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【ショートショート】未開封の症状

「ちょっと早いけどクリスマスプレゼントです。受け取ってください」

つい1ヶ月前まで同じ部活だった男の子が、昼休み中にミアの教室に来て、ビニールに入った箱を差し出してきた。ミアがキョトンとしていると

「壊れやすいので扱いには注意してください」

と言うと、その箱を机の上に置いて出て行ってしまった。

(壊れやすいって、ケーキかガラスでも入っているのだろうか)

クラスメートたちは、一見興味がない素振りだったが、みんな目の端に意識を集中させている気がしたので、その場で開封するのは止めた。

箱を慎重に持ち帰ると、ビニールから出し、箱を覆っている紙を丁寧に開けた。厚紙でできた箱のフタを開けると、中からメッセージカードが出てきた。

『念のため、プラスチックの箱は開封しないでください』

「意味がわからない」

ミアは困惑したまま、厚紙でできた箱から、プチプチで覆われたプラスチックの箱を取り出した。

「なんで?!  どういうつもり?!」

透明なプラスチックケースの中に入っていたのは、花だった。

ミアは子どもの頃から花が大好きだった。それは、母が庭で花を育てたり、家中に花瓶に活けた花が多い家庭環境で育ったのが大きいと思う。

大きくなるにつれ、有名な庭園に遊びに行ったり、生け花やフラワーアレンジメントを習うようになった。

進学した高校は普通科だったが、有名な園芸部があるのでその高校を志望したのだ。

ところが、2年の途中から、鼻水・咳がよく出るようになった。最初は風邪かと思っていたが、発疹や呼吸苦にも悩まされるようになってきた。

病院でいろいろ調べてもらったところ『花粉アレルギー』だとわかった。

「薬である程度抑えられますが、いちばんの予防法は、花粉を極力吸わないようにすることです」

医師からそう言われて、母は、花粉が出る植物を庭からすべてなくし、家中の花はすべて造花に変わった。

加えて、一つ300円以上もする高いマスクを着けるようになったが、それでも隙間や繊維から微量に入ってくるらしい。

寝ている間に、無呼吸になっていると母から教えられて、泣く泣く園芸部は退部した。

「これ、もしかしたら」

透明なプラスチックケースの中の花を見つめた。

「園芸部で育てた花?  一体、どういうつもりなのかしら?」

持ち上げて裏からも見ようとしたとき、底の部分にもメッセージカードがあるのに気づいた。

「もう、なんなの?!」

『プリザーブドフラワーだと水をやらなくても枯れにくいし、花粉症の心配もいらないです。買うと高いので、園芸部の花でプリザーブドフラワーを手作りしました。手作りなので、万が一、花粉が残っているかもしれません。念には念を入れて、箱は開けない方がよいと思います。』

グスン、グスン

ミアの目からは涙が溢れ、鼻水が止まらなくなったが、それは、きっと花粉症ではないと、ミアは確信していた。

(終わり)

マスクの箱から『症状』を、アイスクリームのピノの箱から『未開封』を、それぞれ無作為に抽出して、今回のショートショートを作成しました。

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