江戸時代の人も本に落書きしてた「北斎ブックワールド ―知られざる板本の世界―」展@すみだ北斎美術館
読書の秋ですね。突然ですが皆さん、絵本や教科書に落書きしたことはありますか?
私は小さい頃ハリー・ポッターシリーズが大好きで(発売日に本屋で並んだリアルタイム世代)、『幻の動物とその生息地』の後ろのページにあったメモ欄に各登場人物のメモ(「ロンは字がきたない」とか)を書き殴っていた記憶があります。中学生くらいになってから落書きの存在を忘れてその本を友達に貸し、返してもらう時にすっごいニヤニヤされました。屈辱。
今回は、浮世絵好きはもちろんだけれど、読書好きの人、ひいては昔教科書に落書きしたことのある人全員におすすめしたい、すみだ北斎美術館「北斎ブックワールド」展(9/21~11/27)について書きたいと思います。
「北斎ブックワールド ―知られざる板本の世界―」展
「板本」とは、版木に文章やイラストを彫ったものを印刷し、本の形に綴じたもの(「版本」とも)。現在「浮世絵」と聞いてイメージされるのは一枚絵ですが、それらは板本のイラスト部分が独立したものと考えられているそうです。
板本の挿絵画家として、葛飾北斎やその弟子をはじめ多くの浮世絵師が活躍しました。
「北斎ブックワールド」展は、そうした板本にスポットをあて、その魅力を紹介する展示です。
展示構成
展示前半は板本の基礎知識や絵画表現を紹介
展覧会第1章「板本の基礎知識」では、板本の各部位を示す用語や綴じ方などがキャプション+実物で丁寧に解説されています。実物を見ながらの解説だと本当にわかりやすい……!
ちなみに同館で同時開催中の「隅田川両岸景色図巻(複製画)と北斎漫画」展では、北斎が手掛けた板本の複製を手に取ることができます。「北斎ブックワールド」を観てから行くと、「これが題簽! こっちは匤郭!」と覚えたての単語で思わず指差し確認してしまう楽しさが味わえます。
第2章「板本に関するトピックス」では、絵師がこらした挿絵の工夫などが紹介されています。
同じ板本でも初摺か後摺か(今で言うと初版か第2版以降か、みたいな感じでしょうか)で絵柄にバリエーションがあったり、題名が全く違うものに変えられていたりして、ややこしすぎる、板本研究者めっちゃ大変やん……と頭が下がる思いになりました……
読者の痕跡:推しへの声援
展示で一番面白かったのが第3章「所蔵者・読者の痕跡」。数百年前に出版され、現在美術館に並ぶ前に何人もの手にわたった本。その間に、ページの隅の書き込みや、あるいは何度も繰られたことによる汚れなどなど、当然読んだ人の痕跡が少しずつたまってきます。
展覧会では蔵書印など色々な痕跡が紹介されていますが、特に貸本屋が所有し、多くの人が読んだ本のものが面白かったです。
借りた人が葛飾北斎の挿絵を真似て裏表紙に書き込んだ落書きがあったり、悪役が主人公に奇襲を仕掛けるが主人公は既に逃げた後……というシーンに「(悪役)ざまあみろ」という書き込みがなされていたり。推しへの応援があふれ出してしまった感じでしょうか。
悪役の顔部分だけ磨り潰されて見えなくなっている本もあり、なかなかの主人公への愛の重さです。強火がすぎる。
他にも、「貸本屋の料金が高すぎる。もう払いません」と、その貸本屋から借りた本に書くふてぶてしさは最早あっぱれ。この本、どんな顔して返したんでしょうか。
貸本屋側としては落書きはもちろんダメなので、「やめてください」と直球に書いたり、和歌の体裁をとって詠んでみたりと苦心していた様子も併せて展示されています。
本にのめり込んで思わず推しへの応援を書き込んでしまういじらしさ、「高すぎ」といけしゃあしゃあとレンタル品に書いて寄こしてくる逞しさ。
板本のちょっとした書き込みを一つ一つ紹介する展示で、その痕跡の主の人間らしさが鮮やかに浮かび上がります。親しみがわくというか、全員と友達になりたい気持ち。
第4章「板本の優品」では多色刷りの華やかな板本や、現存例が少ない珍しい本などが展示されており、きらびやかさを楽しめます。
教科書に落書きしたことのある万人におすすめ
「北斎ブックワールド」展は、板本を通じて江戸時代の人々がどのように読書を楽しんでいたのかを知ることができる展示でした。
ふだん美術館にあまり行かない、あるいは日本美術はそんなに……という方でも、かつて歴史の教科書の肖像画ぜんぶに口ひげを描いたことのある人は全員楽しめるのではないでしょうか?
読書の秋、「北斎ブックワールド」展で「江戸時代の人ってみんなこういう形の本読んでたんだな~」と観て回るのも楽しみ方の一つかもしれません。11月27日(日)までの展示ですのでぜひ!
余談:妹島和世設計の建築も見どころ
すみだ北斎美術館は建築も特徴的で、アルミの塊にスリットが入ったようなシャープな印象です。設計者は金沢21世紀美術館を設計したSANAAのメンバーの一人、妹島和世さん。
国技館のほど近く、東京の下町に突然現れる金属壁が目を惹きますが、建築コンセプトとしては下町の風景を反射し、周囲に溶け込むことを目指したものだそうです。入り口前には公園が広がり、昼下がりには学校帰りの子どもたちが遊ぶのどかな空間になっていました。
内部からはスリットにはめ込まれた隙間から東京スカイツリーが見え、土地を活かした建築になっていることを感じます。すみだ北斎美術館、国技館に相撲観戦のついでに足を伸ばすと楽しいかもしれません。
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