マークの大冒険 フランス革命編 | もうひとつのフランス史 ナポレオンとの共闘
時は、1798年___。
フランスの軍人ナポレオンは英国を牽制するため、エジプトへの遠征を計画した。彼はその大遠征に数百名にも及ぶ学者集団を引き連れていった。
歴史・文化を高く評価していた彼は、戦争と同時にエジプトの歴史と文化ついての探究を試みたのである。こうして誕生したのが『エジプト誌』である。この書物はエジプト学に多大な影響を与えるものであり、現在でも一級品の資料として評価されている。
そんな中、ナポレオンによってエジプトの案内役を頼まれた冒険家マークは、彼らと共に三大ピラミッドで著名なギザに赴いていた。
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「さあ、大ピラミッドまで案内してくれ、マーク。人間の叡智の結晶を拝めようではないか」
「ボナパルト、内部は暗く狭いが、着いて来れるかな?」
「朝飯前だ。ピラミッドなど恐れるに足らない。そんなことより、パリに置いてきたジョゼフィーヌのことがいつ何時気になって仕方がない」
「キミがぞっこんの嫁のことか?」
「そうだ。今日も手紙を書かないとな」
「キミは一途だな」
「ジョゼフィーヌは完璧なんだ。他の女性に興味が持てなくなるほどに」
「まあ、そういう男は嫌いじゃない」
「お前にはいないのか?そういう存在が」
「ボクはカネにしか興味ない。だからカネのない奴とは仕事も組まない」
「そうか。だが、間違ってはいない考えだ。己の目標に対していかに徹底し、冷酷になれるか。それが目的を果たすために必要なことだ。そういう男は嫌いじゃない」
「でも、カネは手段であって目的じゃない。その先に真の夢、信条がある」
「ほう、気高いな。その言葉、私もどこかで使わせてもらおう」
「最後にもう一度確認だが、報酬は約束通り日当10フラン。その他、難しい仕事をこなす必要があれば、別途追加の支払いを要求する」
19世紀初頭フランスの給与
当時の貨幣価値を現在の日本円に換算することは極めて難しい試みだが、文献を基に試算すると1フランが約5,000円程度のイメージに相当する。
短期契約とはいえ、マークが要求した金額が一日10フランであるから、日当にして約5万円。当時のフランス軍の一般兵卒の給与と比較すると高額な要求金額であり、このギャラは大学教授や中級クラスの役人など、アッパーミドルの者たちの給与に相当する。
19世紀初頭フランスの日当に関しては、雇われ農民が約1〜2フラン、職人が約3フラン、職人でも親方クラスになると約6フランの収入があった。また、フランスにはいくつかの貨幣単位が存在したが、換算レートは下記となる。
1リーブル=1フラン=20スー=100サンチーム
19世紀初頭フランスの貨幣
ナポレオンが1811年に発行した5フラン銀貨。直径37mmに及ぶ大型銀貨で、重量は25gある。ナポレオンの凛々しい表情がとても美しい。世界的に高く評価されているアンティークコインのひとつである。
ナポレオンはフランス革命の混乱を収拾し、軍事独裁政権を掌握した。その後、自らが皇帝に君臨する。ルイ16世が処刑されたことを考慮し、前の君主とは異なるという意味合いも兼ねて、敢えて「王」ではなく「皇帝」という称号を用いた。
また、エジプト遠征の際、彼の部下がロゼッタ・ストーンを発見したことは有名である。だが、惜しくも英国に敗北し没収される。それゆえ、ロゼッタ・ストーンは現在、大英博物館に収蔵されている。
ナポレオンがピラミッドの中で泊まり、恐ろしい夢を見たという話があるがこれは創作である。彼は共に連れて来た学者の希望でギザに訪れており、ピラミッドには2時間ほどしか滞在していない。実際の彼は内部を這いつくばって進むのを嫌い、中には入らず、手前で待機していた。彼の部下は内部に入り、落書きを残している。ナポレオンがマークに案内されて、もしピラミッドに入っていたらというifエピソードであるため、「もうひとつのフランス史」という副題を付けている。
「ああ、分かっている。いろいろなものを見せて、私を楽しませてくれ」
「最初に言ったように研究調査の他、必要であれば前線でのバックアップにも協力するが、殺し合いには付き合わない。それはキミらの方で勝手にやってくれ」
「それも分かっているさ。学者連中にそこまで要求はしないし、期待もしていない。だが、バックアップは頼もしい。働きぶりを期待している」
「それで報酬についてだが、あまり傷のない金貨と銀貨で受け取りたいんだが。できれば、UNC以上の状態で」
「UNC?」
UNC(ユーエヌシー / アンク)
貨幣の状態を示す用語。アンティークコインの世界で用いられる言葉で、「Unicirculated」の略表記。日本語の「未使用」に相当する。製造当時のコンディションを保った未流通のものを指す。だが、アンティークコインの場合は未使用といっても一般の感覚とは差異があり、大抵の場合、製造・運搬過程で発生する傷、経年劣化によるトーン(錆)などがある。
「いや、何でもない。こっちの話だ。気にしないでくれ」
「貨幣の傷が関係あるのか?品位と重量があっていればいいだろう。問題なく使えるはずだ」
「どんなものも綺麗なことに越したことはないだろう?街も、美術品も、女性も」
「まあ、それもそうだな」
「そろそろだ。近づいてきた」
「いよいよか」
砂漠をしばらく歩いていたマークたちは、ようやくクフの大ピラミッド前まで辿り着いた。照りつけるような日差しが眩しく、その暑さは立っているだけで体力を奪っていく。入口に到達すると、マークとナポレオン一向は、ランプを片手にぞろぞろとピラミッドの中に入っていった。
To Be Continued...
マークの豆知識
ギザのスフィンクスの鼻はナポレオンのエジプト遠征の際、彼の部下が銃撃訓練の的にして破壊したというエピソードが有名である。だが、実際は1378年頃にスーフィー教徒によって既に破壊されており、フランス軍が赴く400年前になくなっていた。スフィンクスの鼻をよく観察すると、ノミで削り取られた痕跡が確認できる。文献でなく、考古学的実証が大切であることの実例のひとつである。
Shelk 🦋
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