スイートルームは甘~い部屋?!(⑨オートクチュールな彼女はチーププレタポルテな自分に興味津々)

相変わらず、皇族が御召しになられるようなオートクチュールを颯爽と着こなすお嬢と高級ホテルの同じ部屋に泊まった。

部屋に入ると、大きな部屋のまわりにベッドルームがいくつもあった。

「もしかして、『スイートルーム』ってヤツ?!」

「そうだけど」

「見て回っていい?」

「どうぞ」

お嬢は不思議そうな顔をしながら、ソファーに腰を下ろした。

いちばん近くのドアを開けると、ほのかに薔薇の香りがしてきた。なるほど、ツインベッドの間にあるテーブルの花瓶には薔薇が飾られていて、シーツや枕カバーが薔薇柄だった。飾られている絵画は、どこかの薔薇園でロングドレスに身を包む娘たちが戯れていた。

(この部屋はさながら『薔薇の間』だ)

別の部屋を開けると、また別の甘い香りがフワッとした。白い百合の花が飾られて、シーツも枕カバーも家具も白のレースを基調としていた。

(ここは『百合の間』)

3つ目のドアを開けると、今までとは様相がガラッと変わり、前衛的な抽象画が飾られ、シーツや枕カバーも原色が使われていた。でも、それが不思議と調和されていて、決して下品になっていないのだ。

(ここは『ピカソの間』)

バスルームも3つずつあり、『薔薇の間』と『百合の間』と『ピカソの間』にそれぞれ合わせてあるらしかった。

6人家族や 6人グループで泊まるところ、2人で泊まるなんて贅沢だよね?

いちばん大きな部屋に戻ると、お嬢に聞いた。

「6人?」

お嬢は目を白黒させている。

ツインベッドルームが3部屋だから、合計6人でしょ?

「1人か2人で利用する人が多いと思うわ」

「えっ?!  えっ?!  ちょっと待って!  それじゃあ、数が合わないじゃない?  1人だと2部屋5ベッドも余ってしまう。それとも、1人でこの部屋に泊まったら、4時間毎に部屋を変えたりするの?  お風呂は3ヵ所入って、湯巡りの旅でもするの?  それは、それで素敵だけど。それで、トイレは1回ずつ使用して」

「あ、あの、旅先で『枕が合わない』なんて経験ないかしら?」

お嬢は苦笑いを浮かべながら、質問をしてきた。

「あるある!  高かったり、低かったり、硬かったり、柔らかすぎたり」

「そうなのよ。  好みやその日の気分や体調により、枕だけでなく、部屋やバスルームを選ぶのよ」

「ああ、なるほど!  3部屋の中でいちばん居心地が良いと思った部屋に寝たり、お風呂に入るのか!」

「そうね」

「でも、意味がわかっても、やっぱり、もったいないと思ってしまう」

頭では理解できても、心の奥底にはストンと落ちなかったのだ。

*  *  *

「おはよう」

「おはよう」

「あらっ、なんだかお疲れみたいね。部屋が合わなかったのかしら?」

お嬢が『薔薇の間』を選んだので、わたしはそれ以外の部屋を使ったのだ。

「『百合の間』の右ベッド→百合のバスルーム→『ピカソの間』の左ベッド→ピカソのバスルーム→『百合の間』の左ベッド→薔薇のバスルーム→『ピカソの間』の右ベッド、その合間にトイレもすべて利用して、引き出しに入ってる便箋やペンで物書きをしたり、クローゼットや玄関にある道具も使ったり、紅茶やコーヒーも全種類飲んで。ああ、そうか、コーヒーで眠れなくなってしまったのか」

「わたしが寝ている間にいろいろあったみたいね」

お嬢は、目を丸くしていた。

「ところで、『薔薇の間』や『百合の間』は香りや雰囲気が甘々だけど、『ピカソの間』だけなんで甘くないの?

「逆に、なぜ『ピカソの間』は甘くないといけないのかしら?」

だって『スイートルーム』でしょ?

お嬢が息をのむのがわかった。

『スイートルーム』の『スイート』って、『sweet』じゃなくて『suite』だからね

「はあ?!?!」

「もちろん『suite』の意味はご存知よね?」

「ハハハハハ」

「んもうっ!」

それから、

「あの部屋の絵画は、ピカソ風ではなく、バスキア風だと思うわ」

と、お嬢から聞いたので、

「高級ホテルのスイートルームなんだから、バスキア風じゃなくて、本物を飾ればいいのにね

と言ったら、お嬢の目がまたしても白黒しだしたのだった。

※『suite』:「ひとそろい」「一組」「特別室」「一続きの部屋」など

※前澤友作氏が落札したことでも有名なバスキアの『untitled』は、その額123億円です。

先日締め切られた『創作大賞2022』の応募を切っ掛けに、久しぶりに『オートクチュールな彼女~』の新作を書きたくなったので書いてみました。スキハートマークをクリックしてくださると嬉しいです。最後まで読んでくださって、ありがとうございます。

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