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【ドラマで見る女性と時代】その4の玖 『光る君へ』~もう戻れはしない遠くへ行く者達~(2024年)

 予想外の展開でたびたび心を抉ってくるのが今作の大河ドラマ。
 第九話では、『 裏切 』がテーマと言ってもよいほど、誰かが誰かの心に踏みにじる様相が描かれた。

 ひとつは、帝を退位に追いやるための安倍晴明の策略。
 そして、もうひとつは、直秀と散楽仲間達の最期だ。


 今回も女性は全然関係ないドラマ感想文となりますが、この哀しい裏切りの連続劇を語らずにはいられないのです。


※見出し画像は、京都にある廬山寺の写真です。




花山天皇の純情を利用して退位に追いやる非道な策略


 花山天皇(本郷奏多さん)は、自分にまっすぐ尽くしてくれる人には愛や恩義を素直に抱く。
 どんな時でも自分を見放すことなく、勤勉に勉学を授けようとしてくれた藤原為時(岸谷五朗さん)に厚い信頼を寄せる。
 入内した忯子よしこのことを、今までの女性関係では見られないほど深く深く愛し続ける。彼女の死後も、他の女に簡単に気持ちが移ろうことはない。

 そんな花山天皇が、右大臣・藤原兼家(段田康則さん)から暴行を受けたと兼家の次男・道兼(玉置玲央さん)から腕の傷を見せられる。兼家への反感も大きく手伝い、心の底から道兼に同情して傷に触れ寄り添う。
 が、これは花山天皇の譲位を企む兼家と道兼の策略。
 道兼は、帝の自分への信用を勝ちとり懐深くつけこむために、自らの身体を傷つけ帝の前で芝居をうったのだ。

 忯子を成仏させるには帝が出家するしかないと、譲位にグルになっている安倍晴明(ユースケ・サンタマリアさん)に言われると、何でもしてやりたいとそれに応じてしまう花山天皇。
 そして、道兼は花山天皇とともに出家するかのごとき態度で一緒に寺に向かったものの、予定どおり彼を裏切り兼家の元へ帰る。道兼の裏切りはドラマにおける作り話ではなく、語り継がれた残念すぎる史実。
 花山天皇のみが、内裏には二度と戻れぬ身となるのである。
 

 今作のドラマでは、この譲位のための一連の謀り事は、安倍晴明の案を兼家が買い上げて実行している。
 よくできた策ではあるものの、純粋な人につけこみ裏切るというのは、見ていて心苦しく決して晴れやかな気分にはなれない。


所詮は『 貴族 』だった道長


 右大臣家に窃盗に入った直秀(毎熊克哉さん)と散楽仲間は、屋敷の武者たちに取り押さえられる。
 道長(柄本佑さん)は、直秀たちが入れられた牢獄の看督長に金を渡し、処分を軽くするよう頼み込む。
 盗賊ならば腕の一本でもへし折って二度と罪を犯さないようにすると豪語する看督長から、直秀たちを助けるつもりだったのだ。

 流罪という処分に決まり牢獄から出された直秀たち。
 しかし、彼らが連れて行かれたのは、鳥辺野とりべのという屍を棄てる山中だった。

 直秀たちの行き先を知り、大急ぎで駆けつける道長とまひろ(紫式部・吉高由里子さん)。
 しかし、時すでに遅し。
 身体と腕を縛る縄は解かれることのないまま、全員命を奪われてしまっていた。
 直秀たちの無残な姿に、二人は驚愕し言葉を失う。

 盗賊として捕まる前から、都を出て遠くの国へ、海の見える国へ行くとまひろに告げていた直秀
 そんな彼が旅立ってしまったのは、それよりもっともっと遠くの国という残酷な末路となってしまった


 道長とまひろは素手でひたすら穴を掘り、夕暮れまでかけて皆の亡骸を埋める。
 自分が処分に口を出すような余計なことをしたからこんなことになったのだ、と大声を上げて泣きながらまひろにすがりつく道長。
 彼の背中と深い哀しみを覆うように抱き締めるまひろもまた、深く深く傷つき涙にくれていた。

 金をやれば言うとおりにするはずだ。
 そう見込んだ道長は、結局は金がものを言う、金をやれば命令や頼み事を聞くはずだと信じている、まだまだ甘い貴族の若者だった。

 道長を裏切った牢獄の看督長たちは、陰で道長を、藤原をさぞ馬鹿にして笑っていたことだろう。貴族の奴らめ、金で何でも言うことを聞くと思ったら大間違いだ、と。

 騙し合い、裏切り、権力の奪い合いのこの時代、金なんて絶対ではない。金で人が動くとは限らないのだ。
 さらに、今は味方と信じる者が明日には裏切るかもしれない日々。
 そのことは、父・兼家や兄・道兼を見ていれば嫌でもよくわかる。

 本当の信頼とは、お互いの心の中にしかなく、物や金や立場では決して保障されるものではない
 目に見えない、形にもできない。さらに、簡単に人の心は移ろう。
 何とも頼りないものだろう

 そんな四面楚歌のような気分に常にならざるをえない世の中で、道長が不安なく信じて心を許すことができる唯一の存在が、まひろだった。

 この物語における道長とまひろの結びつきは、初恋同士から、世知辛いもの、醜いものを共に体感・共感することで、より一層強まってゆく。  
 不穏な平安の世を道長が治め、そしてお互いが命を終える時まで、二人はひたすらに信じ合いながら生き続けてゆくのだろう。



 以上が、第九話『 遠くの国へ 』感想であります。


前話の感想です。
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