よ
詩(うた)よ
わたしは口ずさむ
わたしの白くすべやかな命が
やがて花弁の結晶となって
あなたの心に芳香を満しますように
あなたから頂戴した水菓子が
わたしの喉をたしかに潤したとき
わたしは無始無終の祈りに至りました

気流よ
風よ
わたしは沈黙する
わたしの永遠を約束された命が
やがてテトラポッドに寄せる波となって
あなたの心にワルツを宿しますように
あなたから頂戴した綿菓子が
わたしの心

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詩「外道ら」

詩「外道ら」

横浜線の三人掛けシートの隅っこで
花見名残の缶酎ハイ飲むおじさんと
春月下風邪を拗らせて咳き込む私は
忌むべき存在として生きる仲間なり
なんてったっておじさんも私も臭い
誰も座らぬ隣の席に透明のたれぎぬ
花も散り月も隠れたのにこの二人は
いつ迄も肩身を狭くして揺れている
言葉も視線も交わさぬまことの同盟
世界よこの外道らを見放し給え頼む